( 316743 )  2025/08/17 03:36:25  
00

イベント時には混雑する東京ドーム(muroro / PIXTA) 

 

「突然、強い衝撃を受けて転倒し、頭を打ちました」 

 

今年7月、東京ドームで開催されたライブに娘や友人と参加していた女性が、会場を出た直後に「ぶつかりおじさん」から暴力を受けたという。 

 

女性は、後方から来た見知らぬ男性に左側から突き飛ばされ、転倒したとうったえる。首や肩などに全治2週間のケガを負い、頭部への後遺症も懸念されている。 

 

転倒後、その場から逃げようとした男性を取り押さえたのは、周囲にいた女性たちだった。通報で警察官が駆けつける事態にまでなった。 

 

一体、何が起きたのか。被害に遭った女性Aさんに取材した。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香) 

 

事件が起きたのは、ライブの終了直後。混雑を避けるための「規制退場」がおこなわれ、Aさんは、ブロックごとに外へ誘導される流れで駅に向かっていた。 

 

「その日は約4万人が来場していて、ゲートから出た順に歩いていました。女性ファンが多いライブでしたので、周囲は女性ファンばかり。私もその流れに合わせて進んでいました」 

 

そのとき、左肩の後ろに強い衝撃を感じた。振り返ると、40〜50代の見知らぬ男性が立っていたという。 

 

「その後、もう一度、かなりの力で肩にぶつかられました。わざとだと感じたので押し返したところ、男性は舌打ちをして、左から思い切り突き飛ばしてきました」 

 

Aさんは、貴重品の入ったショルダーバッグと、ライブのグッズの入った大きなトートバッグを両肩にかけていたため、とっさに手をつけず、その場に倒れて、頭や肩を強く打った。 

 

現場は騒然となった。周囲の女性たちが駆け寄り、「頭を打っているので動かないでくださいね」「お名前言えますか?」と救護してくれた。 

 

転倒に気づいた友人が、とっさに男性の腕を掴んだが、それを振り払って、男性はその場から逃げたという。 

 

Aさんの娘や友人が男性を追いかけ、周囲の女性たちとともに取り押さえた。 

 

「男性はワイシャツ姿で、仕事帰りのようでした。『ごめんね!ごめんね!大丈夫?』と何度も謝ってきました」 

 

Aさんはその場で110番通報、警察官が数人駆けつけ、男性は警察署に連れて行かれたという。Aさんは現在、被害届の提出など今後の対応について弁護士と協議している。 

 

 

Aさんが自身の被害をXに投稿すると、「ぶつかりおじさん」ではなく「通り魔」「暴行事件」との声も寄せられた。 

 

また、「東京ドーム周辺で、自分も被害に遭ったことがある」という声もあり「イベント帰りの女性を狙っているのでは?」といった指摘もあった。 

 

一方で、Aさんに対する心ない投稿も届いた。 

 

「どうせ前方不注意。前を見て歩いていれば人にぶつかることなどない」 

「ぶつかったくらいで転倒するはずがない」 

「邪魔になるところにボサッと立っているこいつが悪い」 

「どうせ歩きスマホでもしてたんだろ」 

「ちょっと肩が触れただけで大袈裟に騒ぎ立てる当たり屋」 

 

過去にAさんが別の「ぶつかりおじさん」に遭遇した体験を投稿していたことを根拠に、今回の訴えを疑う声もあったという。 

 

それでも、Aさんは語る。 

 

「このようなケースに遭遇するかどうかは、住んでいる地域、外出先、外出する頻度、性別などにより異なると思いますので、すべての人に理解してもらうのは難しいと思いますが、実際に『ぶつかりおじさん』は存在しています。 

 

突然、避けられない被害に遭ってどうしたらよいのかわからず、泣き寝入りをしている方も多くいます」 

 

SNSでも度々話題になる「ぶつかりおじさん」だが、加害者に対して、民事、刑事両面で法的責任を問える可能性がある。 

 

まず、民事では、不法行為に基づく損害賠償請求や、治療費や慰謝料の請求が考えられる。 

 

ただし当初、謝罪していても、請求時に態度を変える加害者もいるため、被害者側の心理的負担も大きい。また、負傷の程度にもよるが、仮に請求が認められたとしても、金額が高額にならないケースも多い。 

 

刑事では、被害届や告訴状を警察に提出し、刑事責任を問うことも考えられる。これは当日だけでなく、後日でも問題ない。 

 

加害行為について、次のような罪にあたる可能性がある。 

 

・傷害罪(刑法204条):15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金 

・暴行罪(刑法208条):2年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金 

 

防犯カメラの映像が不十分な場合は、暴行罪となり、さらに初犯は「略式起訴」で罰金にとどまることもある。ただし、罰金刑でも「前科」となるため、再犯時には「拘禁刑」の可能性が高まる。 

 

なお、警察に告訴状を受理してもらう際には、弁護士の助力があったほうが、被害者の精神的な負担が軽減されるケースが多い。 

 

Aさんが遭遇したような「ぶつかりおじさん」の行為は、単なる接触ではなく、暴行に該当する可能性がある。通行人に対する複数の暴行容疑で大学准教授が逮捕された事例もある。 

 

一方で、被害者が声を上げても、適切な対応や救済につながらないケースも少なくない。 

 

今後、同じような被害を防ぎ、被害者が泣き寝入りせずに済むよう、現場での対応や警察のあり方、被害者支援の制度整備が、社会全体に求められている。 

 

弁護士ドットコムニュース編集部 

 

 

 
 

IMAGE