( 316828 ) 2025/08/17 05:17:00 0 00 中国の恒大集団は2024年1月、香港高裁から清算命令を受けた(写真:CFoto/アフロ)
2025年8月25日、香港証券取引所は中国恒大集団(Evergrande Group)の株式上場を廃止すると発表した。
これは、中国の不動産危機が依然として長いトンネルから抜け出せていないことを鮮明に示した。そしてさらに、日本へ大挙してやって来る中国人観光客への影響も――。
■中国にとって一企業の経営破綻にとどまらない恒大問題
恒大は2000年代、中国の都市化ブームを背景に急成長した。
地方都市で低価格の土地を取得し、着工前販売による資金回転を最大化しつつ、巨大プロジェクトを次々と立ち上げていった。
2009年には香港市場で巨額の資金を調達し、不動産事業からサッカークラブ、電気自動車まで事業を多角化。
しかし、この成長モデルは「借入による拡大」を前提としており、2020年に中国政府が導入した不動産業者の借入制限策「三条紅線」により資金繰りが急速に悪化した。
2021年には社債返済が不能となり、2024年1月には香港高裁から清算命令を受けた。
最終的な債務総額は3000億ドル(約49兆円)超に達したが、清算による資産売却額はわずか約2億5500万ドルと見込まれ、回収率は1%未満と推定される。
不動産が中国GDP(国内総生産)の約4分の1を占め、家計資産の約7割が住宅という経済構造の中で、資産価格の下落は消費の冷え込みを招く。
恒大の破綻は、一企業の経営失敗にとどまらず、中国が抱える構造的リスクを映し出す象徴的な「事件」となったのである。
ところで、ご存知の通り、日本では訪日中国人観光客が急増中だ。
日本政府観光局(JNTO)によると、2025年6月に日本を訪れた中国本土からの旅行者は約80万人で、前年同月比でほぼ2割増となっている。年初からの累計では470万人を超え、韓国からの観光客数を上回る可能性もある。
さらに、中国人観光客は一人あたりの旅行消費額が高く、観光庁の調査では2024年の平均は約20万円に達する。
免税店でのブランド品購入、家電量販店での大量購入、高級料亭での食事など、高単価消費が特徴だ。
この傾向は地方経済にも波及しており、北海道・九州・沖縄などでは宿泊客の3~4割を中国人観光客が占め、ホテル稼働率の上昇が設備投資や雇用増につながっている。
一方で、京都や浅草などの人気観光地では、交通混雑や宿泊費高騰、マナーを巡る摩擦など、オーバーツーリズムの問題も顕在化している。
観光による経済効果と生活環境への影響――観光地にとってはまさに痛しかゆしの状況だ。
恒大破綻による資産価値の下落は、中国の富裕層および中間層上位の家計に影響を与える。
この層は日本で高額消費を行う主要な観光客層であるため、訪日客数が増えても消費単価が低下する可能性がある。
これまで「爆買い」を行っていた旅行者の行動変化も想定されるし、中国国内で金融引き締めや送金規制が強化されれば、旅行資金そのものが制約を受け、観光消費全体の伸びを抑える要因となり得る。
また、中国経済の不安はアジア域内の株式・社債市場に波及し、日本の資本市場にも影響する可能性が大きい。
さらに、不動産分野では訪日観光客増加を前提とした開発計画の中に中国資本が関与する案件も多く、計画の見直しや中止に追い込まれる恐れもある。
増加する中国人観光客の陰で、香港市場から姿を消した恒大の上場廃止は、日本のインバウンド戦略の前提を揺るがす可能性があるのだ。
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