( 316868 )  2025/08/17 06:03:28  
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一般的な駐車場(画像:写真AC) 

 

 近年、都市部ではドライバーの駐車行動に男女差が見られ、その違いが注目されている。Agoora(東京都杉並区)が2023年2月に実施した「運転が苦手なドライバーに関する調査」によると、運転が苦手な場面として「駐車・車庫入れ」と回答した女性は76.2%で、男性の55.6%を大きく上回った。 

 

 この調査は、運転が苦手だと自覚する全国の男女1000人を対象に行われた。結果は、駐車に対する男女の意識差が明確であることを示している。さらに、女性は駐車場に対し、利便性だけでなく、防犯や停めやすさを重視する傾向が強いこともわかった。 

 

 こうした背景から注目されるのが 

 

「女性専用駐車場」 

 

である。安全性と利便性を総合的に考慮した設計が特徴だ。通常の駐車スペースが幅2.5m程度であるのに対し、女性専用駐車場では幅2.7m(8%増)以上を確保する施設もある。余裕のある設計により、車のドアを安全に開閉でき、乗降時の利便性も向上する。特に子どもを抱えた女性や妊婦にとって、大きなメリットとなる。 

 

 設置場所も考慮されている。女性専用駐車場は出入口付近の明るい場所に設けられ、 

 

・荷物運搬の負担軽減 

・防犯対策 

 

も同時に実施されている。防犯カメラや照明設備の充実もその一例だ。 

 

 このように、女性特有の駐車ニーズと不安が、女性専用駐車場設置の必要性を高めている。本稿では、その重要性について解説する。 

 

世界各国で広まっている女性専用駐車場(画像:写真AC) 

 

 日本における女性専用駐車場は、1980年代から 

 

「百貨店の立体駐車場」 

 

を中心に導入が始まった。背景には、女性の社会進出や消費活動の拡大がある。運転に不慣れな女性や妊婦を含む幅広い層の利便性向上を目的としている。 

 

 専用スペースは幅広で、安全性と使いやすさを両立させた顧客サービスとして定着した。特に都心部や地方の大型商業施設では、ピンク色の区画線で区切られ、不安軽減に寄与している。夜間の防犯対策として、明るく人通りの多い場所に設置する例も増え、利用者の安心確保に貢献している。 

 

 一方、海外ではドイツが先進的な取り組みを行っている。1990年代から各州が女性専用駐車場の設置を規制し、駐車場の 

 

「10%~30%」 

 

を女性専用に割り当てることを法律で義務付けた。防犯カメラなどの安全対策も法律で定められている。これは、ドイツの犯罪発生率が日本の約12倍と高く、女性が駐車場で犯罪被害に遭うリスクを軽減する必要があるためだ。 

 

 こうした日本とドイツの取り組みは、女性の社会的役割の変化や安全・利便性への多様なニーズに応えるものである。今後もさらなる発展が期待される。 

 

 

女性専用駐車場の課題とは(画像:写真AC) 

 

 女性専用駐車場は、安全確保や利便性向上を目的とした取り組みである。一方で、社会の中では議論が絶えない問題も存在する。 

 

 最大の論点は「性差別」であるとの指摘だ。女性専用駐車場の設置は、 

 

「女性は運転が苦手」 

 

という固定観念を助長しかねないとの批判がある。こうしたスペースは、無意識のうちに女性の運転能力に対する偏見を植え付け、男女間の不公平感を生む可能性がある。 

 

 また、運転技術や安全配慮は性別ではなく 

 

「個人差の問題」 

 

という考えから、性別による区分自体が不適切だという意見もある。 

 

 一方で、利用者からは安心感や利便性の向上を評価する声もある。特に夜間の防犯効果や建物出入口に近い立地など、女性の安全を考慮した設計が支持されている。しかし、こうした配慮を男女双方の公平性という観点でどう位置づけるかが課題となる。さらに男性からは 

 

「男性差別にあたる」 

 

との批判もあり、公共駐車場や商業施設での設置について法的正当性を問う声もある。これは、女性専用車両やレディースデーなど、性別によるサービス公平性を巡る議論の一環である。 

 

 実際には、女性専用といういい方ではなく、個人の技術やニーズに焦点を当て、 

 

・初心運転者専用 

・安全配慮が必要な人専用 

 

といった性別に依存しない区分への変更を提案する声も根強い。このように、問題は性差別の有無だけでなく、安全確保と公平性のバランスをどう取るかという点で重大な課題となっている。 

 

ドイツの男性専用駐車場(画像:Chrweb) 

 

 物議を醸す女性専用駐車場だが、今なお存在する理由には、女性ドライバーの増加も関係している可能性がある。 

 

 警視庁の「運転免許保有者数及び運転免許試験の実施状況」」によると、2020年末の運転免許保有者数は前年より約17万人(0.2%)減少し、約8199万人となった。このうち男性は約18万人減少したが、女性は 

 

「約1万人増加」 

 

した。構成率は男性54.4%、女性45.6%である。 

 

 男性の免許保有者が減少する一方、女性ドライバーは増加傾向にある。今の時代、「男性が運転して女性は助手席」という考え方は古い。実際、女性が自分で運転して買い物などに出かけるケースも少なくない。 

 

 こうした状況で、女性専用駐車場は女性ドライバーにとって非常にありがたい存在である。安心して駐車できるスペースや、犯罪防止のための施設・企業の対策は、さらに女性ドライバーの増加につながるだろう。女性が車で移動しやすくなれば、経済の活性化も期待できる。 

 

 とはいえ、女性専用駐車場という利用者限定に反対する声もある。今後は、ジェンダーレスを意識した名称や区分に変更し、利用者全体への配慮を進める必要がある。駐車場全体の使いやすさや安全対策を強化すれば、専用スペース自体を設けなくても済む可能性もある。駐車場が混雑しているとき、 

 

「専用スペースが空いていてもったいない。停められたらいいのに」 

 

と思った経験は多いはずだ。混雑時には一般開放や時間帯限定の専用区画とするなど、柔軟な対応で不満を減らすことができる。全員が納得できるルール作りが望まれる。 

 

木村義孝(フリーライター) 

 

 

 
 

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