( 316893 ) 2025/08/17 06:31:08 0 00 イメージ画像
結婚後の世帯年収、金銭感覚、生活費分担など――結婚生活にはお金の話がつきもので、ましてや結婚前にはさらに慎重に相手の考えを探る必要があります。青山で結婚相談所を経営する婚活カウンセラーの佐竹悦子氏に、ミドル世代の結婚事情で特に印象深かった事例を紹介してもらいます。
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日本では女性の高学歴化が進んでいます。戦後80年を経た現在、女性の大学進学率は1990年代以降50%を超えるようになりました。その背景には、少子化で親が子どもにかけられるお金が増えたことも影響しています。進学を願う子ども、それを支援する親。理想的な関係がある一方で、母親の強い意志に導かれるように進路を決めた女性たちもいます。今回はその一人の女性の話です。
娘の進学に特に熱心なのは母親です。60代後半以上の世代の女性たちは、かつて「女性は25歳までに結婚しないとクリスマスケーキと同じように売れ残る」と散々言われ、進学を諦めることも多くありました。
「娘には悔しい思いはさせたくない」。そんな時代を生きてきた女性は、娘が生まれたら自分と同じような悔しい思いをさせたくないと、娘の進学を後押ししてきました。
ある日、結婚相談所に鈴木美智子さん(仮名・40歳)の母親も、そんな中の一人でした。
医師の美智子さん自身はまだまだ仕事が忙しくて、結婚はまだ先でもいいと思っていたようです。一方で母親は娘の結婚を心配しています。娘は結婚のタイミングを逃してしまったと、自分たちではどうしたら良いのかわからずに、結婚相談所に相談に来られたのです。
後日、美智子さんのカウンセリングをしたのですが、私どもが驚いたことがあります。実は美智子さんは、医師になりたかったわけではなかったのです。
美智子さんの夢は専業主婦でした。
ところが、幼いころから成績が優秀で、母親から医学部進学を強く勧められました。医師になるのは、美智子さん自身の意思ではなく、あくまで母親の希望。美智子さんは、医師になれたことに後悔はありませんが、「専業主婦になりたかった」という思いは今も心の奥に残っています。家事をするのが好きですし、結婚して子どもを産み、学校から帰る子どもたちを家で迎える母親が、美智子さんの理想像だったからです。まさしく自身の母親のような人生に憧れていたのです。
「どのような結婚相手を望みますか?」とお聞きすると、決まって女性は「尊敬できる人」と答えます。この言葉はなかなか解釈が難しいのですが、多くの場合で、自分より年収の高い人という意味しています。
これが高学歴女性の結婚が難しくなる理由でしょう。医師の年収を上回る男性となると、相手はどうしても限られてしまいます。美智子さんは結婚相手に自分以上の年収は求めていなかったのですが、母親はそう思ってはいませんでした。
美智子さんを医師にしたいというのは、母親の希望でした。
幼い頃から、自分の進路については母親の言うとおりにするものだと思っていた美智子さん。学費の心配がなく、母親が示す道を歩むことに何の疑問も抱いていませんでした。子どもが自分の意思を親に伝えることは、実はとても難しいことです。多くの子どもは、母親から「この学校がいいよ!」と言われれば、その通りにしてしまいます。美智子さんも母親の勧められるまま中高一貫校に通い、医大へと進学しました。
もしかしたら、医師は美智子さんの母親の夢だったのかもしれません。母親の世代は、経済的な理由や周囲の無理解から、進学を諦めなければならない女性はたくさんいました。
一方で、母親の願いを叶えるため医師になったため、美智子さんの専業主婦になりたいという夢は諦めるしかありませんでした。だからといって、美智子さんが後悔しているわけではありません。医師はそうそうなれる職業ではありませんし、美智子さんは親から相当の経済的な支援を受けたことに感謝しています。
ただ美智子さんが40歳を迎えるにあたり、母親は「果たして、これでよかったのだろうか」と疑念が湧いてきたようです。医師にしたことで、母親にとっては当たり前だった結婚の幸せを娘から奪ってしまった気になったのかもしれません。
そして婚活は思いのほか苦戦しました。美智子さんは、これまでは才能と努力によって、人生を切り開いてきました。しかし、結婚は相手のいることです。自分がいくらがんばっても結果はついてきません。
「ずっと言われた通りに真面目にしてきたのに、こんなの不公平だわ」
自分よりも学歴や年収が低い女性たちが先に結婚していく姿に戸惑ってしまいます。
実際に美智子さんは婚活を始めて最初の数カ月、希望条件を「同年代の医師や弁護士など専門職」に設定していました。しかし、紹介されたお相手と会うたびに、「自分と同じぐらい忙しい人ばかりで、互いの生活がすれ違ってしまうのではないか」という不安を感じてしまったそうです。
そこで私どもは、美智子さんと再度話し合いを行い、あえて異業種の男性を紹介することにしました。最初は半信半疑だった美智子さんですが、実際にお見合いをしてみると、自分と違う分野の話が新鮮で面白く、気楽に会話ができることに気づきました。
特に印象的だったのが、あるIT企業に勤める同年代の男性とのお見合いでした。彼は収入こそ美智子さんより低かったものの、穏やかで家庭的な性格で、美智子さんの理想だった「家庭を温かく支えるパートナー」として申し分のない方でした。
婚活を通じて、美智子さんは「母が願った医師の道も悪くなかった。でも、これからは自分の望む人生を歩いていい」と、はっきり気づいたのです。そして、この男性となら「自分らしく仕事を続けながら、温かい家庭も築いていける」と前向きな気持ちになれたと話してくれました。
美智子さんのように、親の希望に導かれて歩む人生を選んだ人は少なくありません。美智子さんが母親にしてもらってきたことは、そのまま美智子さんが子どもに行う可能性もあります。ここで、高校のときは特に医師になりたいとは思っていなくても、後年立派な医師になった人の話をしましょう。
ある男性医師は、高校卒業時に医学部以外に入学しましたが、医師の父親から「医学部に入り、医師になれ。そのうえで向かないと思うなら医師を辞めてもいい。その時は自分の好きなようにしていいし、医師以外の仕事をすることも認める。でも今は医師を目指してほしい」と強く説得されて翌年医学部に入り直しました。
医師になることも選択肢になかった時もありましたが、今では親がすすめてくれたことに感謝しているそう。そして自分の子どもにも医師となってほしいと考えています。もし子どもが将来に迷うことがあれば、多少強引でも医師への道をすすめるとおっしゃっていました。
今回紹介した美智子さんも、専業主婦としての人生もあったのかもしれません。でも母親のすすめで医師として働く人生を歩んでいます。その裏には母親の思いがありますが、それは美智子さんにとって間違った選択ではなかったのです。美智子さんも母のように子どもの素質を見抜き、道を示していくかもしれません。きっと、自分がかつて感じた葛藤も、そっと寄り添う力になるはずです。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。
佐竹 悦子(インフィニ 結婚相談所インフィニ・青山結婚予備校 代表)
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