( 316903 ) 2025/08/17 06:44:39 0 00 自民党の臨時総裁選挙開催となった場合、石破首相の命運は?今後の日本株にも政局が大きく影響しそう(写真:ブルームバーグ)
今週(8月12日〜15日)の株価は絶好調であった。アメリカ株の上昇に牽引されて、日経平均株価もTOPIX(東証株価指数)も連日最高値を更新した。こういうときは得てして「理屈は後から貨車で来る」。専門家もいろいろと後講釈はつけてくれるが、まずはこの言葉を思い出すのがいちばんよろしかろう。
■結局「トランプ関税」が強気相場の出発点だった
① Bull markets are born on pessimism, (強気相場は悲観とともに生まれ)
② grow on skepticism, (懐疑とともに成長し)
③ mature on optimism, (楽観とともに成熟し)
④ and die on euphoria. (陶酔とともに終わる)
ペシミズム、悲観主義が蔓延したのは今年4月、ドナルド・トランプ大統領が相互関税を導入し、これぞアメリカにとって「解放の日」である、とぶち上げた瞬間であった。世界中の株価がざっくり1割程度調整し、世界経済の先行きに影を投げかけた。
ところがその後、「トランプさん、実はそこまでコワくはない」「市場には意外とフレンドリーかも」とだんだん雰囲気が変わり、いわゆる「TACOトレード」が浸透するようになった。今週も、本来は8月12日が期限となっていた米中の関税引き上げ停止措置が、さらに90日延期となったことが好感されて、爆上げの契機となった。
日米関税交渉で言えば、赤沢亮正・経済再生担当相の活躍もあって、親愛なる「ラトちゃん、ベッちゃん」のご尽力も得られ、「まぁまぁマシ」な対米条件を得られたことが大きかった。特に分野別関税における自動車関税を、25%から15%に値切ったのは殊勲賞というべきで、すかさずEUと韓国が同じ手口で対米ディールを決めた。日米韓のライバル自動車会社が同じ条件になるのなら、関税の被害はそれほど大きくはならないだろう。
ただし、こんな怪しげな話を素直に信じる人は少ないので、強気相場は「悲観とともに生まれ、懐疑とともに成長する」ことになる。そういう意味では、トランプ関税こそが今回のブルマーケットの出発点だったことになる。
加えて8月に入ってからは、①アメリカの7月雇用統計(8月1日)は予想外に弱く、関税引き上げの影響がぼちぼち出始めた様子だが、②同7月のCPI(消費者物価指数、8月12日)の上昇はそれほどではなかった。つまり雇用は心配になってきたが、インフレはそれほどではないということで、9月には待望久しい利下げが実現しそうである。スコット・ベッセント財務長官などは、「0.5パーセントの利下げが必要だ」などと言ってくれている。
景気後退が明らかになる前の利下げは、金融市場としてはまことにありがたい。すなわち強気相場が「楽観とともに成長する」段階が到来しつつある。ただしその先は、「いつか来た道」ということになるのであろう。わが連載パートナーである小幡績先生の言葉が重みを増すのは、もう少し先ということになりそうだ。
■市場は「石破首相交代」を期待して上昇
さて、筆者が気になっているのは国内政局である。今週の株高の一因となったのが、8月8日に行われた自民党の両院議員総会だ。久々に「自民党の知恵」を感じさせる動きがあり、お盆明けから今月末にかけて政治情勢が急展開を見せる可能性が出てきた。
7月20日の参議院選挙大敗を受けて、自民党内では「石破降ろし」が吹き荒れたが、今ひとつ決定打を欠いていた。何しろ日本国首相は、ご本人が「辞める」と言い出さない限り、周囲が引き摺り下ろすことができない仕組みになっている。
まして石破さん、「令和の三木武夫」とも言うべき粘り腰、もしくは鈍感力を発揮している。世論的にも「どっちもどっち」的な感覚があり、永田町では「
」デモが起きたりして、参議院選挙から3週間が経過してもなかなか方向感が定まらなかった。
自民党執行部は、7月28日には両院議員懇談会を開催した。これは議決権のない会合であって、要は党内の不満分子に言いたいことを言わせる「ガス抜き」の場であった。会議は2時間の予定を大幅に延長し、実に4時間半ものロングラン会合となった。
この間、一部議員からは正式な両院議員総会の開催を求める署名運動も始まった。すると森山裕幹事長は、署名の提出を待たずにあっさりと8月8日に両院議員総会の実施を決めた。
さすがにその場で「石破降ろし」はできないと見切ったのであろう。この時期、広島(8月6日)、長崎(8月9日)の平和記念日があり、8月15日には「戦後80年」の節目のときもある。お盆休みには議員さんたちが地元に帰って、あいさつ回りもしなければならない。8月8日は、「ほとんどここしかない」という日程であったのだ。
■「自民党党則6条4項」は「自民党総裁の解任」に近い規定
ところがこの会合で、両院議員総会長を務める有村治子参議院議員が、老獪な議事進行を見せたことで事態は予想外の展開を見せる。有村氏は自民党党則6条4項を持ち出して、「臨時総裁選」の実施に向けた意見を集約したのである。
自民党党則の6条1項は、「総裁は、別に定める総裁公選規程により公選する」とある。2項は総裁が任期中に欠けた場合、ちょうど2000年4月に小渕恵三首相が脳梗塞で倒れたときのようなケースに触れ、3項はその場合は略式の総裁選を行ってもいいと書かれている。
で、問題が6条4項である。ちょっとわかりにくいが、全文を下記しよう。
総裁の任期満了前に、党所属の国会議員及び都道府県支部連合会代表各一名の総数の過半数の要求があったときは、総裁が任期中に欠けた場合の総裁を公選する選挙の例により、総裁の選挙を行う。
この条文、何を言っているかと言うと、現職の総裁が辞めようとしなくても、党内過半数の同意があれば、臨時の総裁選を実施することができると定めている。この場合、現職総裁も出馬することができるが、党内の過半数が「辞めろ」と言っているような状態では、実際問題として勝ち抜くことは難しいだろう。要するに6条4項というのは、自民党総裁の解任措置に近い規定なのである。
実はこの条項、以前は自民党党則にはなかった。しかし2001年春に森喜朗首相があまりに不人気で、全国の支部組織から「森ヤメロ」コールが鳴り響いたことがあった。蛇足ながらこの年も今年と同じ「巳年」であり、6月の東京都議会選挙と7月の参議院選挙を控えて、自民党内には焦燥感が募っていたのだ。
このときは結局、森首相が辞任して、次期総裁に選ばれた小泉純一郎氏が国民的な人気となり、結果的に自民党は延命することができた。このときに「総裁のリコール規定を設けるべきではないか」との党内議論が起きた。とはいえ、自民党総裁を直接解任する党内規定を設けると、ときの日本国首相が政争で引き摺り下ろされる恐れがある。それはいかがなものかということになって、この臨時総裁選のルールが誕生したらしい。
■「総裁選挙管理委員会」に決断を委ねた有村総会長
さて、有村総会長の議事は巧みであった。両院議員総会は国会議員だけの集まりであるから、自民党の「都道府県連支部」の意見を集約できない。従って、その場で6条4項の実施を決定することはできない。ところが党則の6条5項を見ると、「前項の要求は、党本部総裁選挙管理委員会に対して行うものとする」と書いてある。
この部分、自民党ホームページの記述をお借りしよう (両院議員総会 「臨時総裁選」実施の要求確認を有村総会長が逢沢総裁選管委員長に申し入れ 2025年8月12日)。
発言した議員からは米国の関税措置といった現下の政治課題に切れ目なく対応するため、石破総裁の続投を支持する声がある一方、わが党の再生に向けた決意を広く党員・党友と共有するためにも、「臨時総裁選」を実施するべきとの声が多くありました。 これらの意見を受けて、有村総会長は「党則にある『臨時総裁選』の要求は総裁選挙管理委員会に対して行われる。この場で、逢沢委員長に対して、要求の確認を行うよう申し入れをしたい」と発言し、多くの出席議員もその意向に賛同したことから、正式に申し入れを行いました。
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