( 317038 )  2025/08/18 04:23:12  
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日本の漁業が危機的状況に 

 

 日本の漁業は、いま危機的な状況にある。漁獲量は1984年の1282万トンをピークに減少の一途をたどり、40年間で3分の1以下にまで下落(2024年は363万トン)。このペースが続けば、2050年には漁獲ゼロになる可能性もあるという。 

 

 世界全体で漁業生産量が増加する中で、日本だけが「一人負け」の状態だ。加えて、漁業の担い手不足もあり、政府は従事者支援に動きつつある。1980年代には漁獲量世界一だったにもかかわらず、なぜこのような状態になってしまったのか。『ABEMA Prime』では専門家に聞いた。 

 

世界と日本の漁業生産 

 

 日本の漁業や海洋生態系を研究する水産学者である、東京海洋大学の勝川俊雄准教授は、「天然資源は獲りすぎて魚がいなくなっていて、伸びしろがあまりない。世界の漁獲高は養殖で伸びているが、日本は養殖も1980年代から減少傾向にある」と説明する。 

 

 世界の水産資源管理に詳しく、持続可能な水産業のコンサルティングを行うFisk Japan株式会社代表の片野歩氏は、「北欧や北米、オセアニアの“漁業先進国”では、実際には2〜3倍獲ることができても、資源の持続可能性を考えて行わない。それが日本との大きな違いだ」と話す。 

 

 環境副大臣の小林史明衆院議員は、日本の課題として「漁獲を規制してこなかった点」と「養殖業に対する法人参入のルールを整理してこなかった点」を挙げる。「これをキチンと整理すれば、地方で稼げる水産業が出てくる。石破茂総理が“地方創生”を掲げているが、水産改革に触れられていないのが腹立たしく残念だ」。 

 

 現状のルールでは、「魚種ごとに漁獲量の上限が決められているが、対象となる魚が少なく、また上限が高すぎるため、結局『獲りすぎている』という議論になった」という。そして「直近の成功例では、マグロの漁獲基準を厳しくして、一定数が増えてきた。それでもまだ安心はできない。『漁獲量を減らせば、漁業者の収入が一時的に落ちる』として、漁業者と縁が深い政治家が反対する。その対策を準備するのがポイントだ」と語る。 

 

 勝川氏は「日本では漁業を邪魔しないように漁獲量の枠が設定されているため、頑張ってもそこに到達しない。漁獲実績の倍程度で、漁業にブレーキをかける機能を持っていない」と補足する。「ノルウェーでは、資源の持続可能性の観点から漁獲枠を設定している。がんばると2カ月程度で上限になるため、そこで漁獲をやめる。1年ずっと獲り続けても届かない枠は機能していない」。 

 

 また、「生産量を落とさないように資源量を維持する考えから、WCPFC(中西部太平洋まぐろ類委員会)という国際機関は、クロマグロの漁獲量を狭く定めている。その結果、絶滅危惧種だったクロマグロは、2017年から2023年の間に、生産的な水準まで回復した。日本の漁師は『枠がない』と困るが、枠がなくなって漁業をガマンするのは当たり前だ」 

 

 片野氏は「世界中で買い付けしたが、漁獲枠が設定されていない魚種は基本的にない。また、日本のようにTAC(漁獲可能量)と漁獲量が乖離することはあり得ない。日本は1996年にTACを導入したが、運用がかなり特殊だ。その結果、小さい魚まで獲ってしまい、いなくなってしまった」との現状認識を示す。 

 

 そして、「日本は世界6位のEEZ(排他的経済水域)を持っているが、養殖がうまくいかないため、2021年にノルウェーに生産量を抜かれた。EEZが日本の10分の1である韓国にも抜かれている」と、衰退する現状を伝えた。 

 

 

世界と日本の漁業生産 

 

 漁業権をめぐっては、「水産物は誰のものか」といった議論もある。「アメリカやEUでは、国民共有の財産だ。アメリカでは国民の負託を受けて、国が管理しているが、日本は国ではなく漁業者に任せている」。 

 

 この日本独特の制度について、勝川氏は「江戸時代に幕府が管理できず、それぞれの漁村集落に『浜の利用権はみんなで話し合って決めよう』となった。それである程度、機能してきたが、いまの漁村は人口減少で生産が成り立たなくなりつつある。今のままだと、どんどん日本の魚はなくなっていく」と解説する。 

 

 では、どのように解決すればいいのか。「やはり水産資源が回復できる水準まで、漁獲量を一時的に下げる必要がある。減船や減産、転職支援などで、適正規模まで産業を縮小させる。それを日本はやらず、『過剰なものを過剰なまま維持しよう』としている」。 

 

 片野氏は「科学的根拠に基づいて資源管理ができていないことが一番の問題だ。漁業法は2020年に改正されたが、運用が甘い。北欧並みにして、国際的に遜色ない資源管理システムの導入を目指さないといけない。ただ社会が理解せず、反対してしまう」と話す。 

 

 勝川氏は、日本には“問題先送り体質”があるとしつつ、「ちゃんと残せば早く回復する魚種も多い」とする。「東日本大震災で、一時的に三陸の漁業が低下した後、魚が増えた。何年か休ませるだけでも違うが、休む余力がない。『どうやったらできるのか』に社会全体として向き合わなければいけない」。 

 

 小林氏が「どうやったらできるのか」の策を示す。「漁を一定期間休んでもらう。場合によってはやめてもらい、退職金のようなものを出して、他の産業に移ってもらう。一方で、より大規模でやりたい人もいるが、『他の人たちがいるからやめて』と抑えられている問題もある」。 

 

 加えて、関係者からの反発もあり、「メディアの記者からも『そんなことを言うと、(漁網メーカーである)小林さんの実家の網は売れなくなる』と脅された。規制改革をするときは、それを怖れる人達が強烈に反対する」と振り返る。 

 

 片野氏は「ノルウェーの漁業が大成功したのは、補助金で休ませたからだ。ずっとお金を出すのではなく、一時的に補助金を使って休んでもらえれば、漁業は復活する」と前例を出しつつ、期待を込めた。 

(『ABEMA Prime』より) 

 

ABEMA TIMES編集部 

 

 

 
 

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