( 317068 ) 2025/08/18 04:57:49 0 00 参院選では敗北したものの、石破首相は続投を表明。しかし、それは石破首相にとって取るべき道だったのか。永田町のインサイド情報を、月刊文藝春秋の名物政治コラム「 赤坂太郎 」から一部を紹介します。
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首相経験者との面談を終えた石破首相 Ⓒ時事通信社
投開票日の翌日、石破茂首相は「比較第一党としての責任」「明日にも起きるかもしれない首都直下型地震」と手前みその屁理屈を並べて、続投を正当化した。「比較第一党」は幹事長の森山裕の入れ知恵で、石破は「そんな言い方もできるのですね」とすぐに飛びついた。「首都直下型地震」は防災に熱心な石破が自分で付け加えた。ピント外れの開き直りは、その思惑とは裏腹に、自らへの往復ビンタとなって返ってきた。
国民の反発を買ったばかりか、全国の自民党県連から辞任を求める声が相次いだ。だが、昨年の総裁選で争った茂木敏充や高市早苗の息のかかった県連が辞任を要求してきたため、石破は態度を硬化させた。
かくして、関税交渉の妥結後も、振り上げた続投のこぶしを降ろせなくなり、辞意表明のタイミングを完全に見失ってしまったのだ。
振り返れば、参院選で石破は誤算の連続だった。
物価対策の一律給付金に、石破はバラマキだと批判されると危惧していた。だが、公明党・創価学会の強い意向を受けた自民党選対委員長の木原誠二が譲らなかった。国民1人2万円に、子どもや住民税非課税世帯には2万円を追加して、「バラマキではない」と強弁したところで、その迷走ぶりは明らかだった。
野党は一斉に消費税減税を訴え、「日本人ファースト」を掲げてナショナリズムを扇動する参政党が自民党の支持層を削って足元を揺さぶる。そんな挟撃される展開も、想像さえしていなかった。
「48議席に届けば、(過半数を維持できる)50までは何とか埋められるかもしれません」
参院選での自公過半数割れが現実味を帯びてくると、森山は石破にこう囁いた。残る2議席をどう埋めるのか。
それは参院静岡選挙区選出で非改選の無所属、平山佐知子と、今回和歌山選挙区から無所属で出馬した望月良男の2人だった。
平山は民主党だったが、今は自民党に移った細野豪志と行動を共にして、民進党を経て無所属に。細野の引きで自民党会派に引き込めるとの感触を得ていた。望月は自民党公認の二階伸康に対抗し、世耕弘成の支援で立候補して当選した。
だが結果は自公合わせて47。1議席足りない。そこで比例代表で1議席を得た「チームみらい」党首のAIエンジニア、安野貴博に触手を伸ばしたが、一顧だにされなかった。
「いつまでも与党にいても、埒が明かない。ケジメをつけて、自民党は下野すべきだ」
「一度、野党にやってもらおうじゃないか」
参院選惨敗から2日後の7月22日正午過ぎ、首相官邸裏手のザ・キャピトルホテル東急の中国料理店「星ヶ岡」の個室に「六人組」が集まった。自民党の佐藤勉、古川禎久、木原(この日は欠席)、齋藤健、御法川信英、萩生田光一だ。それぞれ旧派閥やグループなどで要となる面々で、党内の大半を意見集約できる立場にある。小泉進次郎もメンバーだったが、農水大臣に就任したため、一時的に外れている。「比較第一党としての責任」などと勝手にハードルを下げて居座る石破への非難では収まらず、下野論まで話は及んだ。
だが、この下野論は野党への牽制が主眼である。総理の座を失えば、自民党は自壊する。首班指名選挙で野党が結束できない以上、次の自民党総裁が首相となる。しかし、野党の言い分を聞かざるをえない少数与党。にもかかわらず、国民の批判の矛先は自民党だ。ならば、日本維新の会であれ、国民民主党であれ、野党の方から自民党に協力を求めてくるべし、と野党にボールを投げ込んだのだ。
この会合の直後、佐藤が自民党本部の幹事長室に森山を訪ねて、石破は無論、執行部もケジメをつけて下野することを要求した。
「私もケジメをつけたいとの思いはありましたが、自分の口からは言えなかったのです……」
森山は下野論には答えず、自らの進退について、こう漏らした。だが、額面通りには受け取れない。石破は常々「私は森山さんに助けられている」と言って憚らない。自分が幹事長として支えなければ政権がもたない現実を誰よりも知っている。その本音は「石破が私を切れるわけがない」だろう。
ただ、石破にせよ、森山にせよ、いつまでも続投できると考えていたわけではない。
※本記事の全文(約5000字)は、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と「文藝春秋」2025年9月号に掲載されています(「 ポスト石破は『三次方程式』で決まる〈赤坂太郎 特別編〉 」)。
赤坂 太郎/文藝春秋 2025年9月号
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