( 317093 )  2025/08/18 05:28:03  
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外国人労働者向け集合住宅の建設予定地。奥に見えるのは羊蹄山=北海道倶知安町(ニセード・サービシーズ提供) 

 

世界屈指のスキーリゾートで知られる北海道ニセコ地域の一角、倶知安町で主に外国人労働者向けの集合住宅の建設計画が持ち上がり、町の行政委員会が全会一致で否決した。町によると、治安悪化への懸念が最大の理由で、開発計画が否決されるのは異例。ただ、ニセコでは冬季に人口が急増し、住宅不足も深刻になっており、今後の成り行きに注目が集まる。 

 

■住民「慎重な判断を」と要望 

 

計画によると、JR倶知安駅の南東約700メートルの市街地にある約2・7ヘクタールの農地に、リゾートで働く外国人従業員らが住む2~3階建ての共同住宅30棟を建設。想定される居住者数は町の人口の1割近い1200人程度を見込む。開発予定地は市街地に近い場所にある「第3種農地」で、事業者は今年7月、農地からの転用を町の農業委員会に申請した。 

 

町によると、今回の計画は周辺農地への影響や実現可能性など転用の条件をいずれも満たしていたが、近隣住民らが治安悪化への懸念などを理由に262人分の署名や要望書を町と農業委員会に提出。要望書には「住民の幸福という本質に立ち返り、拙速な開発ではなく、慎重で合意形成を重視した判断をしていただきたい」との記述もあった。 

 

委員会は7月31日の定例総会で今回の計画について議論し、住民らの要望も踏まえ、農地転用に反対する意見書を許認可権限を持つ北海道知事に送付することを議決した。関係者によると、許可、不許可の最終判断は10月以降になる見通し。 

 

開発を計画しているのは、シンガポールの投資会社が保有する同町の不動産会社「ニセード・サービシーズ」。同社によれば、建設予定地から約5キロ離れたリゾートエリアに集積するスキー場や宿泊施設で働く外国人労働者が主な入居者と想定し、レストランやバーなども入る計画があるという。 

 

■住宅確保「現実見て」の声も 

 

同社シニアプロジェクトマネジャーの近藤邦裕さんは「想定外の事態」と驚く。近藤さんによれば、昨年12月と今年5月に住民説明会を開き、開発計画への理解を求めたが、「住民からは治安悪化を懸念する声が少なからずあった。とはいえ、委員会の採決で全会一致の否決になるとは思ってもみなかった」という。 

 

計画では9月ごろの着工を目指し、建設会社とも契約を交わしていたが、仮に認可が下りなければ、計画が白紙となる可能性もある。近藤さんは「ハイシーズンとなる冬季はリゾートエリアで働く人の住宅確保が何より難しい。ただでさえ、圧倒的に不足している現状をどう解消するのか。感情論ではなく、現実を冷静に見つめてほしい」と訴える。 

 

 

約1万7000人が暮らす倶知安町は、人口の約2割を外国人が占める。昨年よりも833人増え、外国人の増加数は全国の町村で最多となった。一方で地価が高騰し、賃貸物件の相場も2LDK25万円と「東京並み」に上昇したケースも珍しくない。それでも空室が出れば、「すぐに空きが埋まる状況だ」(近藤さん)という。 

 

ニセコエリアでは近年、外国人との共生を巡るトラブルが後を絶たない。倶知安町でも「蝦夷富士」で知られる羊蹄山の麓にある森林が無許可で伐採されたトラブルが表面化した。中国と関わりのある事業者の存在も指摘されており、波紋が広がっている。(白岩賢太) 

 

 

 
 

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