( 317098 ) 2025/08/18 05:34:27 0 00 飲食各社が狙ってきた中国市場だが……(出所:ゲッティイメージズ)
サイゼリヤ、餃子の王将、くら寿司……日本の外食チェーン各社は“巨大な胃袋”を目当てにこれまで中国市場へと進出していった。
吉野家は1992年に進出し、現在は北京を中心に500店舗以上を展開する。サイゼリヤは2003年に上海で海外初店舗を構え、本土全体で500店舗を超える。2023年8月期には、物価高でサイゼリヤの国内事業が14億円の赤字となったものの、アジア事業で84億円の利益を叩き出し、赤字を補填(ほてん)した。
とはいえ、こうした成功例は一握りにとどまる。例えば餃子の王将は撤退に追い込まれ、7月にはくら寿司が中国本土に展開する3店舗を年内に閉店すると発表した。人口が多くても一筋縄ではいかないのが、中国市場である。
くら寿司は2025年4月末時点で全685店舗を展開し、その内73店舗が米国、59店舗が台湾にある。中国本土には2023年6月に進出し、当初は100兆円の外食市場を狙って10年間で100店舗を展開すると発表していた。だが、4月末時点では上海の3店舗しかない。
多店舗展開には至らず、直近では中国撤退も発表した。現地顧客のニーズをつかめなかったうえ、原材料費の高騰も影響したという。中国経済の悪化も影響したとみられる。現地では2年間で累計11億円の損失を計上した。
中国はスシローが先に2021年に出店している。既に70店舗を超え、繁忙期には300組以上の行列待ちになるという。スシローは「生ものが苦手」という中国人の嗜好(しこう)に合わせ、加熱した商品を増やして現地化を進めた。1皿単価も、くら寿司の12元(250円ほど)に対してスシローは10元(200円ほど)であり、不景気下の現地において、価格差も影響したと考えられる。
そもそも中国では現地企業が運営する「N多寿司」なるチェーンが3000店舗以上あり、シェアトップの座にある。商品は巻き寿司やエビフライなどの揚げものが多く、日本人が見慣れたネタは少ない。実際に食べた日本人によるレビューは批判的なものが多く、N多寿司はかなり現地化していることがうかがえる。店舗もフードコート内や小さいカフェ形式のこぢんまりとしたものが多い。
餃子の王将は2005年に遼寧省で海外1号店を出店した。日本では焼き目のついた薄い皮の焼餃子が好まれる一方、中国では厚い皮の水餃子が主流だ。また、餃子は主食として食べるものであり、日本人のようにご飯と一緒に食べる習慣はない。
だが王将は「日本式」の焼餃子で勝負し、日本と同じくチャーハンや他のメニューとのセットで提供した。全体的な料理の味付けも日本と同じで、あえて現地化しなかった。
しかし出店は6店舗にとどまった。現地では焼餃子は間食や食材の温め直しなどで食べられることが多く、受け入れられなかったのが原因だ。おかず類も価格が高く、地元の店から客を奪うことができなかった。
結局10年間で2億円以上の赤字を計上し、2014年には現地法人を解散した。日本式に対する過信で失敗したといえる。
当然ながら中国で成功するには「中国人が好む」味にしなければならない。先行例が熊本発の豚骨ラーメン店「味千ラーメン」だ。
同チェーンは国内に66店舗しかないが、中国では約600店舗を展開する。同社は中国展開には消極的だったものの、香港の実業家である潘慰氏が「この味なら行ける」と判断し、フランチャイズ展開にこぎつけた。
1996年に香港で店舗を構え、2007年には現地企業の味千(中国)控股有限公司が香港市場に上場した。 豚骨ラーメンは日本が発祥だが、その濃厚な味に中国人が親しみを感じているようだ。国内の一蘭や一風堂も中国人観光客に人気だが、醤油ラーメンや味噌ラーメン店の話題は聞こえてこない。
サイゼリヤは2003年に上海へ出店した。メニューの構成は国内と似ており、ミラノ風ドリアやティラミスなども提供している。一方で麻辣意面(スパゲッティ)やドリアンピザ、レタスにフルーツが乗ったサラダなども提供し、現地化の工夫も見られる。サイゼリヤは中国進出以降、メニューの改良を進め、現地の好みに合わせてきた。
中国では1990年代からピザハットがレストランとして展開していたが、サイゼリヤは日本と同じく低価格路線を進めた。客単価は800円台で、1500円台のピザハットより安い。現地のローカルフードより高いものの、中国では比較的高級な料理として認識されていたイタリアンを低価格で提供し、消費者を引きつけた。昨今では節約志向の高まりで人気だという。
約600店舗を展開する吉野家も、中国で成功を収めたチェーンといえる。1992年に進出し、回鍋肉丼やあんかけの鰻定食を提供するなど、現地化を進めてきた。
ここまで、成功例としていくつかの会社を挙げたが、いずれも1000店舗を超えていない。サイゼリヤ、吉野家は国内で1000店舗以上を展開しており、現地の人口を考慮すると小規模だ。
日本の外食チェーンにとってネックとなるのが価格の高さだ。日本と同程度か少し安い価格で提供していることが多く、ローカルのチェーンと比べて価格競争力に劣る。日本人と同じ購買力を持つのは10人に1人程度であり、日本企業がターゲットにできるのは単純計算で1.4億人程度だ。
つまり、購買力の観点から見ると、中国市場は日本市場と大きな差はない。その上でメニューの現地化も求められる。また、和洋中から料理を選ぶ日本人と異なり、彼らが外国料理を選択する機会は少ないため、ポテンシャルも低い。
前述のくら寿司や餃子の王将に加え、丸亀製麺やはなまるうどんなども、夢破れて撤退してきた。「ココイチ」やペッパーランチも、出店しているものの100店舗すら達成していない。100兆円という中国の外食市場は巨大だが、日本企業が入り込める余地は小さいと考えられる。
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
ITmedia ビジネスオンライン
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