( 317811 ) 2025/08/21 04:22:13 1 00 2014年7月、長崎県佐世保市で高校1年生の少女が同級生を殺害し、加害者の家族が多大な苦しみを抱える事件が発生した。 |
( 317813 ) 2025/08/21 04:22:13 0 00 高校1年女子生徒殺害事件で、殺人容疑で逮捕された少女の送検のため長崎県警佐世保署を出る車両=2014年7月
2014年7月、長崎県佐世保市で高校1年生だった少女が同級生の女子生徒を殺害し、逮捕される事件があった。その約2カ月後、加害少女の父親は自ら命を絶った。娘との写真が交流サイト(SNS)で拡散され、自営業の仕事を続けることも困難になった。被害者遺族への謝罪書面で「生きる自信さえ喪失しかけている」と吐露していた。
同級生殺害容疑で逮捕された少女の父親が当時、弁護士を通じて共同通信に寄せた書面
失業や自己破産、進学断念に加え、根拠なき中傷―。事件が起きれば、被害者側だけではなく、加害者家族の生活も一変する。過去には自殺する事例も相次いだ。「加害者と一蓮托生」として、家族を追い込む風潮が根強い日本。その背景には何があるのか。動き出した家族支援のあり方とは。現状を取材した。(共同通信=武田爽佳)
▽「人ごろし」の落書き
加害者家族への誹謗中傷はSNSの普及前からあった。1998年に和歌山市で4人が死亡した毒物カレー事件が起きると、林真須美死刑囚=殺人などの罪に問われ、再審申し立て中=が子どもらと同居していた自宅の壁は「人ごろし」「ふざけるな」といった落書きに埋め尽くされた。
自ら命を絶つ例も少なくない。1989年に逮捕された幼女連続誘拐殺人事件の宮崎勤元死刑囚の父親や、2008年に起きた秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大元死刑囚の弟―。
佐世保市の事件では、加害少女の母親も精神的に追い詰められ、長期間入院していた。「自殺するのではないか、周りはひやひやしながらサポートしていた」と知人は振り返る。少女は昨年、法令が規定する少年院収容上限である26歳となり、社会に復帰した。だが、身元引受人となり得た父親はもういない。
塀いっぱいに落書きされた林真須美死刑囚の自宅=1999年1月、和歌山市
▽隠れた被害者
2008年、加害者家族支援に特化した初めての団体「ワールドオープンハート(WOH)」が設立された。設立後から23年3月までに寄せられた相談内容を分析した「加害者家族白書」には、家族が直面する厳しい実情が浮かぶ。
相談者は「父親」が最多で、仕事への影響に関するものが多い。相談者全体が事件後の変化として、多い順に「外出困難」「娯楽などを控える」「家族関係の悪化」「誹謗中傷」「差別を受ける」を挙げた。
白書によると、欧米諸国で加害者家族は「Hidden Victim(隠れた被害者)」や「Forgotten Victim(忘れられた被害者)」と呼ばれ、民間団体を中心とした支援活動が活発だ。対する日本では、家から犯罪者を出した責任を問われ、被害者という視点からの支援が欠落していた。
▽消えない「家制度」
家族を自殺まで追い詰める社会の空気がなぜ生まれるのか。大阪経済大の坂野剛崇教授(犯罪心理学)は、明治民法で導入された「家制度」の影響があるとみている。「世間には、個人は独立した存在ではなく、家単位で捉える意識が今なお強く根付いている」と話す。
加害者側の家族から届いた手紙を見るNPO法人「ワールドオープンハート」理事長の阿部恭子さん=2014年11月、仙台市青葉区
未成年者が事件を起こした場合は保護者としての責任、成人した子ども、親や配偶者の場合でも「同じ家の者」としての責任―。家制度が法律から廃止された今でも、世間は家単位でくくって、家族の責任を追及する声が上がり、家族も自身を責めがちだという。
坂野教授は長年、家庭裁判所の調査官として少年事件に携わってきた。日本の少年法制は、保護者を「監護に関する責任」があるとして、非行の原因の一つである側面と、更生のための資源である側面を強調している。
家庭裁判所の調査官時代、少年の親は「あなたにも悪いところや直すべきところがある」と指導する対象だった。親自身が元気になることで少年が立ち直るケースも見てきたはずなのに「個人としての親、親自身の生活に目を向けず、親を非行の原因、今後の監護者として責任を迫るだけになっていた」。
坂野教授はそんな自責の念から、退職後に大阪市の加害者家族支援団体「スキマサポートセンター」に加わった。
関東弁護士会連合会のシンポジウム=2023年
▽民間支援少なく、動き出す弁護士たち
日本には公的な相談機関はなく、支援を掲げる民間団体はまだ数少ない。スキマサポートセンターには、全47都道府県から相談が寄せられている状況だという。
本格的な支援開始には、直接の面談を必要とするケースが多い。坂野教授は「もっと身近な、生活している都道府県ごとに支援団体があるのが本当は理想的」と話す。
そうした中で、近年組織的な支援に乗り出しているのは各地の弁護士会だ。これまでは加害者本人との関わりが中心だったが、家族へのサポートに積極的な動きも出てきた。
山形県弁護士会は2018年、全国で初めて支援センターを設置した。日本弁護士連合会は今年夏、法的な支援制度などを検討するワーキンググループの設置を決めた。
関東弁護士会連合会は2023年に「加害者家族支援」をテーマとしたシンポジウムを開き、専用相談窓口や支援団体への助成制度の創設を国や自治体に求めた。メディアに追い詰められている現状も指摘した。
長沼正敏弁護士
事件発生直後、記者がコメントを取ろうと自宅に押し寄せる。世間に無責任のように思われる恐れから断りづらいが、話す内容を冷静に考える精神的余裕はない。一つの失言が記事となり、中傷が過熱する危険性がある。弁護士が間に入って会見を行ったり、誤報の訂正を求めたりする有効性が共有された。
▽次の被害者生まないために
シンポジウムのテーマを選んだ埼玉県川越市の長沼正敏弁護士は、会の中にテーマ自体を快く思わないメンバーもいたと伝え聞いた。国や自治体による被害者支援の施策はまだ十分とは言えず「まずは被害者家族だろ、という気持ちなのだろう」と推測した。ただ、事件に関わっていない加害者家族は、被害者的側面を持つと強調する。
また、自殺や職を失い、加害者が戻る環境が不安定となった結果「再犯につながり、次の被害者を生みかねない」と社会的損失を指摘する。「『家族も一蓮托生で罰を受けるべきだ』という考えから一歩距離を置く。そんな機運をつくらないといけない」
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