( 317838 )  2025/08/21 04:50:48  
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6月27日、勝訴判決後に記者会見した大椿裕子社民党副党首(中央)。(撮影/石橋学) 

 

 社民党副党首の大椿裕子参議院議員がX(旧ツイッター)の投稿でヘイトスピーチを受け、差別されない権利を侵害されたとして、大王製紙元会長の井川意高氏に損害賠償を求めた訴訟の判決言い渡しが6月27日、東京地裁であった。餘多分宏聡裁判長は井川氏に慰謝料など55万円の支払いと投稿の削除を命じた。 

 

 大椿氏に対して「在日」「半島人」という言葉を用いた投稿は内容が真実ではなく、「侮辱的・差別的な意味合いで表現しており、社会通念上許される限度を超えている」として、名誉毀損と侮辱に当たる違法行為だと認定した。 

 

 訴状によると大椿氏は2024年5月24日、外国籍市民の永住許可取り消しをしやすくする入管難民法の改定案に反対する投稿をXで行なった。井川氏はそれを引用したうえで、在日コリアンではない大椿氏に「まずおまえの永住許可を取り消したいわ・反日クソクズ在日が!」「祖国に還れ!半島人めが!」「日本の敵が国会議員をしている」などと投稿した。 

 

 大椿氏側は、これらの投稿は差別する目的で被差別属性とみなして攻撃する「みなし差別」だとも主張していた。属性を理由に排斥するヘイトスピーチに該当し、単なる名誉毀損や侮辱より重大な人格権侵害だと訴えていた。 

 

 前例がある。10年4月、徳島県教職員組合が朝鮮学校を支援していると言いがかりをつけたレイシスト集団が同組合に乱入。組合員女性に「朝鮮の犬」「非国民」などと怒鳴り続けた。高松高裁は16年4月、人種差別に基づく行為と認定。一審の倍近い436万円の支払いを命じ、同年11月に最高裁で判決が確定した。 

 

 ところが今判決は差別に当たるという判断に踏み込まなかった。「投稿が差別的言動であったとしても、名誉毀損や侮辱以外に侵害される権利の内実が判然としない」との書きぶりに差別への無理解と判断基準の不在が浮かび上がる。 

 

 会見した大椿氏は「差別的な投稿をしてはいけないと示せた」と判決を評価する一方、「差別の問題という本質的な部分に切り込めていない」と話し、控訴も検討すると説明した。 

 

 課題はより明確になった。井川氏は業界4位の大企業の元トップでありながら、嘘と差別にまみれたヘイトスピーチをまき散らす確信的な差別者だ。欧米であればたちまち社会的地位を追われ、処罰されるはずだが、そうならないのは反差別の規範が社会になく、規範のおおもとになる差別を禁止し、処罰する法律がないからだ。 

 

 大椿氏は「差別をつくりだした政治の責任」を改めて強調する。「ヘイト投稿は入管法改悪の議論の最中になされた。政治家が国会で発言していることがそのままネット上で書かれるようになった。政治が排外主義を広げている」。 

 

「ヘイト政治」は参院選を機に悪化をたどる。排外主義丸出しの「日本人ファースト」を掲げる参政党に「違法外国人ゼロ」を宣言する自民党と各党が差別・排外主義を競い合う。大椿氏は「人々の不満を政治家が受け止めるべきなのに、票を得ようと外国人をスケープゴートにしている」と嘆く。 

 

 立法府に求められるのは差別をなくす法の制定だ。改選を迎える大椿氏は今参院選での再選を誓う。「差別撤廃法を作ろうという議員連盟も立ち上がり、私もメンバーだ。実現に尽力していきたい」。 

 

石橋学・『神奈川新聞』記者 

 

 

 
 

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