( 317883 )  2025/08/21 05:44:20  
00

焼肉きんぐが1人勝ちしている?(写真:アフロ) 

 

 近年、焼肉業界では逆風が吹き続けている。コロナ禍では、焼肉店の換気能力が注目を浴び、一時的に好調となったが、今では輸入牛肉価格や人件費の高騰が足かせになっている。焼肉屋の倒産件数も24年度は過去最多を記録した。大手も安泰ではなく、安楽亭や牛角などの古参も閉店が続いている。そんな業界で快進撃を続けるのが食べ放題の「焼肉きんぐ」だ。6年間で100店舗以上増え、直営店の売上高も2倍に膨らんだ。焼肉屋倒産時代になぜ、焼肉きんぐだけが成長できるのか。他社の動向と比較しながら、その強みを探っていく。 

 

 帝国データバンクによると、2024年度における焼肉店の倒産件数(負債1,000万円以上、法的整理)は55件で、前年の27件から倍増し、過去最多を更新した。円安や物価高により輸入牛肉の輸入価格が20年度比で1.8倍膨らむなど、原材料費や人件費の高騰が背景にあるという。コロナ禍では閉店したほかの飲食店からのシフトが進み、その換気能力が注目されて一時的に焼肉ブームが起きたが、厳しい状況となっている。 

 

 大手チェーンも影響を受けた。2000年に創業し低価格路線を歩む「七輪焼肉安安」は22年7月に約180店舗のピークを迎えたが、その後は減少に転じ、現在は162店舗である。1963年に創業した古参の「安楽亭」は、20年3月期末の180店舗から25年3月期末の142店舗に減少した。 

 

 コロナ禍以前に600店舗以上を運営していた「牛角」については、100店舗以上閉店し、現在では493店舗だ。もっとも、牛角の最盛期は2004年の840店舗であり、安楽亭もかつては200店舗以上展開していた。安楽亭と牛角は2000年代初頭のBSE問題以降、苦戦し続けている。 

 

 

 このような状況で1人勝ちしているのが「焼肉きんぐ」だ。店舗数は20年6月期の241から25年6月期には351と100店舗以上増えた。運営元である物語コーポレーションの焼肉部門売上高(直営店)も、20年度の301億円から25年6月期には616億円と倍増した。 

 

 他社が苦戦する中でも成長する焼肉きんぐは何者なのか。その中身を見ていきたい。 

 

 

 他社が苦戦する中でも成長する焼肉きんぐは何者なのか。その中身を見ていきたい。 

 

 食べ放題コースは主に3種類があり、いずれもラストオーダー20分前の100分制である。メインは税込3,608円~の「きんぐコース」だ。カルビ、ハラミ、ロースなど基本的な牛肉類のほか、鶏肉、豚肉や野菜、サイドメニューやスイーツ類もコースに含まれる。税込4,708円~の「プレミアムコース」ではきんぐコースのメニューに国産牛のカルビやロースなどが追加される。 

 

 食べ放題コースはいずれも小学生半額の幼児無料で、飲み放題は別料金。大人2人、小学生2人の4人家族で「きんぐコース」を選択した場合、約1万2,000円だ。 

 

 味付けは良くも悪くもスタンダードな印象だ。肉類には生の状態でタレがかかっており、全体的に濃い目の味付けである。肉の旨味よりもコスパが売りと言える。味を濃くすることで、肉質に関係なく美味しさを感じられるようにするほか、白米を頼ませて原価率を下げる狙いがあると言われている。なお、注文はタッチパネル方式である。店員が全料理を配膳するため、客は席を立つ必要がない。ドリンクも店員が運んでくれる。 

 

 このような形式の焼肉きんぐがなぜ消費者に受けたのか。ひとえにファミリー層から支持があげられる。 

 

 現在は値上げしたが、以前は家族4人で1万円程度の価格設定だった。単品ごとの注文では会計金額が読みづらいのが焼肉屋の特徴だ。物価高の時代に、あらかじめ価格を把握できるのは安心感がある。そして食べ放題の割にはサービスも充実している。巡回する店員がひんぱんに網交換の対応をするほか、焼き方を教える“焼肉ポリス”もいる。席で完結するテーブルオーダー制もファミリー層に支持されている。席を立つ必要がないため小さい子連れでも落ち着いて食事しやすい。 

 

 一方で、競合の食べ放題焼肉チェーンである「すたみな太郎」は、客が肉類を自分で取りに行くセルフバイキング方式を採用している。だが、すたみな太郎は衛生面での抵抗感からかコロナ禍では客足が離れ、閉店が相次いだ。システムの違いが近年における両者の明暗を分けた可能性も考えられる。 

 

 立地も関係している。焼肉きんぐは北海道から沖縄まで展開し、出店地域は市街地ではなくロードサイドだ。商圏人口は15万人で自動車客が主。運営元の物語コーポレーションはほかにもラーメンやしゃぶしゃぶなどさまざまな業態を展開しているが、いずれもロードサイドを主軸としている。そして意外にも地方のロードサイドに食べ放題焼肉の店舗は少なく、新たな需要を開拓したと考えられる。 

 

 コロナ禍では外食・小売業態ともに都市部の店舗が苦戦した一方、郊外立地の業態が堅調に推移した。郊外を主軸とする焼肉きんぐにとって、コロナ禍は追い風だったと言える。牛角は都市部の店舗が苦戦した。郊外にも出店しているが、食べ放題がメインではない。 

 

 

 今のところ焼肉きんぐの好調は続いている。近年では段階的に値上げをしてきたが、同社が公表する前年比客数は維持しており、客離れは進んでいない。今年9月には100円程度値上げし、きんぐコースの最低価格を税込3,718円、プレミアムコースを4,818円にする予定だ。「きんぐコース」で3,000円台を維持できるかがカギとなるだろう。一部店舗では回転寿司のような特急レーンを設け、コスト削減に努めている。 

 

 そして現在では都心部を模索している。22年5月には初のビルイン店舗を浅草ROX内に出店した。今年に入ってから池袋、新宿駅付近にも出店している。都市部では従来のような自動車客ではなく、公共交通機関の利用客がターゲットである。客層も若年層や会社員客が中心だ。郊外を抑えた焼肉きんぐが都市部で勢力を拡大できるのか、今後の出店動向に注目したい。 

 

執筆:山口 伸 

 

 

 
 

IMAGE