( 317988 ) 2025/08/21 07:42:12 0 00 映画「731」のポスターと、中国黒竜江省ハルビン市郊外の731部隊跡地に設置された石碑(時事通信フォト)
〈涙が止まらず、しばらく立てなかった〉〈日本と手を取り合うことはできない〉──8月、中国のSNSにはこんなコメントが多数投稿された。
8月15日、先の大戦の終戦から80年を迎えた。日本の新聞やテレビなど報道機関は、同じ過ちを繰り返さないようさまざまな企画や記事で、当時を知る高齢者の証言などを紹介している。一方の中国は「抗日戦争勝利80年」として、国威発揚につなげるべく宣伝を強化。そのひとつが3本の“反日”映画だ。
大手紙国際部記者はこう解説する。
「毎年、この時期は反日感情が高まりますが、80年という区切りの今年は特にすごいです。
7月下旬に、1939年に発生した旧日本軍による南京事件について扱った映画『南京写真館』が公開されると、興行収入はあっという間に23億元(約470億円)を超え、今夏一番の大ヒットとなっています。残虐な内容に対して慎重な声もありましたが、国営新華社通信は『この映画を見た5歳の女の子が大きくなったら軍に入ると発言した』などと報じており、愛国心の高揚に利用されています」
この映画の舞台は、旧日本軍の占領下だった南京にある写真館。旧日本軍による“虐殺”の証拠となるネガフィルムを、写真館で働く中国人が命がけで守るといったストーリーだ。
物語性もあるが、「残虐なシーンが殊更に強調されている」という。
「映画自体のストーリーはしっかりしているのですが、旧日本軍による残虐な行為がことさらに強調されている。旧日本兵が中国人を燃やしたり、袋にいれたりとさまざまな方法で殺害しているシーンが細かく描写されています。日本兵が赤ちゃんを地面にたたきつけるシーンなどもあり、こういった部分が切り取られ、SNSで炎上しているんです。映画を観た中国人の子供の反応のショート動画も出回っているのですが、怒ったり、泣いたり、沈黙したりといった子供の姿に大人も影響を受けている」(同前)
この映画は日本では公開の予定はないが、オーストラリアや北米などの海外でも相次いで公開されており、国際的にも日本のイメージに影響が出るだろう。
「ほかにも『東極島』という戦争映画が8月8日に公開されています。そして何より、現地在住の日本人の間で危惧されているのが『731』です。人体実験を行っていたとされる日本の731部隊を扱った映画で、日本の戦争犯罪を暴くという趣旨もあり、予告編が出てからかなり話題となっていました。
あまりにむごい描写が多いことから7月末の公開予定が延期となった経緯もあり、一部の日本メディアは日本への配慮かといった期待を込めた記事も出していました。しかし、蓋を開けてみれば“最も敏感な日”に公開が決まってしまいました」(同前)
最も敏感な日というのは9月18日。満州事変の発端となった柳条湖事件が起きた日だ。
「中国軍の仕業とでっちあげて、日本が戦争を始めた日なので反日感情が非常に高まります。『国恥の日』として、中国各地でさまざまな反日イベントが行われる。日中関係が最も悪化する日ともいえます。
その上、昨年、深センで日本人学校に通う男児が殺害されたのもまさにこの日でした。『南京写真館』だけでもすごい影響なのに、更なる日中の関係悪化が懸念されます」(同前)
このような事態に、不安の声をあげるのは現地で暮らす日本人だ。
「反日映画が公開されても、中国人の友人は何も変わりません。日本と一緒で、ネット上には過激な投稿をしても、対面では特に……という人も多いはずです。
ただ、最近では実際に日本人を狙う事件も起きています。昨年には蘇州市で日本人母子が襲われて助けようとした中国人女性が殺害されましたし、深センで日本人の男の子が殺害されたのも衝撃的でした。今年7月31日にも子供連れが石のようなもので殴られています。
抗日キャンペーンに影響を受けた一部の過激な考えの人がとんでもないことをするのではないかと、強い不安を感じています。私も妻子と共にこちらに住んでいるのですが、いつも一緒にいて守れるわけではありませんから……。何が起こるのかわからない恐怖があります」
戦後80年、両国の間にはいまだ深い溝が横たわっている。
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