( 318193 ) 2025/08/22 06:32:02 0 00 2025年7月20日に行われた参院選で与党が大敗した結果、半世紀にわたってガソリンにかけられてきた「暫定税率」がついに廃止されるそうだ。実現するのはいつ?いくら安くなる?そもそもホントに廃止されるのか?
文/鈴木喜生、写真/写真AC
1972年、田中角栄が第64代内閣総理大臣に任命されると、その2年後の1974年に「暫定税率」が導入された。
ガソリン税の一部として新たに徴収されることになったこの税金は、当初は2年間だけの暫定的な課税だったことからこの名がつけられたが、51年経った2025年現在も施行され続けている。
その結果、国民からは「2年だけじゃなかったのか」「暫定とは名ばかり」「約束が違う」と、総ツッコミを受けているのはご存じのとおりだ。
この暫定税率が付加された結果、私たちが1リッター100円のガソリンを買うと、そこには72.3円の税金が上乗せされるようになった。つまりガソリン代金の42%が税金だ。その仕組みをおさらいすると以下のようになる。
1リッター100円のガソリンには、そもそも28.7円のガソリン税がかけられていた。このガソリン税を「本則税率」という。これに対して田中角栄が「暫定税率」である25.1円を課税した。その結果、ガソリン税は本則税率と暫定税率の2つで構成されるようになり、その合計額は53.8円になった。
ただし、ガソリンにかけられている税金はこれだけではない。1978年からは「石油石炭税」(施行当時は「石油税」と呼ばれた)が課税されるようになり、その税額は現在2.04円。そして2012年からは、ここに「温暖化対策税」の0.76円も上乗せられ、その合計額は2.8円になった。
これらの税額をすべて合算すると56.6円になり、1リッターのガソリンは156.6円になるが、さらにこの金額に10%の消費税(15.7円)が上乗せされる。
つまり、税金に税金がかけられているのだ。その結果、1リッター当たり100円のガソリンに対する税金の総額は72.3円になり、私たちの支払額は172.3円になる。
ガソリン税、石油石炭税、温暖化対策税などの税額は、ガソリンの市場価格や原油価格にかかわらず、常に定額とされている。そのため、ガソリン税の一部である暫定税率が廃止されれば、私たちがガソリンに対して支払う金額は、確実に1リッター当たり25.1円安くなる。
ドライバーにとってはこれが「暫定税率廃止」の最大のメリットといえるだろう。
しかし、国内の経済活動を広く見渡せば、暫定税率の廃止は私たち国民にさらに大きな恩恵をもたらす。
その筆頭が物流コストの低下だ。
食料品や日用品など、あらゆる商品の値段には輸送料が含まれている。建築資材などの重いモノには特に輸送コストがかかるが、ガソリン代さえ安くなれば、これらの商品の多くが値下げに転じるはずだ。
また、マイカーの所有者にとっても移動の心理的ハードルが下がるため、行動の自由度が広がり、旅行やレジャーに出かける機会が増え、その結果、地域経済の活性化にもつながるに違いない。
つまり、暫定税率が廃止されれば、単にガソリン代が安くなるだけでなく、日本の内需を拡大させる。
その活力を活かして企業が業績を好転させ、同時に経費も削減されれば、社員の所得アップにもつながるだろう。そうした好循環が生まれれば、暫定税率などで追加課税しなくても政府の税収は大幅に上がるはずなのだ。
暫定税率廃止を主張する国民民主党は2024年12月、自民党と公明党からなる与党との間で、ガソリン税の暫定税率廃止などを含む三党合意を結んだ。
しかし、結果的に自民党はこの合意を履行せず、暫定税率廃止を先送りした。国民民主党は、「ハシゴを外された」と大いに反発したが、その後、2025年7月20日に行われた参院選で、またしても与党が大敗。その議席は衆参両院ともに過半数割れとなった。
その結果、与党は2025年7月30日、年内に「暫定税率」を廃止することで野党と合意した。その合意においては暫定税率を「年内のできるだけ早い時期に廃止する」とされる。
また、2025年8月1日に野党7党(立憲民主、日本維新の会、国民民主、参政、共産、日本保守、社民)が共同提出した法案には、「2025年11月1日から暫定税率を廃止する」ことが明記されている。
ただし、2025年8月現在において本当にそれが実現されるかは不透明だ……。
野党が共同提出したその法案はあくまで「案」であり、その実現までには十分に議論すべき課題があるとされる。
その課題とは主に、暫定税率の代わりとなる財源(代替財源)だ。暫定税率による税収は年間約1.5兆円とされ、これを廃止する場合には、他の税収で補う必要がある、というのが与党、そして財務省の主張だ。
ただし、前述したように、暫定税率の廃止によって国内経済に好循環が訪れれば、減る税収よりも増える税収のほうが勝るはず、という意見が多い。
また、地方財政への影響も課題とされている。国の税収が減れば、地方交付税(国が地方自治体に交付する資金)や、国庫支出金(国が地方自治体に対し、特定の事業のために交付する資金)にも影響するからだ。
しかし、その影響は限定的だと見る意見もある。ガソリン税(本則税率と暫定税率)は1リッター当たり53.8円だが、そのうち48.6円(90.3%)は「揮発油税」として国に納付され、5.2円(9.7%)は「地方揮発油税」として地方自治体に納付されている。つまり、そもそも地方に直接的に交付されているのは10%に満たないからだ。
ちなみに、ガソリン税における暫定税率が廃止に向かう一方で、軽油の税金が減税されないのは、その大部分が地方税に充てられているからだ。
軽油の場合はガソリン税に相当するものを「軽油引取税」といい、ここにもやはり暫定税率がかけられている。1リッター当たりの税率は本則税率が15円、暫定税率が17.1円、計32.1円が徴収されているが、これはすべて地方自治体に納付される。軽油がガソリンよりも安価になるのは、主にこの軽油引取税には消費税がかからないためだ。
これらの代替財源、地方税、さらには地球温暖化に対する対策など、与野党における議論が難航した場合には、暫定税率の廃止が遅れる可能性もある。
また、暫定税率を段階的に引き下げ、一定期間のうちにゼロにする案が出てくるかもしれない。さまざまな団体の意思と利権がからむ暫定税率の廃止は、最後の最後まで何か起こるかわからない。それが決定される瞬間まで、注視する必要があるだろう。
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