( 318413 )  2025/08/23 05:38:43  
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NRI研究員の時事解説 

 

与野党は、年内のガソリンの暫定税率廃止で合意している。廃止は、秋の臨時国会で正式に決定される可能性が高まっている。エネルギー庁によれば、現在のレギュラーガソリンの全国平均は1リットル174円程度であるが、10円程度の補助金の影響を除けば184円程度だ。1リットル25.1円の暫定税率と10円程度の補助金が廃止されれば、ガソリン価格は1リットル159円程度へと約13.6%低下する。これは、世帯のガソリン購入費の負担を年間で9,670円分減らす計算となる(コラム「ガソリン暫定税率の廃止は来年4月か:世帯当たりのガソリン費負担は年間9,670円減少」、2025年3月6日)。暫定税率の廃止の具体的な枠組みを巡って、与野党間での調整が進められている(コラム「ガソリン暫定税率の廃止議論:法人増税による恒久財源確保が検討される」、2025年8月19日)。 

 

ただし、これは物価高対策としては力不足の感があることは否めない。野党各党は、ガソリンの暫定税率廃止に加えて、消費税減税などの実施を、先般の参院選で物価高対策として掲げていた。 

 

秋の臨時国会では、ガソリンの暫定税率廃止に加えて、参院選で公約としていた一律2万円を中心とする給付金の実施を与党は目指すことになるだろう。しかし与党は衆参両院で過半数の議席を失っており、給付金の実現には野党の協力を得ることが欠かせない。日本維新の会は、秋の臨時国会で、一律2万円の給付金が補正予算案に盛り込まれた場合には反対するとの姿勢を明らかにしている。 

 

協力を得ることができる可能性が最も高い野党は立憲民主党だ。立憲民主党も参院選挙の公約に、一律2万円の給付金を掲げていたためだ。 

 

ただし立憲民主党の案は消費税減税とセットで給付金を実施する案であり、原則1年の食料品の税率を0%にする減税が実施されるまでの繋ぎとしての位置づけだ。 

 

与党内ではこの給付金を公約に掲げた参院選で与党が大敗したことを受け、給付金の枠組みを見直す議論が出ている。例えば、給付対象を絞ったうえで、一人当たりの給付額を増額するといったものだ。 

 

政府・自民党が掲げた給付金は、国民一律2万円の給付金と子ども・住民税非課税世帯へは2万円の加算を盛り込まれた。国民一律2万円の給付金は2兆4,668.0億円、それに子ども・住民税非課税世帯への2万円を加えると総額3兆3,248.6億円と試算される。ちなみに、この給付金が実質および名目GDPを押し上げる効果は1年間で+0.14%、名目GDPの押し上げ額は8,594億円と試算される。 

 

しかし、物価高の下でも生活に余裕がある世帯や人にも給付するのは適切ではないだろう。現在必要なのは、物価高によって生活が圧迫されている低所得層を支援する物価高対策だ。そのためには、そうした人々に絞って給付を実施するのがより適切であり、政府による所得再配分という付加価値がある。 

 

一方、全ての国民に給付を行うと、国民から幅広く集めたお金を政府が国民に再び幅広く配る形となる。それは付加価値の低い政策であり、「バラマキ的」と言われても仕方ないのではないか。 

 

 

この点から、与党が給付の対象者を絞る方向で見直しを行うのであれば、それは適切なことだと思われる。 

 

例えば、住民税非課税世帯の総人口は2,877.8万人であるが、国民すべてに2万円ではなく、これら低所得層に絞って2万円を給付すると、その合計は5,755.6億円となる。当初案に基づく総額3兆3,248.6億円(試算値)を使うとした場合、11.6万円程度へと一人当たりの給付額を増やすことができ、物価高で特に生活が圧迫される低所得層をより支援することになる。 

 

現時点で、給付金の見直しの議論は与党内で完結するものではない。最終的には立憲民主党が受け入れる形を探りながら、見直しの議論は進められていくだろう。給付金を巡る与党と立憲民主党の議論は、政策全般における両者の連携の方向性に大きな影響を与えることになる可能性がある。 

 

(参考資料) 

「政府「2万円一律給付」修正」、2025年8月21日、日本経済新聞 

 

木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) 

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この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/media/column/)に掲載されたものです。 

 

 

 
 

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