( 318428 ) 2025/08/23 05:58:37 0 00 「ハッピーセット」のコラボ企画がたびたび炎上しているマクドナルド(筆者撮影)
日本マクドナルドは、8月29日から実施を予定していたハッピーセット「ワンピースカードゲーム」の実施の見送りを20日に発表した。ハッピーセット自体は提供されるが、過去のキャンペーンで配布されていたおもちゃなどを代替として提供するという。
この要因となったのが、最近「ちいかわ」「ポケモン」とハッピーセットのコラボ企画で起きた、転売や食品大量廃棄、店頭でのオペレーションの混乱などの問題だ。マクドナルド側からも「ハッピーセット関連施策見直しの一環として」、このたびの決定がなされたと説明した。
21日には消費者庁の定例記者会見が行われたが、そこで堀井奈津子長官は日本マクドナルドに対し、食品ロスにつながらないように販売方法の改善などの再発防止策を講じることを要望したことを話した。
今回の見送りは、マクドナルドの対策の限界を示しているのだろうか。あるいは、しばらく間をおいて、有効な対策を講じることができるのだろうか。
■「ワンピースカードゲーム」見送りは適切だったか
今回の見送りの発表は、実施の9日前に行われた。検討は進んでいたと思われるものの、マクドナルド社内ではかなりバタついたに違いないし、見送りは苦渋の選択であっただろう。
過去の失敗を踏まえて、対策を講じることもできたのではないかとも思えるのだが、万が一、転売が起こり、批判が再燃してしまうことは、どうしても避ける必要があっただろう。
「仏の顔も三度」「三度目の正直」ということわざもあるし、野球でも3回アウトになるとイニングが変わる。意味は変わるが、「二度あることは三度ある」ということわざもある。
筆者の経験則からいっても、3回同じ過ちを繰り返してしまうと、「本気で改善する気がない」と思われる。下手すると相手から見捨てられてしまう。
多少なりともリスクがあることを鑑みて、いったん見送って対策を練り直すことは賢明な判断だったといえるだろう。
一方で、マクドナルドは「見送り」と言っているが、「中止」とは言っていない。対策の見通しが立てば、再開の可能性は十分ありえるだろう。ただし、肝心なのは十分な対策を立てることができるかどうかである
■なぜ同じ問題が起きたのか?
直近でハッピーセットに関連して起きた問題を振り返っておこう。
2025年の5月、人気キャラクター「ちいかわ」とコラボしたハッピーセットが販売されたが、16日に開始した第1弾は、わずか3日間で販売終了となった。転売問題と商品の廃棄の問題も起きていた。
23日からの第2弾ではさらに事態は加速し、開始の翌日の24日には発売終了となり、マクドナルドは謝罪する事態となった。
なお、30日から開始予定だった第3弾は実施されなかった。ただし、これは混乱回避のためというよりは、第2弾で在庫が尽きたことによるともみられている。
8月8日から行われた「ポケモン」コラボでも同様の問題が起きた。9日から11日の3連休には、数量限定でポケモンカード2枚セットが特典で追加された。これに顧客が殺到し、開始日に大半の店舗で在庫がなくなった。
転売や食品廃棄の問題が起きたほか、店員に威圧的な態度を取る客が出たり、購入できなかった顧客からクレームが入ったりという事態も発生し、従業員が疲弊するという問題も生じてしまった。
これを受けて、8月11日にマクドナルドは公式サイトで謝罪と今後の対応策を発表した。
15日に「ポケモン」コラボの第2弾が開始したが、15〜17日の3日間「1グループ1会計、3セットの購入を上限」とする購入制限を行った。
このときは買い占めも大きな混乱も起こらなかったようだが、対応策が功を奏したというよりは、ポケモンカードの配布が行われなかったことが大きいとみられている。
朝日新聞の取材によると、ポケモンカードは6種類で計300万枚弱が用意されていたという。この数は決して多いとはいえないものの、本カードは希少品でもなかったために、買い占めや転売が起きることを十分に想定できていなかったようだ。
要するに、問題が発生した最大の要因は「需要の読み違い」である。逆にいえば、需要予測が難しいからこそ、何度も同じ問題が起こってしまうともいえる。
■「供給を増やせばよい」は正論だが…
ハッピーセットにおいて、上記の事例以前にも「星のカービィ」「新世紀エヴァンゲリオン」とのコラボの際にも同様の問題が起きている。
商売において需要予測は収益を左右する重要な要素なのだが、もともと需要予測は難しいうえに、その難しさはどんどん増していっている。
特に難しいのが、コンテンツの需要予測だ。現在は映画『国宝』が大ヒットしており、昨年はインディーズ映画『侍タイムスリッパー』がメジャーヒットとなったが、どちらも口コミによって爆発的ヒットにつながっており、事前には予想ができなかっただろう。
「人気がある」「はやっている」という情報がさらに人気や流行を生むという現象が起きるのだが、これがデジタル化によって加速しており、何が起こるかは以前に増して予想ができなくなっているのだ。
コンテンツのような無形のものであれば、供給は調整しやすいのだが、ハッピーセットの場合はコンテンツとコラボした有形の商品だ。迅速に供給を増やすことは難しい。
2019年10月に食品ロス削減推進法が施行され、食品ロス削減の対策が強化されている。8月20日に消費者庁からマクドナルドに改善要望が出されたのも、その延長線上にある。
■マクドナルドがとるべき対策
フリマアプリの普及によって景品の転売行為が蔓延し、買い占め行為が加速するようになり、付随して食品廃棄の問題も深刻化している。転売行為を規制することは重要なのだが、転売行為自体は違法行為ではなく、完全防止は困難だろう。
景品の在庫を十分に用意していれば、需給バランスが適正化され、転売も防ぐことはできるだろう。
しかしながら、万が一需要が少なかった場合は、景品の在庫を抱えてしまうことになる。食品の廃棄は問題だが、それをはるかに上回る景品の廃棄が生じてしまっては本末転倒になってしまう。
今回の問題では、マクドナルド自身も対応策を表明しているし、多くの有識者も提言を行っている。
1. 販売制限を強化する(販売対象を限定する、1人・1グループあたりの購入個数をさらに減らすなど) 2. 転売防止策を強化する 3. 景品の価値を下げる(供給量を増やす、景品の魅力を下げるなど) 4. 転売や買い占めを控えるように呼びかけ・啓発を行う 上記のすべての面で対策を講じないと、同じことが起こる可能性はありうるだろう。
■では「究極の対策」は?
筆者として最も重要となるのは、3であると考える。ただし、先述のように、需要が読めない以上、供給量を調整することは難しい。とすると、残るのは「景品の魅力を下げる」という選択である。
マクドナルドの本業は飲食業であり、そこの原点に立ち戻るべきだ――というのが筆者の主張の前提としてある。
ハッピーセットは既存商品のセットメニューに、景品、つまり「おまけ」を付けたものであるから、「(おまけも合わせて)1つの商品である」「おまけの魅力は商品の魅力の一部である」ということは筆者も十分に理解している。
しかしながら、食品廃棄が生じたり、(商品が対象とする)子どもが買えないという本末転倒の事態が生じたりしていることを考えると、販売制限や転売対策以上に、商品としての価値の再定義が必要になっているように思えてならない。
近年のマクドナルドは業績も好調だ。2014〜2015年に相次いで発覚した異物混入事件を乗り越えたのみならず、メニューや店舗の改善に成功している。その後の原材料高の影響も、値上げに見合った価値の提供を行うことで乗り切っている。
現在のマクドナルドであれば、ハッピーセットに関してはいったんブレーキをかけて十分な対策を講じることはできるはずだし、またそうすべきであると思う。
西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
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