( 319316 ) 2025/08/27 02:55:41 1 00 奥貫妃文教授は、SNSでの外国人への生活保護の批判について、その誤解や偏見を指摘します。
彼女は、SNS上での誤った主張「外国人への生活保護は違法」は事実ではなく、1946年以降も国による保護が実施されていることを説明します。
大澤優真さんは、外国人の生活保護利用は非常に限られており、多くの外国人が困窮していることを強調します。
両者は、外国人を労働力として受け入れながら、彼らの再生を無視する日本の態度には問題があると指摘しています。 |
( 319318 ) 2025/08/27 02:55:41 0 00 奥貫妃文・昭和女子大教授
SNS上で、外国人の生活保護受給へのバッシングが続いている。7月の参院選では、外国人への生活保護支給停止を訴えている参政党が大幅に議席を伸ばした。しかし、選挙期間中に叫ばれた主張の中には、誤った知識や思い込みに基づくものも多かった。外国人が日本の社会保障制度を使うことに対し、「悪用される」、「日本人がないがしろにされる」というイメージや不安を抱く人が多いのはなぜだろうか。社会保障法に詳しい奥貫妃文昭和女子大教授と、外国人支援を続ける「つくろい東京ファンド」の事務局長大澤優真さんに、生活保護と外国人を巡る現状や考えを聞いた。(共同通信=細川このみ)
奥貫妃文・昭和女子大教授
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奥貫教授はまず、外国人に生活保護が支給されるまでの歴史的経緯を教えてくれた。 ▽差別の中で
終戦後1946年に成立した旧生活保護法は、対象を「生活の保護を要する状態にある者」としていました。その後1950年に現行法が施行され、「生活に困窮するすべての国民」と「国民」という言葉が入りました。「国籍条項」と呼ばれるもので、保護は国民に限定されました。
戦後間もない頃の日本には、かつて植民地支配していた朝鮮半島や台湾から来た人たちがいました。日本臣民という形で日本人にさせられ、1952年のサンフランシスコ講和条約発効で日本国籍を剥奪された人たちです。すでに生活基盤は日本にあったり、朝鮮戦争が勃発したりして祖国に帰ることができず、多くの人が日本に残りました。激しい差別を受け、仕事に就くこともできず、一部の地域に集まって暮らし、目に見える形で貧困がありました。
そのような状況に、支配していた側の日本としては「知りません」という態度を貫くことができなかったのでしょう。そこで1954年、旧厚生省社会局長通知を発出し、日本人に準じる形で、行政措置として外国人にも生活保護の支給を始めました。この通知による運用が現在まで続いています。
厚生労働省
▽在留資格が限定
通知には支給対象となる在留資格は書いてありませんでした。実際の受給者は在日韓国・朝鮮の人が多かったのですが、自治体の裁量で保護費が支給されていました。
それがバブル期、国は労働力を確保するため日系人の受け入れを拡大させました。これに伴い、生活保護申請者が急増することを懸念し、旧厚生省が1990年、
(1)永住者(特別永住者を含む)
(2)定住者
(3)日本人の配偶者
(4)永住者の配偶者
(5)認定難民
という五つの在留資格や身分の人にのみ生活保護を支給できるという係長の口頭指示を出しました。こんな重大な変更を口頭指示ですること自体、法治国家としてはあるまじきことですが、そこから現在まで在留資格が限定されることとなりました。 ▽「外国人に保護は違法」は誤り
SNS上には「外国人への生活保護は違法」などの投稿がありますが、誤りです。2014年の最高裁判決で、「外国人は生活保護法に基づく受給権を持たない」との判断が示されましたが、「行政措置による事実上の保護の対象となり得るにとどまる」とも言及しており、通知による保護の支給を否定していません。
(写真:47NEWS)
厚労省は、外国人への生活保護支給は違法でも何でもなく、国が昔から今に至るまで行ってきたということを、丁寧に説明すべきです。
今のバッシングは、判決の、雑で不確かな解釈に基づいて行われています。確かに判決内容と通知の運用は専門家でないと分かりにくいですが、それを正しく理解しているはずの政治家が、悪意をもって不正確な解釈を広めていることに憤りを感じています。
複雑な話は、時間や精神的な余裕がないとなかなか聞いてもらえません。日本の経済状況が大きく影響し、人々に余裕がなくなっていることを感じます。実際に日々の生活の中で外国人が増えたと感じる人がいる中、「自分たちの国なのになんで出しゃばっているんだ」という感情が出てきているのではないでしょうか。排外的なことを言う政治家に磁石のように引き寄せられる人がいることに対して、私自身何ができるのか、日々突きつけられ、考えさせられています。
▽制度の「担い手」
出入国在留管理庁が入る庁舎=東京都千代田区
日本は1979年に国際人権規約を批准し、1981年には難民条約に加入しました。難民条約では、社会保障には国籍や人種で差異をもうけてはならないとされており、年金や健康保険は国籍条項が撤廃されました。しかし、生活保護については1954年の通知ですでに外国人に保護が支給されているとして、国籍条項が撤廃されませんでした。
たとえば日本生まれ、日本育ちの永住者でも、保護を受ける権利はないと言われるのはどう考えてもおかしいと思います。通知と国籍条項をなくし、外国人にも日本人と同様に法的権利として生活保護の適用を認めるべきです。でもまずは経過措置として、滞在期間の要件をつけるところから国民の理解を得ていくのが現実的な方法かもしれません。
日本は歩みが遅いながらも、戦後80年、国際協調主義の道を進んできました。外国人への保護停止などの主張は、それを真っ向から否定する動きです。政治家が歴史を知らない恐ろしさを感じています。外国人を労働力として呼び寄せておきながら、病気になるなどさまざまな事情で生活できなくなったら、「知らない」という国でいいのでしょうか。
「つくろい東京ファンド」の事務局長・大澤優真さん
外国人のこととなると、国民健康保険や生活保護など社会保障制度の「使い手」の側面ばかりが強調され、「担い手」である側面は消えてしまいます。しかし、外国人も税金や社会保険料を支払っている制度の担い手です。少子高齢化が深刻化する中、年金や健康保険制度などの維持のためにも、外国人が老後まで過ごしたいと思える体制を整えることが重要です。ヒューマニズムだけでなく、リアリズムの視点からも、外国人が安心して住める制度にしていくべきではないでしょうか。
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奥貫妃文(おくぬき・ひふみ) 昭和女子大福祉社会学科教授。共著に「生きのびるための社会保障入門」、「移民政策とは何か」など。 × × ×
次に大澤優真さんだ。生活保護制度の研究者でもある大澤さんのもとには、困窮する外国人からの相談がひっきりなしにやってくる。役所の窓口や病院に同行することも多いが、在留資格の有無や種類によって、何の支援も受けられない人が大半だ。彼らをどう救えるのか日々頭を抱え、奔走する。SNS上で語られる外国人のイメージが現実とかけ離れていると指摘する。 ▽「保護でぜいたく」あり得ない
排外主義に反対する記者会見で発言する大澤優真さん(左から2人目)=7月8日、国会内
まず、生活保護の利用申請ができる永住や定住といった在留資格の人は、日本に在留する外国人の半数以下です。技能実習や留学などの在留資格を持つ半数以上の外国人は、生活が困窮しても使える制度がほぼありません。日本で暮らしていくには親族やコミュニティーの支援に頼る以外、手段がないのが現状です。私が主に支援している在留資格のない仮放免の人たちは、本当にどうすることもできず、ホームレスになったり、病気になっても病院に行けなかったり、命の危険にさらされています。
生活保護が利用できる在留資格の人でも、出入国在留管理庁が資格の更新をしなかったり、在留期間を短縮したりするのではないかと恐れ、申請しないケースが多くあります。入管の在留資格変更に関するガイドラインに、日常生活において公共の負担となっていないかを考慮するとの記載があるためです。また日本人以上にスティグマを感じ、申請をためらう人もいます。
SNS上には、日本にぱっと来て、すぐに生活保護を受給してぜいたくな暮らしをしている外国人が多数存在するかのような投稿がありますが、現場から見てありえません。それが本当なら私の仕事は暇になっているはずですが、全くその逆です。
参政党の街頭演説に集まった人たち=7月19日、東京・銀座
▽間違いだらけのイメージ
「外国人に保護を支給すると、保護目当ての外国人がたくさん日本にやってくる」という投稿も見かけますが、統計上そうなっていません。日本に働きに来る外国人は、働いて少しでも多くの収入を得たい人が多いように感じています。一般的な生活保護費は暮らしている場所にもよりますが、1人暮らしの場合月約10万円前後で、家賃や生活費を払ったら、ほとんど手元に残りません。生活保護を受給するより働きたいんですという訴えもよく受けます。そもそもの外国人のイメージが間違っています。
外国人への生活保護が日本財政を逼迫させているとの主張もありますが、23年度の受給世帯は165万478世帯で、うち世帯主が外国人のケースは4万7317世帯と全体の2・9%で、生活保護財政に与える影響は小さなものです。
外国人は受給者の国籍別でみると、韓国・朝鮮、フィリピンの割合が高くなりますが、それは在日韓国・朝鮮の人が植民地主義政策のもとで差別され、公的年金制度からも排除されてきたからです。フィリピンの人は日本人配偶者と離婚した母子家庭が多いなどの特徴があり、歴史的、構造的な貧困が背景にあります。
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