( 319331 )  2025/08/27 03:15:13  
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国会で「ガソリン税の暫定税率廃止」に関する議論が進む中、自民党は税金の新たな案として「走行距離課税」の導入を検討しています。

暫定税率の廃止には恒久的な財源の確保が必要で、与党は野党との協力を求めています。

また、ガソリン税がインフラ整備に必要であることを訴える動きもあります。

しかし、地方民や物流業者への負担が大きく、不公平感が懸念されています。

選挙中の暫定税率廃止の公約が増税につながる可能性があるという指摘もあります。

インフラ投資には建設的な議論が求められています。

(要約)

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「石破辞めるな」の声も急増する石破茂首相 

 

与野党6党の国会対策委員長が7月30日に合意したはずの「ガソリン税の暫定税率廃止」に向けた議論が紛糾している。8月21日に行なわれた協議で、自民党の宮沢洋一税制調査会長は税収の上振れ分の活用などに否定的な立場を示し、「税財源が必要」と突っぱねた。 

 

そうした中、朝日新聞によると、自動車の利用者から徴収する新たな新税の創設の検討に入ったという。恒久的な財源として視野に入るのが、水面下で長年議論されてきた「走行距離課税」の導入だ。 

 

暫定税率の廃止について、与党側は恒久的な財源の増税が必要との立場を崩していない。宮沢税制調査会長は8月21日の協議を終えた後、「与党だけで具体的な税は決められず、知恵を出し合わなければならない」と記者団に語っている。 

 

さきの参院選で惨敗した与党が暫定税率廃止の合意に至るスピードは速かった。しかし今となっては、劣勢という立場を与党が巧みに利用しているようにさえ見える。少数与党になったことで、ガソリン減税の合意形成には野党の協力が欠かせない。そのうえで代替財源が必要との立場を与党が堅持すれば、ガソリン減税を人質に野党が組み立てた恒久財源の確保ができるというわけだ。さらに、ガソリンの“暫定”税率という隙だらけの制度も恒久的なものへと看板替えもできる。 

 

暫定税率はもっと早い段階で恒久財源化するべきものだったが、世論の反発を恐れて踏み込むのを怠ってきた。今、ピンチをチャンスに変えようという意図が見えてくる。 

 

 ガソリンの暫定税率は2009年に一般財源化された。しかし、一般財源化された後も主に道路や橋、トンネルなどのインフラ整備、公共交通の維持と補助に使われている。 

 

今年1月、埼玉県八潮市で起きた道路陥没事故はインフラの老朽化が引き起こす問題を改めて国民に突き付けた。また、災害が多発して甚大な被害を受けている現状を鑑みても、インフラ投資に財源の確保が必要なのは明らかである。 

 

朝日新聞によれば、新税によって集めた税金はインフラの維持や補修等を負担する地方自治体に手厚く分配することを検討しているという。目的税化してインフラ整備に必要な税金であることを強くアピールしていくようだ。 

 

道路の整備に必要な税金となれば、その受益者である自動車の利用者が負担するのが筋だろう。そうした背景もあって、SNSでは「走行距離課税」を導入するのではないかという議論で盛り上がっているのだ。 

 

 

走行距離課税とは、ガソリンや軽油、電気などエネルギーの違い、排気量、車種などに関係なく走行距離に応じて課される税金だ。アメリカの一部の州ではすでに導入されている。 

 

課税ロジックは単純なもので、「電気自動車やエコカーは燃料税負担が少ないにもかかわらず、ガソリン車と同じように道路を使えるのは公平性の観点からおかしい」といったものだ。距離であれば、道路を多く使う人がインフラ整備に必要な相応の負担をしていることになる。 

 

将来的に電気自動車や燃料電池車が普及することになれば、ガソリン税の先細りも懸念されていた。2022年10月20日、参議院予算委員会で鈴木俊一財務大臣(当時)が走行距離課税について、1つの考え方だと言及した。 

 

この走行距離課税を熱望している団体がある。自民党への献金額が多いことで知られる石油連盟だ。石油連盟はENEOSや出光興産など大手石油会社で構成される業界団体である。連盟は「令和7年度税制改正要望について」において、欧米では走行距離課税が導入・検討されているとしたうえで、「わが国も自動車用の電気等に対し自動車燃料税相当の課税を行ない、EV等とガソリン車等の課税の公平性を確保すべきです」と提言している。 

 

一方、走行距離課税に反対の立場を示しているのが、同じく自民党に巨額の献金を行なっている日本自動車工業会だ。自動車・二輪メーカー14社によって構成され、政治や経済に強い影響力を持つ団体である。2022年に当時の副会長だった永塚誠一氏が「拙速な導入には断固反対する」と宣言。電気自動車の普及にブレーキをかけるような税制を牽制した。 

 

板挟みになる中で、自民党は走行距離課税についての具体的な言及を避けてきた。しかし、野党を巻き込んで案の1つとして議論を活発化させ、国民や支持団体の反応を見極める機会を得ることができたのではないか。 

 

走行距離課税で打撃が大きいのが、地方に暮らす人々と物流の事業者だ。 

 

福井県や富山県の自動車の世帯当たりの普及台数は1.6を超えている。1世帯で1台以上持つのが常識であり、生活には車が欠かせない。一方、東京都は0.4、大阪府は0.6だ(自動車検査登録情報協会「自家用乗用車(登録車と軽自動車)の世帯当たり普及台数」)。交通網の発達した都市部ほど車を持つメリットが少なくなる。 

 

しかし、賃金を多く貰っているのは都市部の人々だ。現在の東京都の平均賃金は403万7000円で大阪府は348万円。福井県は290万9000円、富山県が295万2000円である(厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査」)。 

 

つまり、走行距離課税を導入すると、所得水準の低い世帯に重い負担を強いることにもなりかねず、不公平感が生まれやすい。過疎化が進む山間部やへき地の年金生活者などは特に苦しめられるはずだ。 

 

そして事業者への影響も大きく、負担の一部はサービスに転嫁されると考えるのが普通だろう。物価上昇に拍車がかかる懸念もあるのだ。 

 

選挙期間中に野党が掲げた暫定税率廃止という甘い言葉は、増税という苦味を伴って現実のものになろうとしている。どのような案であれ、老朽化したインフラの整備には建設的な議論が必要になるだろう。 

 

取材・文/不破聡 

 

不破聡 

 

 

 
 

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