( 319413 ) 2025/08/27 04:49:06 0 00 アフリカ開発会議の夕食会であいさつする石破茂首相=8月21日、横浜市西区[代表撮影]
参院選で自民、公明の与党が大敗した責任を取って石破茂首相(自民党総裁)の辞任を求める「石破降ろし」の動きが自民内で強まる一方、首相続投を支持する声もあり、党内対立が続いている。8月の複数の世論調査によると、「辞任する必要はない」が、「辞任すべきだ」とする声を上回り、特に自民支持層の辞任不要論は、より多数を占める。その原因を探ると、今の自民党の危機的な現状も浮き彫りになる。(時事通信解説委員 村田純一)
◇石破首相、続投に「鉄の意志」
7月20日投開票の参院選で与党が大敗してから1カ月が過ぎた。石破首相は退陣せず、繰り返し続投の意欲を表明。政権維持への「鉄の意志」(首相周辺)は揺らぎそうにない。
一時は自民党内で「石破降ろし」の動きが強まり、主要メディアのほとんどは首相退陣の流れは不可避と見た。毎日、読売は早々に「首相退陣へ」と打った。
私自身は参院選後の前回記事で「参院選大敗 首相の心折れず続投表明」を主見出しとしたが、「『石破降ろし強まり』退陣の流れ」を2本目の見出しとした。今、その「退陣の流れ」は堰(せ)き止められているとも言える。首相自身、続投の気力が全く折れていないことに加え、「辞任の必要はない」という多数の世論が首相の追い風にもなっている。
相撲に例えると、石破政権はいったん土俵際まで押し込まれたものの、驚異の粘り腰で踏ん張り、持ちこたえている状況で、容易に土俵を割りそうにない。なぜ世論は、首相の辞任は不要とみているのか。
◇自民支持層も「辞任不要」が多数
8月の報道各社の世論調査結果によると、首相の進退に関する回答は次の通りだった(注=NHKは続投に「反対」「賛成」、時事通信、読売新聞は辞任すべきだと「思う」「思わない」の数字。回答の表現は「辞める必要はない」など、社によって異なる)。
NHK(8月12日)=「辞任不要」49%(自民支持層69%)、「辞めるべきだ」40%。(同23%)
時事通信(14日配信)=「辞任不要」39.9%(自民支持増65.9%)、「辞めるべきだ」36.9%(同24.6%)
朝日新聞(18日付)=「辞任不要」54%(自民支持層76%)、「辞めるべきだ」36%(同20%)
読売新聞(25日付)=「辞任不要」50%、「辞めるべきだ」42%
毎日新聞(25日付)=「辞任不要」43%、「辞めるべきだ」39%。
共同通信(24日配信)=「辞任不要」57.5%、「辞めるべきだ」40.0%。
「首相は辞める必要はない」との声は、前回7月調査よりも増えている調査結果が複数ある。
これらの調査結果をどう見るか。与党は参院選の勝敗ラインとされた「50議席」を獲得できず、衆院に続いて参院も過半数を割って少数与党に転落。参院選前の都議選も含めると、石破政権で「与党3連敗」という屈辱の結果を喫したのである。にもかかわらず、首相の辞任不要論が高まり、いずれの世論調査も、内閣支持率は上昇に転じている。不支持が支持を上回る現状は変わりないが、石破政権にやや追い風が吹き始めているのは確かだ。
左から石破茂首相、高市早苗前経済安全保障担当相、小泉進次郎農林水産相
◇裏金議員の「石破降ろし」に批判も
政治アナリストの伊藤惇夫氏に聞くと、自民支持層には次のような思いがあるのではないかと分析する。①参院選の与党大敗は決して石破首相一人だけの責任ではなく、自民党全体の責任②自民党内の抗争をいつまでも続けるべきではない③石破首相を代えても、次の総裁候補としてふさわしい人材が他にいない―。
選挙でトップリーダーの責任は免れない。過去を振り返ると、「石破首相退陣は不可避」と見るのが永田町の常識だった。しかし、自民党が有権者の不信を招き、選挙での最大の敗因は、物価高だけでなく、「裏金問題」や「政治とカネ」の問題だと、改めてクローズアップされている。
自民党派閥パーティーの裏金事件は、旧安倍派議員らの「政治とカネ」を巡る政治資金規正法違反だが、一部の議員と会計責任者らの立件にとどまり、国会で野党が追及したが、いまだに全容は解明されていない。旧安倍派の裏金議員が中心となって「石破降ろし」の声を上げるのは、「お前が言うか」と自民支持層からも反発されているのではないか。政治とカネの問題についてきちんとけじめをつけず、自民党が有権者の不信を招いたままとなっているのは、石破首相の指導力不足もあるが、自民党内の権力闘争がより批判的に見られていることも、辞任不要論を高めているようだ。
一方で、石破氏に代わり得る人材が今の自民党にいないと見られているのは、同党にとっては深刻な問題だろう。「次の首相にふさわしい人」として、世論調査では高市早苗前経済安全保障担当相、小泉進次郎農林水産相らの名前が挙がるが、「自民支持層では石破氏が最も多い」(毎日新聞)との調査結果もある。
他の調査では、高市氏がトップとの結果も出ているが、高市氏は「右寄り」過ぎて、少数与党で野党の協力を得られるかが問題視されているのは確か。外交面ではタカ派強硬路線が目立ち、中国や韓国との関係を悪化させる可能性があると指摘される。小泉氏は政治家としての経験不足、力量、能力などが不安視され、野党の支持層も含め「石破首相より適任な人がいない」と世論は見ているようだ。
林芳正官房長官、加藤勝信財務相らは閣僚経験も豊富で、実力、安定感もあり、平時であれば有力候補と考えられるが、「次の首相候補」として有権者の支持は低い。従来の官僚主導の自民党政治がそのまま続き、代わり映えがしないと思われているのではないか。旧態依然の自民党のままでは、有権者は今後ますます離れる可能性がある。伊藤氏は次のように指摘した。
「参院選では、自民党の制度疲労が如実に表れたのではないか。自民の岩盤支持層が自民から離れ、参政党などに流れたのも一因だが、自民にとって、それ以上に深刻なのは従来のふわっとした自民支持層、保守層が自民党から離れたのではないかと思う。今までは自民党政権が続けば、生活も経済も安定的に推移すると思っていた人たちが多かった。今やそうではないと。生活も経済も損なわれ、失われた30年と言われ、その間に自民党は何をしてきたのか。そこに有権者が気付き始め、不満を示しているのではないか」
自民党は9月上旬に参院選の総括をまとめ、その後に臨時の総裁選を行うかどうか、国会議員295人と都道府県連代表者47人を合わせた342人の意見を聞いて判断する。過半数が賛同すれば総裁選を行う方針だが、その賛否については記名で公表する方針で検討している。総裁選の賛否について、記名、公表となれば、首相辞任を求める「反石破勢力」の覚悟も問われる。首相続投となれば、人事で干されるのは目に見えているからだ。党内には自民分裂の可能性を危惧する声もあるが、首相周辺は「離党するような議員は誰も出ないだろう」と見ている。
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