( 319778 )  2025/08/28 06:20:37  
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 オーバーツーリズム(観光過剰)が深刻化する京都市。市民の足でもある市バスでは、混雑が大きな問題となっている。市は対策の一つとして、市民と観光客の運賃に差をつける「市民優先価格」の導入を目指す。実現すれば、全国初の試みとなる。(相間美菜子) 

 

観光客も多く利用する京都市バス。市民優先価格導入に向けて検討が進む(京都市下京区で) 

 

 市民優先価格は、市民の市バス運賃を、観光客を含む市民以外よりも割安にする、先進的な取り組みだ。混雑緩和の効果よりも、市民に観光が生活の豊かさにつながることを実感してもらう意味合いが強い。 

 

 2024年2月の市長選で導入を公約に掲げた松井孝治市長は、就任1年を迎えた25年2月の市議会代表質疑の答弁で27年度中の実現を目指すと表明。今年4月には交通局企画調査課に「市民優先価格係長」を新設し、準備を進めている。 

 

 進捗(しんちょく)について、松井市長は今月6日、「運用にあたっての実務的な課題を一つひとつクリアしていかなければならず、それが同時並行で行われている状況だ」と説明した。 

 

 導入には当初▽識別方法▽法制度上の課題▽民間バス事業者との関係――の三つの壁があるとされてきた。しかし、国交省やデジタル庁と相談を重ねる中で、北村信幸・交通局長は「数年前は無理とされていたが、『オーバーツーリズム対策として資する取り組みならば』と、先が見通せるようになってきた」と手応えを明かす。 

 

 識別には、ICカードやクレジットカードにマイナンバーをひも付ける方法を検討中。「特定の旅客に対し不当な差別的取扱いをする」ことを認めていない道路運送法上の解釈についても、国との協議は順調に進んでいるという。 

 

 しかし、市バスで市民優先価格を設定する場合、民間バス事業者の収益などに影響が生まれる可能性がある。価格を統一するか、市が事業者の損失を補填(ほてん)するかなどの対応も検討課題のほか、「マイナンバーを取得していない人や、手続き方法が分からない人へのフォローが必要だ」と北村交通局長。 

 

 

 全国の観光施設や飲食店でも、訪日客と国内客などで料金を分ける「二重価格」を導入する動きが広がっており、オーバーツーリズム対策として注目されている。 

 

 7月に開業した沖縄県のテーマパーク「ジャングリア沖縄」の入場料は、国内客税込み6930円に対して、海外客は同8800円に設定。兵庫県姫路市の姫路城では入城料について、26年から市民以外は市民より2・5倍の2500円に値上げする方針だ。 

 

 和歌山大の木川剛志教授(観光学)は「観光立国になりつつある日本では当然の流れだ。産業としての観光と住民の生活の両面を満たすのが今の課題で、観光地で日常生活を送っている人へ恩恵を与える仕組み作りが重要になる」と指摘する。 

 

 

 
 

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