( 319793 ) 2025/08/28 06:40:13 0 00 (c) Adobe Stock
減税か給付と揺れた参議院選挙の結果は、給付を掲げた自民党の惨敗だった。しかしそれでも、国が減税に向けて大きく動きがしているようには思えない。そもそもなぜ政府は消費税にこだわるのか。それについて、堀江貴文氏が「安定財源だからです。要は政治家にとっては、確実に入ってくるお金なんで」とYouTubeチャンネルにて解答したことが話題を呼んだ。その安定性とやらは、どういうことなのか。経済誌プレジデントの元編集長で作家の小倉健一氏が消費税について詳しく解説していくーー。
財務省は「もっと知りたい税のこと」(2024年6月)で、社会保障制度を次世代に引き継ぐためには安定的な財源の確保が必要であり、消費税が中心的役割を担うと説明している。受益する社会保障の負担を世代全体で分かち合うために幅広く薄く徴収される仕組みが不可欠であると強調し、消費税を景気変動に左右されにくい安定財源と位置づけている。現役世代への過度な負担集中を避けられるという理屈が掲げられている。この理屈は偽りである。消費税の実態は、不況時でも国民生活に不可欠な消費活動を通じて容赦なく徴収される冷酷な制度である。税収の安定性とは、国民の懐具合が厳しい局面でも確実に資金を吸い上げる仕組みの言い換えに過ぎない。
実際の税収推移は消費税の非情な安定性を鮮明に映し出す。2012年度、リーマンショック後の経済低迷期において消費税収は10.4兆円を維持した。法人税収は9.8兆円まで落ち込み、所得税収も14兆円に低迷した。2020年度、新型コロナウイルス感染症の蔓延で企業活動や雇用が深刻な打撃を受けた。にもかかわらず消費税収は約21兆円を記録し、過去最高水準を保った。同年度の法人税収は約12兆円、所得税収は約19兆円にまで減少した。2022年度に経済回復が進むと消費税収は23.1兆円、所得税収22.5兆円、法人税収14.9兆円となった。景気循環で大きく振れる他税目と比較して消費税だけが一貫して確保される構図が浮かび上がる。1997年の消費税率引き上げ直後も、深刻な不況下で税収は確実に徴収された。家計と企業活動に壊滅的な悪影響を及ぼした。国庫だけは着実に潤った。財務省が称賛する安定とは、国民にとっては苦境時でも搾取が止まらない仕組みの別称である。
消費税は構造的に深刻な逆進性を内包している。高所得者は収入の一部しか消費に回さない。低所得者は収入のほとんどを日々の生活費に充てざるを得ない。結果として可処分所得に占める税負担の割合は、低所得層ほど高くなる。財務省は幅広い世代から広く薄く徴収すると説明する。実態は低所得層から厚く、重く徴収する仕組みである。
統計データも過酷な現実を裏付ける。年収200万円以下の世帯では消費税負担率が所得の約9%に達する。対照的に年収1000万円を超える世帯では約4%程度にとどまると指摘されている。負担の重さが社会の最も弱い立場の人々に集中している事実は、意図的に覆い隠されてきた。国民がどれほど所得を失っても食料や生活必需品の購入は避けられない。生活に必須の行為に課税することで、低所得層の苦境を顧みず資金を吸い上げ続ける。国民生活における不可避性こそが税収安定の根拠であり、国民が自らの意思で回避できない強制徴収システムである。この仕組みを公平と言い換えるのは国民を欺く行為に等しい。
財務省は消費税を社会保障のための安定財源と繰り返し称してきた。
この説明は現実と著しく乖離している。表向きは全世代の負担を公平に分かち合う崇高な制度として強調される。実態は法人税や所得税の減収を補う安易な穴埋めに利用されてきた。伊藤周平鹿児島大学教授は、2019年6月6日に公表された「消費税増税のリスクに関する有識者コメント」で明確に指摘している。消費税収は特定の目的に使われるのではなく一般財源として扱われている。社会保障の充実どころか、むしろ削減が進んできたと断じている。消費税率が引き上げられるのと同時期に、法人税率は繰り返し引き下げられた。大企業の国際競争力確保という名目が掲げられた。裏側では国民負担によって大企業減税の財源を補填する構造が形成されていた。結果として国民は社会保障費の削減と消費増税という二重の苦しみを背負わされた。消費税導入時に掲げられた高齢化社会に対応するための社会保障充実という看板は完全に形骸化した。
消費税率は引き上げられ続けた。一方で年金給付水準は引き下げられ、医療費の自己負担は増加し、介護サービスも削減された。国民は社会保障のためと説得されて負担増を受け入れた。実際に受け取れる社会保障は縮小する一方であった。
この深刻な矛盾を財務省は説明できないまま、空虚な安定財源論だけを繰り返している。
消費税増税は財政健全化論者にとって好都合な安定収入源である。経済学的には需要を削り、景気悪化を深刻化させる致命的な逆効果を持つ。不況時に税収が減らないどころか、税率引き上げのたびに国民生活を冷え込ませ、日本経済を破壊してきた歴史がある。
1997年の税率5%への引き上げは、20年に及ぶ長期デフレ不況の引き金となった。2014年の8%への増税は、日本銀行が実施した大規模な金融緩和の効果を上回る強力なブレーキとして作用し、経済を停滞させた。浅田統一郎中央大学経済学部教授は前述の有識者コメントで、これら二度の増税が日本経済を大きく後退させた事実を強調した。
2019年10月に予定されていた10%への増税実施は、米中貿易戦争や英国のEU離脱問題による世界経済の悪影響に追い打ちをかける行為だと断じた。アベノミクスの成果を完全に帳消しにすると強く警告した。伊藤周平教授も同資料で、景気後退局面での増税は消費不況を決定的に深刻化させると主張した。両者は消費税増税の延期や凍結、さらには5%への減税を強く求めていた。学術的な分析や過去の経済データは、消費税が景気安定化機能を全く欠き、むしろ景気循環を悪化させる不安定要因であることを実証している。
政治の現場では消費税の構造的問題に対する批判と減税を求める声が高まっている。
2022年以降の急激な物価高騰を背景に、2025年の参議院議員選挙を前に主要野党はそろって消費税減税を公約に掲げた。
国民民主党は恒久的に税率を5%へ引き下げる方針を打ち出した。日本維新の会は食品の消費税を時限的に0%とする案を示した。
日本共産党やれいわ新選組も消費税の廃止または大幅な減税を強く訴えている。
立憲民主党は当初慎重な姿勢をとっていた。野党間の協調や厳しい国民感情を踏まえ、食料品の軽減税率を1年間0%にし、最長2年間の延長を可能とする時限措置を公約に加えた。与党内からも減税を求める声は上がっている。
公明党は減税と給付金を組み合わせた提案を掲げ、食料品の税率引き下げに前向きな姿勢を示している。
自由民主党においても参議院議員の約8割が何らかの減税を要望し、うち7割が食品減税を支持していると報じられている。
国民の声や党内の意見にもかかわらず、与党執行部は一貫して慎重姿勢を崩さない。財務省の立場を代弁するかのように、野党案を財政健全化の名目で拒み続けている。実際の法案成立の見通しは極めて厳しい。たとえ減税が実現したとしても、一時的な措置にとどまると見られている。政治的には財務省と官僚機構が与党幹部を事実上支配する構図が固定化している。国民の生活苦は二の次にされている。倒産や失業で生活基盤を失った人々にとって、日々の消費に課される税は最後の命綱を断つに等しい。消費税は経済的弱者を情け容赦なく追い詰める、まさに弱い者イジメの制度として機能し続けているわけだ。
こんな欠陥に満ちた税制度をあわよくば増税しようというのだから、自民党はおかしいのではないか。
小倉健一
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