( 319903 )  2025/08/29 03:31:17  
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夏休みの午後、友だちと連れ立って渋谷の街に繰り出す女子学生 

 

まもなく夏休みが終わる。中高生や大学生の中には、海、山、花火など楽しい思い出の写真や動画をSNSに投稿してきた人も多いだろう。ふだんの学校生活に比べて、夏休みは家庭の経済格差や小遣いの使い方の違いが浮き彫りになることもある。「スイートルーム最高!」「ホノルルの波、高い!」など、友人・知人たちのキラキラ体験を眺めるうち、「モヤモヤした感覚」が湧くこともあるかもしれない。この夏、若者はSNSをどのように使い、どのように向き合ってきたのか。およそ20人の中高大生やSNSに関する相談を受ける精神科医に取材した。(文・写真:ライター・上條まゆみ/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部) 

 

渋谷・ハチ公前広場は今も昔も待ち合わせスポット 

 

雨がぱらつき、猛暑も一息ついた8月半ばの16時。東京・渋谷のハチ公前広場には、多数の外国人観光客に交じり、中高生や大学生と思われる女子たちの姿があった。そこで、彼女たちにSNSについて、何をどんなふうに使っているのか、尋ねてみることにした。 

 

「SNSはLINE、X、インスタ(Instagram)、ビーリアル(BeReal.)なんかを使っていて、メインはインスタ。写真や動画に『いいね!』を押したり押されたり、友だちとメッセージをやりとりしたり。スマホがない生活なんて考えられません」と言うのは、都内・公立高校2年生、ピンクのTシャツを着た活発な印象の女の子だ。 

 

現在の中高生、大学生にとってSNSは欠かせないツールだ。とくに女子に人気があるのはインスタで、友だち関係を築き、広げ、維持するために使われている。 

 

京都から来た公立高校3年生は、インスタのアカウントを3つ持っているという。部活の全国大会に出場するため上京し、自由時間で渋谷観光を楽しんでいた。 

 

「1つ目の『本アカ』はオープンなアカウントで約300人、2つ目の『サブアカ』は約100人とつながっています。3つ目の『サブサブアカ』は本当に仲のよい友だち限定です」 

 

 

若い人や外国人でにぎわう、ネオンがつきだした渋谷駅前 

 

複数のアカウントを使い分けるのは、“いまどき女子”の常識だ。投稿する内容もアカウントによって分けている。都内の公立高校1年生は長い黒髪を揺らしながら、こう話す。 

 

「私の場合、『本アカ』はきれいな景色とか、ちょっとおしゃれな写真が撮れたとき、たまに投稿するくらい。よく動かしているのは『サブアカ』で、日常の写真をアップして日記代わりにしています。『サブサブアカ』は仲よしの子しか見ないから、変顔や家族の写真も気軽に載せちゃいます」 

 

こうした使い分けの背景には「オープンなアカウントでは顔を出さない」「人の悪口などネガティブな投稿はしない」といった、一定のルール意識があるという。 

 

一方で、リアルで会ったことがなくても、インスタ経由で友だちになることもあるというのは、千葉県の私立高校1年生だ。 

 

「インスタに流れてくる写真を見て『かわいいな』『趣味が合いそうだな』と感じた子にはDMして、そこから友だちになることもあります。いま通っている高校はオタク系の子が多く、私はどちらかというとギャル系なので、気が合う子がいないんです。『いまから遊べる人〜?』って投稿すると誰かしら反応してくれるので、そこから待ち合わせして遊びます」 

 

こうした話を聞いていると、彼女たちは軽やかにSNSライフを満喫しているように思える。だが、その裏で、葛藤を抱えることもある。「華やかな」投稿を見続けることで、つい自身と比較してしまうためだ。 

 

「夏休みになって、海外旅行や短期留学に行っている子たちの写真がタイムラインに流れてくるようになりました。カナダやアメリカ、ヨーロッパ……。きれいな街並みやおいしそうなごはん、ホストファミリーとの写真を見ると、正直、うらやましい」 

 

そう言って、都内の公立高校2年生は顔を曇らせた。「人は人」とわかっていても、素直に「いいね!」と押せない、押したくない。でも、そんなふうに思う自分もいやだという。ただ、関係性を壊したくないから、結局は「いいね!」を押す。 

 

ほかにも「海外」について語る子は、複数いた。東京の私立大学1年生によれば、夏休みのSNSは家庭の経済力の差がはっきり出るという。 

 

「ハワイの別荘の写真とかあげてる子もいて、どんだけ実家、太いんだ!って。とくに夏休みは、親の経済力の違いがあからさまに出ちゃいますよね。いま自分は大学生なのでバイトもできるからいいんですけど、高校生のときはちょいつらかったです」 

 

 

ハワイも近年は円安やインフレで日本人旅行客は減っている 

 

家庭の経済格差は小遣いの使い方にも表れる。都内・私立女子高校2年生によれば、同級生には桁外れの金持ちがいるそうだ。 

 

「お小遣いを年間100万円以上もらっている子がいます。その子は地下アイドルのファンで、ライブなんかでバンバンお金を使うんです。1枚1000円で『推し』とチェキが撮れるのですが、何枚も撮ってインスタにあげている。ふつうの家の子は1枚撮るのもやっとなので、『それってマウント?』って感じちゃいます」 

 

取材した子たちの中には、「うらやましがられる」側の子もいた。都内の私立女子高校1年生は、高校を休学して韓国に1年間留学しており、日本に帰国中。小学校時代の友だちと久しぶりに会うため、渋谷に遊びに来たという。 

 

「韓国の友だちに日本のことを知ってもらうためにも、出かけた場所や買ったものなどの写真をインスタに積極的にあげています。そうしたら、いちいち私のまねをしてくる同級生がいるんです。インスタのアイコンやアカウント名を寄せてきたり、私が買ったものや着ている服と同じものを買ってその写真をアップしたり。あれ絶対、わざとなんです。たぶん妬まれてるんだと思う」 

 

いいなと思う人もいれば、いいなと思われる人もいる。ときには悩ましい感情も湧き起こる。 

 

こうした若い世代のSNSの光と影を見つめて、「Z世代の最新SNS事情」を同世代目線で発信しているのが蒼葉レイさんだ。中学時代に不登校を経験し、通信制高校を経て、現在は都内の大学に通っている。蒼葉さんは高校生当時、「SNS世代の若者の幸福度は低い」との論考をnoteで公開している。 

 

SNSは誰かに自分を認めてもらう場所(写真:maimigimaki/イメージマート) 

 

いまの若い世代にとって、SNSはただの連絡手段や暇つぶしのツールではない、と蒼葉さんは言う。 

 

「SNSは自分を表現して誰かに自分を認めてもらう場所、つまり、承認欲求を満たすための装置です。とくにインスタはリア充というか、生活のキラキラぶりを見せ合うためのものなので、どうしても『格差』が可視化されてしまいます。学校生活の中だけではわかりにくかった、家庭の経済格差もはっきり見えてしまう。いやな気持ちになることも多いのではないでしょうか」 

 

実際、SNSをきっかけに心身の不調を訴える若者は少なくない。いじめなどの他害的なケースもあるが、周囲との比較による自己肯定感の低下もある。 

 

こうしたSNSと若い世代はどう向き合えばよいのか。 

 

 

“世界初のバーチャル精神科医”として活動する「いっちー」こと一林大基さんは、SNSで情報を発信する一方、「質問箱」で若者の相談に答えている。そのなかで、たくさんの「SNSにまつわる悩み」と向き合ってきた。 

 

「昔はネットといえば匿名性が高く、現実とは別の世界でした。匿名掲示板のように、誰が書いているのかわからない場所で、リアルの自分とは切り離して自由に発言できたんです。でも、いまは状況がまったく違います。SNSの発達で、現実とネットの世界がつながり、発信者が誰なのかわかったうえでつながることが増えたのです」 

 

“世界初のバーチャル精神科医”として活動する「いっちー」こと一林大基さん 

 

この変化を加速させたのがコロナ禍だった。外出できず、人と会う機会が激減したなかで「さみしかったらSNSで話そう」という空気が広まり、オンラインでの交流が拡大。かつては「親に隠れてこっそりやるもの」だったSNSが、むしろ推奨されるようになった。 

 

SNSが生活に浸透するほど、そこから派生する問題も無視できなくなってくる。 

 

「おもに女性はコミュニティー形成に用いる傾向が強く、そのなかでいじめや仲間はずれが起こりやすい。また、男性の多くはリアルでは言えない本音や孤独感をぶつける場として利用し、依存に陥りやすい傾向があります。女性は『人間関係で傷つく』、男性は『孤独が深まる』ことが多いというのが、私がネットで若者の相談を受けていての印象です」 

 

SNSのメンタルへの影響は、海外の研究でも指摘されている。 

 

2017年、イギリスの王立公衆衛生協会(RSPH)がSNSが若者の精神状態に及ぼす影響を調査したところ、若者の心に与える不安感や孤独感、いじめ、外見への劣等感など否定的な影響では、とくにインスタグラムがほかのSNSよりも高いことがわかった。 

 

「インスタグラムは視覚刺激が強く、人の『よい面』だけが切り取られて流れる構造です。そのため、羨望や劣等感を引き起こしやすいのだと思います。『うらやましい』『ずるい』というのは、人の本能に近い感情なので、自分の意思だけではなかなか打ち消すことができません」 

 

 

 
 

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