( 320436 ) 2025/08/31 03:56:05 1 00 東京・渋谷区の渋谷ヒカリエでの肩がぶつかり、催涙スプレーを使って8人が搬送される事件を受け、近年の肩のぶつかりによるトラブルの背景が議論されている。 |
( 320438 ) 2025/08/31 03:56:05 0 00 肩がぶつかって“キレる”人の心理とは…(写真はイメージ/GettyImages)
8月23日、東京・渋谷区の商業施設「渋谷ヒカリエ」で男が催涙スプレーを噴射し、8人が病院に搬送される事件があった。傷害の疑いで現行犯逮捕されたのは、自称会社員の46歳の男。被害者の一人と肩がぶつかったことで口論になり、スプレーを噴射したという。昨今、街中で肩がぶつかってトラブルに発展するケースが散見されるが、その背景にはSNS時代ならではの「動機」がありそうだ。
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今回のヒカリエの一件以外にも、肩がぶつかったことで傷害事件を引き起こした例は複数報じられている。
2024年9月、神奈川県のJR茅ケ崎駅前で男性(37=当時、以下同)の顔面を傘の先端で突いたとして、会社員の男 (41)が逮捕された。2人の間に面識はなく、歩行中に肩がぶつかり口論になったという。
相手に重傷を負わせる事件も起きている。22年8月、神奈川県高津区の路上で友人と立ち話をしていた男性(33)が、会社員の男(29)に顔を殴られて下あごを骨折した。男は男性と肩がぶつかりそうになり暴行に及んだとされる。
なぜ、肩がぶつかったくらいで“キレて”しまうのか。傷害事件に発展するケースはまれだろうが、街中でも通行人同士の体がぶつかって言い争う姿は時折見かける。東洋大学社会学部社会心理学科の戸梶亜紀彦教授は「歩きスマホ」が原因になっているケースが少なくないとみる。
「スマホ画面に集中し、さらにはイヤホンまでつけて歩く人の姿をよく目にします。彼らは衆人の中にいながら完全なプライベート環境をつくり出している。そういう状況で他者と接触すると、驚きだけでなく『自分の空間に侵入された』という怒りが芽生え、過剰に反応してしまうのでしょう」
■「前を見て歩かないやつが悪い」という心理
戸梶教授は、歩きスマホをしている人は加害者だけではなく、周囲から“ターゲット”にされ被害者にもなり得ると指摘する。
「一部ですが、歩きスマホをする人に対して、あえてよけない人がいます。その行動には、『前を見て歩かないやつが悪いのに、なぜ自分が道を譲らなければいけないのか』という心理が働いているのでしょう。『痛い目に遭わせてこらしめてやろう』と過剰な正義感を振りかざし、自分からぶつかりに行くケースさえあるようです」
わざとぶつかってくる人について、X上では「ぶつかりおじさん/おばさん」というワードで頻繁に話題に上がり、数々の事案が報告されている。
「今日は駅前でぶつかりおじさんに会いました。向かってくるおじさんの肘鉄が二の腕に直撃しました。男性はそのまま去りましたが私の二の腕には青タンができてます。なぜ、ただ歩いている人に暴行を働くことができるのだろう」
「駅にぶつかりおじさんならぬぶつかりおばさんいた。俺だけじゃなくて中高生くらいの女の子にもぶつかりに行ってたので追いかけて注意しちゃった」
中には、リュック姿の男が駅構内ですれちがう女性たちに次々と肩をぶつけて歩く様子を動画付きで紹介するポストもあった。
■ぶつかり行為と「エコーチェンバー」の関係
戸梶教授は、ぶつかりおじさん/おばさんが次々現れる事態は、現代のSNS社会に関連があるのではないかと仮説を立てている。
日常的にSNSに触れていると、自らの倫理観や善悪の基準を絶対視してしまう危険性が指摘されている。似たような思想や価値観を持つ人たちがコミュニティーをつくり、その中で意見を発信すれば、多くの賛同が寄せられる。そのうちに、自分の考えは世の多数派だと思い込んでしまう。一般に「エコーチェンバー」と呼ばれる現象だ。
「ネット空間で自己主張をしたり誰かを批判したりするうち、次第に現実世界においても、“正義”のためなら相手にダメージを与えてもいいと思ってしまい、身体的な攻撃を行うようになっているのではないか。クレーマーの増加からも見て取れるように、今の日本社会では他者への攻撃性が蔓延(まんえん)しており、すでに危機的状況のように思います」
肩がぶつかっただけで警察沙汰になる世の中には、想像以上に深刻な“闇”があるのかもしれない。
(AERA編集部・大谷百合絵)
大谷百合絵
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