( 320483 )  2025/08/31 04:51:56  
00

石破茂首相 

 

永田町の論理と自民党の宿痾が石破首相を排斥しようとすればするほど、石破首相は本来の政治姿勢、歴史意識、平和観を打ち出し、それが国民の支持に結びつき始めている。首相の進退が民主主義の本質に関わるという稀な事態を、3人の論者とともに倉重篤郎が掘り下げる。 

 

◇自民党の右傾化を阻止せよ 

 

 石破茂首相進退政局は、粘る石破氏と退陣を迫る勢力との綱引きがなお続いている。いずれも決定打がないまま、膠着(こうちゃく)状態に入っているが、月末に予定されている参院選敗北の党総括の中身がどうなるか。それをうけて森山裕幹事長が自らの進退をどう決するかが一つのヤマになるだろう。 

 

 仮に森山氏が辞任すれば、政権は苦しい政局運営となる。党内の抑えや野党との交渉など、森山氏におんぶに抱っこしてきたところが多々あるからだ。実際に石破氏が「森山氏なくしては政権が立ち行かない」と嘆息をついた場面を目撃したこともある。ただ、森山氏の辞任が石破退陣に直結するかはまた別であろう。 

 

 というのも石破政権とは、世論が作り出した政権であるからだ。総裁選に4度も負け、派閥も子分も雲散霧消した石破氏がなぜ5度目の正直で総裁の椅子を掴(つか)んだか。それは裏金事件で自民党が解体的危機に陥る中、石破氏が党の顔になれば、世論の逆風が緩和、自分たちが選挙で上がってこれる確率が高くなる、との自民党国会議員総体の見立てがあったからである。だが、昨年10月の衆院選、7月の参院選でいずれも過半数割れで、裏切られた気分が議員に横溢(おういつ)、それが石破おろしを加速させている。 

 

 ただ、石破氏だからあの程度の敗北で済んだとは総括できないか。石破氏だからまた支持率が回復する、とも。その二つが正しいなら、まだ石破氏は自民党の救世主たり得る。支持率が上がり世論が石破擁護に向かうと、自民党内の空気も野党の対応も変わるからだ。永田町の力学ではなく、世論の支持を基盤に政権を獲得した石破氏は、また世論の支持回復により政権維持が可能になるのだ。 

 

 

 つまり、今後の政局は世論次第だというのが、我が見立てである。そこを最も理解しているのは石破氏本人だろう。実際に世論はじわり動き始めている。官邸周辺で「石破辞めるなデモ」が数百人規模で3回行われた。自然発生的な集まりだろう。NHK世論調査(8月9~11日)によると、内閣支持率は38%と7月より7㌽上昇、不支持率は8㌽下がって45%だった。 

 

 自民党内の石破おろしと世論の石破擁護が今後どんな綱引きを展開するのか。それによって党内の石破おろしの力学がどう変化するのか、しないのかが政局の肝だ。 

 

 かつて村松友視氏はその著『私、プロレスの味方です』で、プロレスという格闘エンタメにひそむ虚実皮膜の凄味(すごみ)を称揚、「味方」として魅力を語った。ならば今、本欄は、石破氏という自民党少数派の異端首相の「味方」となろう。 

 

 現状では自民党国会議員の半数近くが石破退陣、3割が石破擁護、2割がどっちつかずと言われる。この際、3割の少数派に耳を傾けたい。知性派の代表・船田元衆院議員、武闘派の代表・鈴木宗男参院議員に語っていただく。世論の代弁者としては「 

 

」と応援している田中優子元法政大総長に寄稿いただき、評論家の中森明夫氏にも、アイドル論的観点から分析をお願いした。 

 

 まず船田元氏だ。船田氏は当選14回の大ベテラン。最大派閥経世会の次代ホープとして嘱望されたが、小沢一郎氏を信奉し、共に自民党を離党、新生党、新進党と行動を共にしたことで、自民党復党後は冷遇、ただ、バランス感覚のある中道保守のご意見番として存在感を示してきた。石破氏とは、小沢氏の下で政治改革に携わり、時期は別だが共に離党、復党した共通項がある。今回早い段階から石破氏の続投を支持、衆参両院議員総会でも最初に手を挙げて、石破擁護論を展開した。 

 

 なぜ石破続投支持? 

 

「端的に言えば自民党の行く末を心配した。具体的には、石破氏がおろされた場合、次が誰になるかわからないが、右バネが自民党内で強くなることを非常に恐れる。というのも、参政党が自民党支持のコアの部分を結構持っていってしまったことに自民党全体が焦っている。参政党の主張を自民党でも取り入れようという力学が働きそうな状況で、石破氏が辞めたら誰が次の総理総裁になってもそちらの方向に引っ張られる。むしろそれが国難だ。私自身はそういうところにはいたくない。保守中道を幅広く自民党内に繋(つな)ぎ止めたいとの気持ちがあった」 

 

 

 政権9カ月どう評価? 

 

「石破政権は発足当初から自民党内の負の遺産に苛(さいな)まれながら、その解消に向け苦労して頑張ってきた。少数与党政権のもとで、昨年の臨時国会そして通常国会では、テーマごとに野党との合意を取り付け、補正予算や本予算、年金改革などの重要案件を成立させるなど、見事に乗り切った。参院選後、中央政界は多党化時代に突入しており、各党との交渉を首尾よく行えるのは石破氏だけだ」 

 

 右バネ働くとどうなる? 

 

「一つは財政健全化に赤信号がともる。ますます支出増になるだろうし、すでに上がり始めている長期金利の動向にも影響が出てくる。私は消費税は下げてはいけないと言っている。その他、選択的夫婦別姓は完全に潰される。皇室改革も旧宮家が復活してしまう」 

 

 高市早苗首相になると靖国参拝問題が起きる。 

 

「日中関係が完全に駄目になり、その後の日中は大変な状況になる。もちろん台湾は大事だが、中国が台湾を攻めないように説得したり、中国の野心を和らげるための日中関係というものが必要だと思う」 

 

 その他安全保障面は? 

 

「もう安倍晋三首相時代にあそこまでやっている。当面あれ以上のことは右の勢力が政権をとってもなかなか出てこない。防衛費も岸田文雄政権で倍増に近い形を出している。米国との関係は地位協定の改善は必要かもしれない。もうちょっと日本と米国が対等の立場で話し合いできるような環境を作りたいと思っている」 

 

◇「それはガセだ。俺は絶対辞めない」 

 

 石破氏の続投意欲は? 

 

「使命感を感じる。辞めるのは簡単だが、ここで投げ出したら、私が言ったような自民党になってしまう心配がある。直接聞いていないが、長年話をしていると彼が持つ感覚は伝わってくる。泥をかぶると言うか、自民党の負の遺産を今自分が全面的に引き受けて何とか打開しようとしている」 

 

 負の遺産の最大は? 

 

「安倍派の政治資金の記載漏れ、政治とカネの問題だ。企業献金は残して透明化する。入り口を多少絞ることが必要になるが、それはできる。立憲の方も話し合いしたいと言っている。それは乗ってもいいと思う」 

 

 

 続投決意、どの段階で? 

 

「自公足して50議席という、そうでなくても低めの参院選の勝敗ラインをかなり下回るとの予測が出回っていたが、それがマイナス3で済むという見通しがついた時点ではないか。森山幹事長がそういう報告をしたと思う。これなら辞めなくて済むな、と」 

 

 それ以降、意思は不変? 

 

「人間だから波もあると思うが、周りにはそれは出していない」 

 

 毎日、読売の「石破退陣へ」報道もあった。読売は号外まで出した。 

 

「それで余計気持ちが固まったようだ。私も号外を見て、『総理辞めるの?』とメールを送ったら『それはガセだ。俺は絶対辞めない』と打ち返してきた」 

 

 石破続投に何が必要か? 

 

「二つある。一つは、石破氏が政策上の実績を上げる。具体的には自動車も含めてトランプ関税15%ということを確実に合意文書にして、トランプが何と言おうと動けない状況を作る。そのための国内対策もきちんとやる。年金改革も基礎年金の安定化を図る。ガソリン暫定税率廃止も着実にやる。高校授業料の無償化も大筋は決めてあるが、維新との間で中身を詰める」 

 

「もう一つは、少数与党としてどうやって国会を回していくか。できるだけ多くの野党と話し合う。石破では嫌だ、もいるが、協力しよう、もいる。先述のように立憲の野田佳彦代表との間で企業・団体献金の話で、前向きな動きも出ている。野党との話し合いが常にでき、合意も達成できるような雰囲気を作る。がりがりの右寄りではない石破氏だからできる。特に立憲との話し合いができるのは石破氏くらいしかいない」 

 

 小泉進次郎氏には? 

 

「多分できないのではないか。警戒感の方が強い。高市氏はもっと難しい。小林鷹之氏はまだこれからの人だと思う。野党との緊密な対話拡大と自民党内の支持拡大を同時並行で進めていく。その中で少数与党状況解消に努力していくが、一番確実なのは、維新と連立に入ることだろう」 

 

 なぜ維新? 

 

「衆院選、参院選で票と人を減らしている。行き詰まっている状況を打開するために自民党が若干手を貸す。大阪以外の維新との関係は悪くない。大阪の自民党の皆さんには悪いが、そういう点では維新と一緒がやりやすい。政策的にも近い。国民民主は、玉木雄一郎代表が飛び跳ねてしまっているからちょっと難しい。立憲とは、お互いの選挙区がぶつかり過ぎており、平時は大連立は無理だが、部分的に協力してもらうことはありうるし、追求すべきだろう」 

 

 

 
 

IMAGE