( 320518 )  2025/08/31 05:36:53  
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1000店舗計画の行方は? 

 

 5月にセブン&アイ・ホールディングスの社長に就任したばかりの、スティーブン・ヘイズ・デイカス氏が、セブンーイレブンについて2030年度までに国内で1000店舗増やす構想を発表して話題になっている。 

 

 コンビニの国内店舗数は5万店を超え、既に飽和しており、短期間の大量出店は難しいと見られている。当該ニュースに対するSNSの書き込みでは、「できるわけない」という否定的なコメントが大勢を占めている。実際、日本フランチャイズチェーン協会によると、コンビニの国内店舗数は、コロナ前の2019年12月に5万5620だったものの、2025年7月は5万5882と横ばいだ。 

 

 しかも、近年セブンの業績は、コロナ禍収束後の食材費、物流費、人件費などの、コスト高を受けた値上げにより、顧客離れが進んで頭打ちとなっていた。2025年2月期の決算によれば、国内コンビニエンスストア事業の売り上げにあたる営業収益は9041億5200万円(前年同期比98.1%)、営業利益は2335億5400万円(同93.2%)で、減収減益と厳しい結果に終わっていた。 

 

 デイカス社長も「近年はコンビニからディスカウントストアに顧客が流れる傾向がある」「当社は“食”に強みを持っていたが、競合他社が追い付いてきた」といった趣旨の発言をしている。セブンは安くないものの、適正価格で圧倒的においしいものを提供しているという、従来からあったイメージが棄損(きそん)されていることを、デイカス社長は十分に自覚している。 

 

 近年のセブンに対する悪評を象徴するのは「弁当の箱が上げ底になっている」との批判だ。購入者が、パッと見た目では分量が変わっていない、または増量されていると思って食べ進めてみると、随分と早くに底が見えてきて、だまされた気分になる。本当に上げ底で“ステルス値上げ”をしていたかどうかはともかく、こうしたイメージがつくのは致命的だ。 

 

 ウォルマート・ジャパン・ホールディングス(当時)のCEOなどを過去に務め、日本でのビジネス経験も豊富なデイカス社長は、英語に流ちょうな日本語を交えながら、「9月から、当社はコンビニ事業に特化した企業になる。これまで、スーパーや専門店に割いていた人材をコンビニに集中できる」と話す。 

 

 これまでは総合スーパー「イトーヨーカドー」やファミレス「デニーズ」の再建に苦慮してきた。今後は、もっとシンプルに、コンビニの価値向上だけを考えて行動できる経営環境が整った、とのことだ。果たしてセブンは、1000店増を実現できるだろうか。 

 

 

 セブンに限ったことではないが、今回の大阪万博に行った人の多くは、あらためてコンビニの利便性や安心感を知ったのではないか。会場内のコンビニでは、各国・各企業のパビリオンの展示がしのぎを削る、一種の祝祭空間の中、いつもと変わらない値段、内容で弁当、おにぎり、総菜パン、飲料水、日用雑貨を売っている。高価なレストランが並ぶ中、かつてより値段が上がったとはいえ、コンビニの食品の価格は、万博会場内では別世界の安さだ。 

 

 雨が降れば、雨具を持っていなくてもビニール傘を売っているし、ちょっとしたお土産も売っている。大都会のど真ん中でも、地方のロードサイドでも、コンビニの基本的な商品は変わらない。家賃が高い東京の中心部のビルに入居するレストランで、1000円以下の定食メニューを探すのは困難だ。できるだけ安価に食事を済ませたいときには、コンビニはとても頼りになる。 

 

 しかも、深夜、早朝、ランチとディナーの間のアイドルタイムでも、コンビニは開いている。地方のコンビニでは、ニーズに合わせて生鮮食品も一部置くなど、スーパーの代用になる「よろずや」として機能するだけでなく、新商品を通じてトレンドを把握できるメディアとしての役割も果たしている。 

 

 このようにコンビニの社会的機能を考えていくと、近隣にコンビニを欲している人々が数多く存在しているのではないだろうか。 

 

 例えば、商店街が衰退してしまっただけでなく高齢化が進む都市の団地。そして、地方にはコンビニすらないエリアが多く残されている。車で5~10分も走れば、コンビニにたどり着ける場合も多いが、いちいち何をするにも車が頼りでは、やはり不便だ。都内にある有名な団地でも、コンビニが敷地内にないといったケースもある。 

 

 数少ないが、東京のウォーターフロントのように、人口の急増に対して商店数が足りていない地域もある。田町と品川の中間辺りの位置する芝浦海岸通りには、比較的新しい企業のビル、マンションが連なっているが、点在するコンビニくらいしか目ぼしい商店がない。コンビニも含めて商店、飲食店がもう少し増え、商品アイテムも広げてくれないと、日常を過ごすには不便だ。 

 

 このような出店可能な地域を細かく拾い、店舗のリロケーションを進めると、各社が見落としている場所は意外と多く、かなりの出店余地があると考えられる。 

 

 

 コンビニ主要3社の1店舗当たり平均日販(2025年2月期)は、セブンが69.2万円、ファミマが57.3万円、ローソンが57.4万円だ。近年はセブンの販売力が低下し、ファミマとローソンに詰められているが、まだ10万円以上の開きがある。そこに気の緩みというか、慢心があったから、上げ底弁当と揶揄(やゆ)される商品など悪手を打ってしまい、ヘビーユーザーの怒りを買ってしまった。 

 

 経営陣としてみれば、世界の穀倉地帯であるロシア・ウクライナ戦争が始まったことによる、小麦、大豆、食用油、家畜の飼料高騰による原材料の値上がりは想定外だろう。米の急激な価格高騰、海苔やコーヒー豆の不作による価格高騰も、頭の痛いところだ。人手不足で人件費や輸送費も上がっており、値上げはやむを得ない。 

 

 ところが厚生労働省の「毎月勤労統計調査」によれば、6月の実質賃金は、前年同月比1.3%減で、6カ月連続のマイナスとなっている。コロナ禍から経済が正常化していく過程にありながら、国民は一貫して貧しくなり続けている。使える金額が減っているから、生活に密着したコンビニの値上げが骨身にしみるのだ。 

 

 値下げの施策として、ローソンでは従来価格のまま増量をする「盛りすぎチャレンジ」なる一連のキャンペーンを敢行。ファミリーマートでも「お値段そのまま デカくてうまい!!ざっくり40%増量作戦」を行うなど、安価でたくさん食べたい、コンビニの男性ヘビーユーザー向けの企画を適時、効果的に投入した。 

 

 こうした流れにセブンは遅れた。ファミリーマートやローソンが値段据え置きで4割、5割増量しているときに、上げ底弁当では、ブランドが棄損(きそん)するのも当然だろう。 

 

 もちろんセブンも2024年末に、比較的安価で買える商品を「うれしい値!」のロゴやシールを付けて売り始めた。直近では8月18~31日の期間限定で、一部の「セブンプレミアム」や「セブンプレミアムゴールド」の商品を15%引きにするセールを実施している。 

 

 このような企画は、これまでリーチしていなかった顧客を振り向かせる機会創出になるので、継続する意義がある。 

 

 

 コスト高を吸収するための値上げと、購買力低下に悩むユーザーを救済する値下げのバランスを、ファミリーマートとローソンは巧みに操縦したが、セブンも遅ればせながら独自の勝ち筋を見つけつつある。 

 

 ただし、それだけで1000店も増やせるかは疑問だ。そこで、従来から推進してきた、コンビニと小型スーパーを融合させた「SIPストア」の拡大が必要だろう。 

 

 2024年2月に出店した松戸常盤平駅前店は、売場面積が約88坪と通常の1.5倍ほどの広さがあり、生鮮3品を本格的に扱い、冷凍食品などのコーナーも拡充させて、毎日の買い物の利便を追求。カウンター周りにある出来たてのフードやドリンクのコーナーも、より充実させている。2階には広いイートインのコーナーを設けて、地域の人たちが集えるカフェ的な利用も可能とした。 

 

 この店は、強力なディスカウントスーパー「オーケー」がすぐ向かいにあるが、特にスーパー閉店後の深夜帯が好調で、共存できているとのこと。そうであるならば、深夜・早朝に営業しない同様のスーパーの隣に出店する“コバンザメ商法”も可能だ。 

 

 生鮮の加工は、イトーヨーカ堂が千葉県流山市に構築した食品加工工場「Peace Deli 流山キッチン」から調達しており、コンビニとスーパーの経営分離の影響がどう出るか。不安な面もある。 

 

 また、イトーヨーカ堂がアダストリアと提携して、ファミリー層をターゲットに2024年2月から展開しているブランド「ファウンドグッド」も、2026年2月で終了となる。顧客層が老齢化したヨーカドーでは思ったほどの成果が上がらなかったようだが、セブンの顧客層には合っており、SIPストア向きの商品も多い。ファミマの「コンビニエンスウェア」やローソンで展開している「無印良品」にも対抗できる。 

 

 セブンは、雑貨では既に「ダイソー」と提携しているが、その提携も強化しつつ、ファウンドグッドも展開すればかなりの集客が見込めると思われただけに、残念だ。 

 

 

 
 

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