( 320793 )  2025/09/01 05:27:23  
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スキマバイトアプリを活用し、スポット保育士として働く大庭芳恵さん(手前)。正規職員とともに子供を寝かしつける=神奈川県藤沢市の認可保育園(重松明子撮影) 

 

ひとりの母親が匿名ブログで待機児童問題を訴えた「保育園落ちた日本死ね」騒動から9年。待機児童数はピークだった8年前の1割未満、令和7年4月時点で2254人(こども家庭庁調べ)にまで減ったが、また次の論議が熱を帯びてきた。単発の求人と働き手をマッチングする、スキマバイトアプリ経由で働く「スポット保育士」の存在が賛否を呼んでいる。「子供を預けたくない」「責任はとれるのか」といった意見の一方、保育士不足に悩む現場では歓迎の声もあがっている。 

 

■利用あるなしで〝真逆の評価〟 

 

保育士有資格者約179万人に対して、実際に現場で働いている人は約70万人に過ぎない(令和4年時点)。「数字でしか見えていなかった人々が、アプリをきっかけに現実に現れて驚いた。え、あのマンションにいたのとか、以前働いていた方が戻ってきたりとか、眠っていた保育士たち。優秀な方にはリピーターになっていただき正規職員にも迎えた。超強力な採用ツールと感じています」 

 

神奈川県藤沢市の大型認可保育園「キディ湘南C-X」の戸島翔平園長(40)が実感を込めた。保育士は55人いて配置基準をかろうじて維持しているが、昨年10月からアプリを利用し、これまでに100人のスポット保育士を活用。主に朝~昼の時間帯の補助的業務、子供と1対1にならない範囲に職域を限定している。 

 

取材時は大庭芳恵さん(39)が2歳児クラスに配置され、昼食を終えた子供たちの寝かしつけを行っていた。小中学生3人の子の母でもあり慣れた様子だ。もともと事務職だが、子育て中に助けてもらった恩を返したいと通信教育で2年間学び、5年前に保育士資格を取得。昨秋からスポット保育士として働きだした。「保護者の不安や拒否感もすごくわかる」と大庭さん。「ただ、人手不足の中で保育が行われることのほうが怖い。保育の『質』の確保には十分な『量』が前提になる。批判は働き手や園よりも、長年の保育士不足を放置してきた行政に向けてもらえたら」 

 

最初の仕事はアプリに届いた前夜の求人だった。「先生(正規保育士)の急病だろうか? 私で力になれれば」と申し込んだ。スポット保育士として働くにはアプリ運営会社を通じて保育士証と履歴書に加えて毎月検便を提出するほか、爪を短く切り、ピアスや派手な髪形、厚化粧不可などの縛りがある。一方、スキマバイトのCMでは居酒屋などで気軽に働くイメージが強調され、「保育士も同じ感覚で見られている」。 

 

 

保育士不足、定着率の低さの要因として、報酬に比して責任と労力の過重が指摘され続けている。 

 

保護者との連絡帳、業務日誌や指導計画の作成、登園管理など保育士が担う事務作業をICT(情報通信技術)で効率化するコドモン(本社・東京都品川区)は5月、システムの利用施設に対して「スポット保育士利用に関する調査」(有効回答258件)を実施。それによると、利用したことのある施設は12・4%で満足度は94%と高いが、未利用施設では76%が今後も利用せずの意向を示した。 

 

「利用のあるなしで真逆の評価といえる結果が出た。私も3歳の子を保育園に通わせており不安も感じてはいるが、保育士の有効求人倍率が4倍に迫る争奪戦状態のなか、今後どのような活用ができるのか。まずは実態を知り、可能性を探りたい」とコドモン広報グループの菊地亜希マネジャー(41)。 

 

同社システム契約は全国682自治体に及び、施設数2万2631所、対象の保護者は379万人、園児・児童191万人に上る。 

 

来年度から親の就労状態を問わず保育園などに預けられる「こども誰でも通園制度」が本格実施され、人材確保の切迫度は益々高まるだろう。面接ですら見抜くことが容易でない能力や人柄の見極めをアプリに求めるのは困難であり、スポット保育士が望ましい就労形態であるとはいえない。しかし、これも日本の実情だ。外国人労働者などに頼る前に、国民全体で議論を深める必要があると思う。(重松明子) 

 

 

 
 

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