( 320883 )  2025/09/01 07:11:25  
00

人手不足問題をどう考えるか(写真:イメージマート) 

 

 今から20年後、日本に「10人に1人が外国人」という社会が到来するとの試算がある。それどころか、2060年代には「5人に1人」にまで増える可能性も指摘されている。その一方で、日本人人口が急速に減り続け、医療・介護・教育・建設・物流などの「現場の仕事」の人手不足を補うべく“外国人頼み”となっている現実がある。果たして、日本は外国人労働者をどう受け入れていくべきか。人口減少ニッポンが行き着く衝撃的な未来を解説した話題書『縮んで勝つ』の著者・河合雅司氏が解説する。【前後編の後編。前編記事から読む】 

 

 * * * 

 外国人労働者の受け入れ拡大に積極的な人々は、その理由としてしばしば「人手不足対策」を前面に押し出す。だが、そもそも「外国人労働者に頼らなければ日本社会は回らない」という主張は正しいのだろうか。 

 

 現時点において、外国人なしに成り立たない職場があることは事実だ。だからと言って、必ずしも「今後、外国人労働者の受け入れを拡大し続けなければならない」ということにはならない。 

 

 人口減少に伴って勤労世代が減り、人手不足は続くが、同時に国内需要も減るからだ。“消費者不足”に陥る今後の日本では、労働生産性を上げられない企業は倒産や廃業に追い込まれる。そうなれば必然的に「人手不足の規模」も縮小する。 

 

 これに関しては、経済産業省が6月に公表した将来の産業構造の転換を踏まえた「2040年の就業構造推計」が興味深い。「投資と賃上げが牽引する成長型経済」に転換できれば、深刻な人手不足は起こらない──と結論づけているのだ。 

 

 経産省によれば、人口減少によって労働供給は減少するが、AI・ロボットの活用促進や、リスキリングなどによる「労働の質」の向上が進むことで189万人分相当をカバーすることが可能であり、2040年に必要となる人手は概ね確保できるという。 

 

 経産省がむしろ問題視しているのは職種間のミスマッチだ。各産業でAI・ロボットの活用を担う人材が300万人ほど不足すると計算している。反対に、生成AIおよびロボットなどの普及に伴う省力化によって事務や販売、サービスなどの仕事の多くが不要となり、こちらは約300万人の余剰が生じる可能性があるとしている。 

 

 これに関連して学歴間のミスマッチについても言及しているが、大学卒や大学院卒の理系人材が100万人以上不足する一方、大学卒の文系人材は30万人ほどの余剰が生じる恐れがあると試算している。 

 

 生成AIの進歩は目覚ましく、産業構造を劇的に変え始めている。世界各国でその効果や影響の分析が進められているが、「管理部門をはじめとするホワイトカラー職種の多くが不要になる」との予測が少なくない。経産省の推計は、概ねこれを裏付ける内容だ。 

 

 日本でも、すでに生成AIの活用の広がりを睨んだ取り組みが始まっている。大企業などでは事業所や店舗の統廃合、従業員の配置転換や「黒字リストラ」が進み、営業や販売の手法も変わってきている。ビジネスの在り方を見直す流れは、さらに強まるだろう。 

 

 ホワイトカラーの仕事が全く無くなるわけではないが、生成AIの進化と普及に伴ってどんどん縮小し、雇用のシフトが起きるとみられる。 

 

 

 他方、現在の日本の人手不足は、各業種とも現業部門が中心だ。その補充として外国人労働者の受け入れが進んでいる。 

 

 こうした「現場の仕事」は必要不可欠である上、生成AIやロボットでは代替し切れない作業が多い。すなわち今後賃金が上昇するということだ。角度を変えて言うならば、「安い労働力」としての外国人労働者で「現場の仕事」の不足を補おうという発想では長続きしないということである。 

 

「現場の仕事」の賃金水準が上昇すれば、ホワイトカラーで余剰となった人やホワイトカラーの職に就けない新卒者たちが流れ込むだろう。 

 

 こうした雇用のシフトが起きるとの見通しについては、政府も着目している。6月に閣議決定された政府の「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針2025)には、「アドバンスト・エッセンシャルワーカー(デジタル技術等も活用して、現在よりも高い賃金を得るエッセンシャルワーカー)の育成」が書き込まれた。 

 

 医療、介護、教育、建設、物流などの「現場の仕事」における専門性を身に付け、質の高いサービス提供や生産性の向上をさせ得る次世代人材が想定されるが、今後は賃金水準が高くなるにつれて「現場の仕事」に従事する人々の社会的ステータスも高まるだろう。 

 

 いま日本は、人口減少によって必要される労働者の総数が減る一方、ホワイトカラーからアドバンスト・エッセンシャルワーカーへの雇用のシフトが進むというビジネス環境の大激変期にある。 

 

 こうした動きを考慮せず、従来のビジネスモデルが維持されることを前提として人手不足を予想しても意味がない。 

 

 それでも、現状の勢いやムードに押されて外国人を大規模に受け入れるならば、遠からずホワイトカラーの仕事から移ってくる人々と競合することとなる。あるいは「安い労働力」として使い続けようとすれば、外国人労働者は他国へと逃げ出すだろう。 

 

 むろん、外国人の受け入れを全面的に否定するつもりはない。新たな成長分野の産業を創出し、イノベーションをリードし得る高度人材は積極的に登用すべきである。 

 

 また、生成AIが多くの企業に定着するにしても、アドバンスト・エッセンシャルワーカーの育成するにしても、いましばらく時間を要しよう。それまでの間、人手不足の解決のために外国人に頼らざるを得ない産業や業務があるという現実は無視できない。 

 

 要するに、短期的な課題と中長期的な課題とに分けて整理する必要があるということだ。日本の外国人政策は、社会が縮小する将来を見据えて限定的、計画的に進めなければならないのである。 

 

 繰り返すが、日本のような人口激減国で大規模に外国人を受け入れれば「国のカタチ」は大きく変わってしまう。それは、想像を絶する社会的なエネルギーを要する。それよりも日本が優先すべきは、AI・ロボット開発などへの投資であり、リスキリングのための人的投資の強化であり、付加価値生産性(企業が新しく生み出した金額ベースの価値)の向上だ。 

 

 人口が減っても成長する国への転換を実現できなければ、どんなに多くの外国人を迎え入れようとも、結局は社会が続かない。 

 

■前編記事から読む:今のペースだと20年後には「10人1人が外国人」の衝撃データ 国政への参政権、言語の多様化…外国人受け入れに伴う「国のカタチ」の変質に問われる覚悟 

 

【プロフィール】 

河合雅司(かわい・まさし)/1963年、名古屋市生まれの作家・ジャーナリスト。人口減少対策総合研究所理事長、高知大学客員教授、大正大学客員教授、産経新聞社客員論説委員のほか、厚生労働省や人事院など政府の有識者会議委員も務める。中央大学卒業。ベストセラー『未来の年表』シリーズ(講談社現代新書)など著書多数。小学館新書『縮んで勝つ 人口減少日本の活路』が話題。 

 

 

 
 

IMAGE