( 320998 ) 2025/09/02 03:45:58 0 00 奈良市議選で初当選し、当選証書を受け取るへずまりゅう氏=7月、奈良市役所
ユーチューブの動画を中心にSNS上で一定の知名度を誇るユーチューバーが地方議会での存在感を増しつつある。国政を目指すには数万、十数万といった得票が必要になるが、地方選では千単位でも議席獲得が可能。議員のなり手不足も、ユーチューバー議員の広がりを後押ししている。ただ発信力の高さがポピュリズムにつながる懸念もあり、識者は政策重視の選択を呼びかける。
「これほど多くの支持を受けた以上、期待を裏切ることなく頑張りたい」
参院選と同じ7月20日に投開票された奈良市議選では、ユーチューバーの無所属新人、へずまりゅう氏(34)が初当選した。翌21日、奈良市役所で当選証書を受け取ったへずま氏は、報道陣の取材にこう意気込みを語った。
へずま氏の当選が少なからぬ衝撃をもって受け止められたのは、迷惑系ユーチューバーとして名をはせたその経歴に理由がある。スーパーでまだ代金を支払っていない魚の切り身を食べるなど物議を醸す動画を公開し、過去に有罪判決を受けたことも。選挙戦では「つけまわされたり『奈良から出ていけ』と罵声を浴びたりして、一度も演説ができなかった」といい、主にSNSと選挙カーの巡回で選挙運動を展開したという。
それでも蓋を開けてみれば8320票を積み上げた。定数39に55人が立候補した激戦で、3位にランクインする堂々の得票数だった。
■女子大生「シカ守る活動に共感」
有権者はどう見ているのか。ある男性会社員(48)は「迷惑行為で知られた人がいきなり通るなんて」と困惑気味。一方、へずま氏の「奈良のシカを外国人から守る」という活動に共感して一票を投じたという大学2年の女子学生(19)は「年齢が若く期待できる」と話す。
これまでも、政治とは無縁に見えたタレントや覆面レスラーが知名度を生かして地方議員に当選するケースはあった。なり手不足が懸念される地方議員は比較的少ない得票数で当選でき、若年層を中心に一定の知名度を誇るユーチューバーは、特定政党に所属していなくても集票の素地があるといえる。
「いずみん先生」と名乗って教育系のネタを動画で発信し、今年2月の東京都西東京市議補選で立憲民主党公認で初当選した千間泉実氏(32)は「へずま氏は影響力のある第一人者」と評価し、「今後政治家を志すユーチューバーは増えるのでは」とみる。
■「強い発信力はもろ刃」
これに対し、令和5年の神奈川県平塚市議選で初当選した「平塚ユーチューバーしん」こと元島新氏(28)は「そんなに簡単ではない」と打ち明ける。
元島氏はもともと地域に根ざした情報を発信し、視聴者から市政に関する要望を聞くうちに政治家を志すようになった。人脈もほとんどなかったが、ユーチューバーの活動でつながった人たちに選挙を手伝ってもらい、40人中3位で当選した。「へずま氏の当選も奈良公園での活動があったからこそ。ネットと地上戦を併用しなければ厳しい」と指摘する。そしてユーチューバー議員の懸念点として「発信力が強いのはもろ刃の剣(つるぎ)。政策を多くの人に伝えられる一方、間違った情報を伝えるユーチューバー議員が増えると有権者を混乱させる」と話す。
日本大の岩井奉信名誉教授(政治学)はユーチューバー議員について「既存政党に不満を持つ若い人たちの受け皿になるのではないか。大きな勢力にならないにしても今後増えていくだろう」と分析。そのうえで「動画の再生回数を意識するあまり過激な言動を繰り返すとなれば、それがプラスになるのかは疑問だ。政治家としてどういう業績を残すのかが大切だ」としている。
■地方議員のチャンネル「たかが知れている」
ユーチューバー議員に限らず、ユーチューブは政策を伝える手段として既存政党・政治家にとっても必須のツールになりつつある。7月の参院選では公式チャンネルの登録者数を大きく増やした政党が躍進した。
「永田町のユーチューバー」を自称し、SNSを駆使するのは国民民主党の玉木雄一郎代表だ。自身の「たまきチャンネル」では、手取りを増やす政策を解説し、登録者数は約61万人に上る。
昨夏の東京都知事選でSNSを駆使した選挙戦略で注目を集めた前広島県安芸高田市長の石丸伸二氏は「石丸伸二のまるチャンネル」で政治や趣味などさまざまな内容の動画を配信し、約35万人の登録者を抱える。
7月の参院選ではこれまで以上にユーチューブを活用する政党が目立った。台風の目となった参政党は選挙期間中に公式チャンネルの登録者数を大きく伸ばし、現在は約53万人となっている。
ただ、全国から注目される国政と地方政治とでは、同じユーチューブの活用といっても事情が異なるようだ。
ある地方議員は「われわれが個人でやるチャンネルの再生回数なんてたかが知れている。費用対効果はあまりよくない」と漏らす。もともと著名な政治家であったり、過激な言動で注目を引いたりしなければ、そもそも地方政治の地味なトピックには関心が集まりにくく、チャンネルを開設してもすぐにやめる議員もいるという。
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