( 321098 )  2025/09/02 05:42:46  
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釧路湿原メガソーラー計画に批判の声 

 

 登山家・野口健氏が、北海道・釧路湿原周辺での大規模太陽光発電所(メガソーラー)の建設に対し、「一緒にアクションを起こしませんか」と呼びかけ話題になっている。 

 

 豊かな自然に恵まれた、日本最大の湿原として知られる釧路湿原。特別天然記念物のタンチョウをはじめ、多くの貴重な動植物の生息地となっている。現在、その周辺で相次いでいるメガソーラーの建設が、彼らの生態系を脅かしていると指摘されているのだ。 

 

 6月には釧路市も「ノーモアメガソーラー宣言」を発表。多くの人が疑問を持ち始めているようだが、その一方、世界中で地球温暖化対策が急務となる中で、日本政府もメガソーラーをはじめとした再生可能エネルギーの普及を推進。全国のあちこちで建設が行われている。 

 

 メガソーラー建設の是非と、日本に合ったエネルギーの在り方について、『ABEMA Prime』で議論した。 

 

希少生物の生息地 北海道・釧路市 

 

 メガソーラー事業者側は20日、市議や市長、環境省宛に見解書を提出。法令を遵守、市とも協議を重ねて進めてきており、事業中止には応じられないとしている。また、市の宣言に強制力はなく、タンチョウやキタサンショウウオなど希少生物に関する専門家の調査結果を提出し、配慮して建設を進めたいとしている。 

 

 自民党「再生可能エネルギー普及拡大議員連盟」の会長を発足当初から務める柴山昌彦衆院議員は、批判は「当然」との受け止めだ。一方で、「釧路市長は最近になって『ノーモアメガソーラー宣言』をされたが、行政的な手続きをしてきた計画のはずで、こうなることはわかっていただろう。一番近くでその是非について判断するべき自治体が、これまでどういう対策をとってきたのかは疑問だ」との見方を示す。 

 

 日本国土・環境保全協会代表理事で山梨大学名誉教授の鈴木猛康氏は、「全国の地域で、大きな山の斜面が壊されたり、山全体や島の4分の1がパネルで覆われるようなことが発生している」と現状を指摘しつつ、「自治体では対応ができていない。法整備が圧倒的に欠けている」とコメント。 

 

 また、環境影響評価(環境アセスメント)をめぐり、「事業者が発注しているので、自分たちに都合のいいことだけを書いてくる。例えば福島市の先達山は、山肌が露出して大きな猫の顔みたいなものが見えているし、パネルに光が反射してドライバーが運転できないという声もある。それでも福島市は景観法違反とは言わない」と問題提起した。 

 

 これに柴山氏は、「これまで行政は利益相反に対する感度が鈍かったと思う。何か不祥事が起きた時、第三者委員会のような利害中立な組織が判断を下すことが重要で、環境アセスメントも同じだ。今の法律やこれまでの地方の規制の下では適法とされてきたものが、今明らかに問題だということであれば、やり直しもあって然るべきだと思う」との見方を示した。 

 

 

日本の電力構成 現状と見通し 

 

 資源エネルギー庁は、総発電電力量を2023年度実績の0.99兆kWhから2040年度に1.1〜1.2兆kWh程度に、そのうち再エネの比率を22.9%から4〜5割(太陽光は23〜29%)程度まで上げる見通しを立てている。 

 

 鈴木氏は、自然エネルギーは「非常に発電効率の低いエネルギーだ」と指摘する。「同じ出力を出すために、太陽光発電所は火力発電所の数百倍の面積がいる。パネルに使われるシリコン製造に大量の化石エネルギーを使い、またその多くが中国から輸送されるため、火力発電所10年分ぐらいのCO2はすでに使っている。さらに15年ぐらい経つと、太陽光パネルは効率的に発電できなくなり、差分を取ったらあまり変わらない」との見方を示す。 

 

 これに柴山氏は、「太陽光発電のデメリットを率直に認めた上で、それをどうなくしていくか。高価かもしれないが、既存の建物や地方公共団体の施設、道路や鉄道の軌道の脇に設置するといった、環境負荷が少ない方法が主流になってくると思う。ため池の上に設置する工夫をしている所や、農業生産と両立させるソーラーシェアリングの取り組みをしている事例もある」と返した。 

 

 その上で、エネルギー政策におけるトータルバランスを考えるべきだと強調。「再生可能エネルギーが増えれば原発を使わないで済むのか、火力発電はどれだけ下がっていくのか。第7次エネルギー基本計画で、2040年の原発の割合は20%としているが、今再稼働を求めているすべての原発が動いてそれぐらいになる。その時にはまた新しい原発ができてくるかもしれないが、使用済み核燃料をどうするかという別の問題も出てくる」と語った。 

 

 2012年の民主党政権時代、再エネで発電した電気を電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が約束する「固定価格買取(FIT)制度」が導入された。費用の一部は利用者が賦課金という形で負担し、2025年度は1kWあたり3.98円、一般的な家庭(月400kW)で月1592円となる。 

 

 柴山氏は「開始時はあまりにも事業者寄りで、太陽光の買取価格は1kWh40円超という破格の値段。これで全国的にバブルが起きてしまった。ただ、我々が政権復帰した後は買取価格を下げ、“おいしいビジネス”ではないようにしてきた。再エネ賦課金もこれから下がってくる」と説明。さらに、認定されてから事業開始までのタイムスパンが長いという問題をあげ、「真面目に事業をやる見込みがない場合は認定を取り消し、低い価格で取り直してもらうということを議連で進めてきた。残念ながらその対象ではない所もあるのは問題だと思っている」とした。 

 

 

山に降った雨はどこに行く? 

 

 鈴木氏は、国土開発やエネルギー政策の誤りによって大きな災害を招く可能性を「増災」と名付け、警鐘を鳴らしている。山際では土砂崩れ、平野では洪水などの水害、海外沿いでは沿岸地形の変動が起こり、「国土破壊」のリスクにつながるとしている。 

 

 「新エネルギー計画を現状のまま実現しようとすると、日本の国土の2〜3%が犠牲になり、いろいろな被害を受けることになる」とした上で、「『事前減災』と言っているが、実施したらどうなるかというシミュレーションを最初にやってもらいたい。大学の先生は優秀なので、振ってもらって問題ない。脱炭素で頑張っている先生だけでなく、総合的に考える人たちにもお金を付けてほしい。明治時代にどういうことがあったか分析しているので、“ここまではよいが、これ以上はダメ”という示唆をしてくれる」と訴える。 

 

 柴山氏は「ぜひ検討したい」と前向きな姿勢を示しつつ、2040年の太陽光発電目標はマクロな数字だとして、「そもそもメガソーラーが日本に合っているかという議論をする余地は大いにあると思っている。非常に重要な分岐点なので、それをしっかりと念頭に入れ、国の政策としてうまく反映できるように議連でも検討したい」と応じた。(『ABEMA Prime』より) 

 

ABEMA TIMES編集部 

 

 

 
 

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