( 321118 )  2025/09/02 06:09:56  
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オバ記者こと野原広子さんは“撮る”より“乗る”方が好き(イラスト:イメージマート) 

 

「乗り鉄」「撮り鉄」「模型鉄」など、鉄道ファンにはさまざまな分野があるが、それぞれでわかり合える点もあれば、そうではない点もあるようだ。体験取材を得意とする女性セブンの名物ライター“オバ記者”こと野原広子氏が、“乗り鉄”の立場から、一部の“撮り鉄”に対する本音を明かす。 

 

「あんたら、なにやってんの!」 

 

 大阪・関西万博会場内の売店で大量にグッズを万引して大阪府警に逮捕された大学生らに、私はそう言ってやりたい。「いい若いもんがセコいことしてんじゃないって」と。 

 

 彼らは万博会場内でキャラクターグッズを大量に盗む前に、2つの罪を犯している。彼らの一部は「撮り鉄」を自称。東京駅から入場券だけで改札を通って新幹線に不正乗車。しかも、新大阪駅だと改札のチェックが厳しいから、新神戸駅まで行ってローカル線に乗り換え、そこも無賃乗車だったと自慢げに自白しているという。さらに、万博会場にも大人料金を払わずに12~17才が対象の「中人」のチケットで入場していたって。それで捕まったら「撮り鉄の無賃乗車は当たり前」と抜かしておる。 

 

 あのさ、私も鉄道マニアのケがあるから言うんだけど、たしかにマニアは度を越してナンボだよ。「ええ~、そこまでやるの?」と呆れられるのは最大の褒め言葉でもある。 

 

「秋田、新潟、八戸を3日連続で日帰りしたって? バカじゃないの?」と言われると、「ほほほ、もっと言って!」と大喜びよ。どんだけマニアか、つまりどんだけバカかを人と競う傾向もあるしね。 

 

 でもさ。どんだけ罪を犯せるかの競争だけはしないって。 

 

 誰かが「こうやれば無賃乗車ができるんだよね」と提案したら、「そこまでよく思いつくものだ」と思ったりするかもしれないけど、「やるか?」と誘われたら「やめとけ」って言うよ。 

 

 しかし、それにしてもよ。ひと口に鉄道マニアを「鉄ちゃん」と言うけれど、「乗り鉄」の私に「撮り鉄」の心はわからないということが今回よくわかった。 

 

 列車を撮影することが好きな人と列車に乗ることが好きな人は、考えていることがまるで違うんだよね。私の周囲の撮り鉄はさすがに「撮り鉄の無賃乗車は当たり前」なんてバカなことは言わないけど、それ以前に列車にほとんど乗らない。たまに乗っても楽しそうじゃないんだわ。その代わり、いい写真を撮るために苦労したことを話し出すと、ものすごくイキイキする。 

 

「なんかおかしくない?」と、鉄道マニアの集まりで言ったことがあるわよ。「みんなと同じ写真を撮って何が面白いのよ。そんなにお金をかけていいカメラを買って撮影スポットまで車を走らせるなら、誰かが撮ったポスターを買えばいいじゃない?」と。 

 

「じゃあ、言いますけどね。野原さんはみんなと同じ形のブランドバッグが欲しくないんですか? 自分で撮る(買う)から自分のものになるんで、それを無意味と言いますか?」って、ムキになって反論されたわよ。 

 

“撮り”の人を理解できないことはまだある。彼らは日頃乗らないくせに、いざ列車が運行終了すると「葬式列車だ」「ラストランだ」と騒ぎ立てて、ホームに押しかけて騒ぎを起こしたりするんだよね。 

 

 そりゃあ私だって、大好きで何度もひとりで飛び乗った、上野―青森間を走った寝台特急『あけぼの』の廃止が決まったときは寂しくてね。その姿を発車ホームに見に行ったし、時間があるときは青森までのフルコースを乗ったわよ。そうしていよいよ迎えるラストランだから寂しいけれど、でも割り切れるんだよね。その点、割り切らないのが撮り鉄でね。「さんざん粗末に扱ってきたくせに、別れる当日になってジタバタしないでよ」と、その昔、男との別れ際に言った言葉を思い出すせいか、気分が悪いったらない。 

 

 

 それにしてもよ。実はもうひとつ首をひねることがあるの。それは大阪府警に捕まった彼らの顔よ。悪いことする顔をしてないんだって。 

 

 彼らだけじゃない。ここ数年、捕まった若者の顔を見るたび私は、「なんでよ」と言っている気がする。つるんとして心の闇が顔に出てないんだもの。性犯罪で逮捕された男は毅然としてキリッと前を向き、うなだれてもいないし、悪びれてもいない。「あんたさー、自分がやったこと、わかってんの?」と、ニュースを見ながら何度言ったことか。 

 

 殺人犯を見てもそう。人を殺して、ああ、大変なことをしてしまった、逃げなくちゃと逃亡するならまだわかるの。だけど、昨今の殺人犯はあっさり交番に出頭する。「あのー、マジで殺しちゃったんですけどぉ」とか、財布でも拾ったような声で言いそうなんだって。 

 

 悪者はわかりやすく悪者の顔をしてろ、とは言わないけど、爽やかに見える犯罪者より警戒心が働くだけマシな気がするのは私だけかな。 

 

【プロフィール】 

「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。 

 

※女性セブン2025年9月11日号 

 

 

 
 

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