( 321128 ) 2025/09/02 06:22:47 0 00 (※写真はイメージです/PIXTA)
タワーマンションは長らく“都市の成功者”の象徴とされてきました。眺望、共用施設、駅近、ブランド——そのすべてが揃う暮らしは、若い共働き夫婦にとって特別な憧れでもあります。特に低金利時代には、多少背伸びをしてでもタワマンを買おうという30代世帯が珍しくありませんでした。しかし、実際に住んでみたからこそ見えてくる現実もあります。今回は、30代でタワマンを購入したある夫婦の経験をもとに、「憧れの生活」の内側に潜む“影”について考えます。
「最初にモデルルームを見たとき、本当に夢みたいだと思いました。間取り、設備、眺め、全部に惹かれてしまって」
そう話すのは、都内に勤める会社員の田島亮介さん(仮名・当時32歳)。妻と2人暮らしで、結婚から1年後の2020年に、湾岸エリアのタワーマンション(3LDK・新築)を購入しました。販売価格は約7,400万円。年収は夫婦合わせて約980万円で、月々の手取りは43万円ほどでした。
「頭金はほんの少しだけ。フルローンに近い形でしたが、当時は金利も低くて、“今買わないと一生買えない”と思って決断しました」
住宅ローン控除の制度も購入を後押ししました。当時は、年末のローン残高1%が10年間にわたって所得税から控除される仕組み(※2022年度以降は0.7%に変更)で、初期負担を抑える魅力がありました。
ローン返済額は毎月18万8,000円ほど。加えて共益費・修繕積立金・駐車場代などを含めると、住居関連の支出は月に約23万円にのぼりました。残る20万円で、食費・日用品・交際費・保険・スマホ代などをやりくりする生活です。
「暮らしは贅沢とはほど遠かったです。外食は月1〜2回、旅行も年1回くらい。“タワマンに住んでるリッチな人”って見られがちだけど、実際は常に気を張って節約してる感じでした」
とはいえ、しばらくは満足していたといいます。夫婦で夜景を見ながら食事をしたり、休日にジムやラウンジを利用したり——タワマンならではの生活に、特別感を感じていました。
転機となったのは、第一子の出産でした。妻が育休に入り、手取りは一時的に30万円台に減少。職場復帰後も時短勤務や保育料の支出が重なり、家計のゆとりは目に見えてなくなっていきました。
「ローンが払えないほどじゃないけど、“何かあったら一気に詰むな”という不安が常につきまとうようになりました」
加えて、周囲との生活感の違いにもストレスを感じるようになったといいます。タワマンには高所得層や専業主婦の家庭も多く、子どもの教育や生活スタイルにも“余裕”が見える場面が増えていきました。
「うちは保育園の送り迎えも綱渡り。子どもの習い事を考える余裕もなくて…。周囲とのギャップに、だんだん心が疲れてしまったんです」
2024年現在、都内新築マンションの平均価格は1戸あたり約9,500万円に達し、共働きの30代夫婦でも手が届きにくい価格帯になっています。かつてのように“背伸びして買う”という選択は、もはや当たり前ではなくなりつつあります。
田島さん夫妻は、昨年タワマンを売却しました。幸いにも購入時とほぼ同額で売れ、諸費用を差し引いてもわずかながら手元資金が残ったそうです。
「持ち家の満足感もあったけど、うちは“所有する喜び”より“余白のある暮らし”の方が大事だと気づきました」
現在は東京都北東エリアの賃貸マンション(2LDK・駅徒歩10分)に住んでいます。子どもが小学生になるまでには再度購入も視野に入れていますが、「今のほうが気持ちに余裕がある」と語ります。
「タワマン生活に後悔はありません。楽しい思い出もたくさんあるし、あの頃の選択にも意味はあった。ただ、“身の丈”って、やっぱりあるんだなと思いました」
THE GOLD ONLINE編集部
|
![]() |