( 321698 )  2025/09/04 06:49:50  
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人気チェーン店「楊国福マーラータン 神保町店」のマーラータン(写真:筆者撮影) 

 

 中国・四川省発祥のスープ料理「マーラータン」の人気が加速している。花椒(ホワジャオ)をはじめとした香辛料や唐辛子を使った“しびれる辛さ”が特徴だ。マーラータン専門店の人気チェーン「七宝麻辣湯(チーパオマーラータン)」や「楊国福(ヤンゴフ/ヤングオフー)麻辣湯」は2024年頃から出店ペースが加速、2025年からは毎月のように新店舗が開業している。人気は専門店だけにとどまらず、「異例のヒット商品」も誕生。日清食品や味の素ら食品大手も熱い視線を送る「マーラータン」ブームの背景と現状を現地で取材した。 

 

 中国・四川省発祥と言われるマーラータンは、花椒(ホワジャオ)をはじめとした複数の香辛料や唐辛子を使った辛味の強いスープに、肉類や海鮮、野菜、春雨などの具材を入れて煮込んだスープ料理だ。中国では古くから親しまれていて、外食産業でも人気が高い。 

 

 国内でマーラータンの人気が本格化したのは、2024年頃だった。一足早く韓国では2019年頃からマーラータンがトレンドとなり、SNSに関連投稿が増加。韓国では、マーラータンを食べた後にタンフル(フルーツを薄い飴でコーティングした韓国のスイーツ)を食べる組み合わせが流行し、「マーラータンフル」という造語も誕生した。 

 

 

 こうした韓国でのトレンドに加え、マーラータン専門店の増加や「マーラータン好き」を公言する女性芸能人の存在、「マツコの知らない世界」をはじめメディアでの特集などが国内での人気を後押し。SNSの関連投稿も目立つようになり、専門店にZ世代女性が押し寄せるようになった。 

 

 

 ブームをけん引した1社が、ラーメン評論家やフードコンサルタントとして活動する石神秀幸氏が立ち上げた「七宝麻辣湯(チーパオマーラータン)」。2007年に開業し、現在は全国に36店舗(8月29日時点、公式ホームページ参照)まで拡大、近々開業予定の店も複数ある。直近5カ月弱で9店舗開業とハイペースで増えている。 

 

 2018年12月に開業した「楊国福(ヤンゴフ/ヤングオフー)麻辣湯」も、同様にハイペースで開業が続く。楊国福グループは世界各国に7000軒以上を展開するグローバルチェーンで、日本では大天元(ダイテンゲン)社が全国に19店舗(8月22日時点、公式ホームページ参照)を展開。それ以外にも、運営元は不明だが、名古屋・伏見駅近くや東京・神保町などにも同グループの店舗がある。 

 

 

 マーラータン専門店は、いずれもZ世代女性から人気を得ている。何が彼女たちを魅了しているのか。実際に店舗を訪れてみて、その理由が理解できた。 

 

 筆者が訪れたのは、開業したばかりの「楊国福マーラータン 神保町店」。平日のランチタイムで並ばずに入店できた。 

 

 

 

 店内には大型のショーケースがいくつも並び、「肉」「野菜」「海鮮」「ミートボール」とカテゴリー分けされている。具材の数は100種類以上あったと思われる。麺は「春雨」が一般的だが、小麦や米、とうもろこしで作られた麺もあった。 

 

 

 

 注文の際は、大きめのボウルに好きな具材を好きなだけ取り、レジでスープの種類と辛さを伝える。すると、具材を煮込んで仕上げた料理が提供される。さらに、ラー油、ごまダレ、おろしニンニク、唐辛子、砕いたピーナツ、パクチーなどのスパイスや調味料、香味野菜を加えて好みの味に仕上げる。 

 

 

 カスタマイズ性の幅が広く、具材によってダイエット食にもなれば、ボリュームたっぷりにもなる。そして、赤いスープは写真に映える。中辛を選んだところ見た目ほどは辛くなく、薬膳の風味も強すぎないよう日本人向けにローカライズされているように感じた。辛味が不足していれば、テーブルトッピングの調味料やスパイスで調整可能だ。店内にはテーブル席もあり、女性1人でも入りやすい雰囲気だった。 

 

 細部まで自分好みの1杯を作ることができる体験のおもしろさとSNSとの相性の良さ。これらの掛け合わせが、Z世代に支持された理由かもしれない。 

 

 マーラータンの人気は、専門店だけにとどまらない。健康食品や化粧品などの企画・販売を手がける医食同源ドットコム社が2024年9月に発売したカップ麺「麻辣燙(マーラータン)」は、累計出荷数が約70万個(2025年7月末時点)を突破。「当社製品では異質な売れ方をしている」とマーケティング部 広報課の成田彩氏は話す。 

 

 

「マーラータンブームの追い風に加えて、『本場中国の本格的な味わい』が支持されたようです。発売当初はオンラインと一部のスーパー、ドラッグストアのみでしたが、反響が良かったため、2025年5月末頃から一部コンビニでの発売が開始されました。TikTokでは100万回以上再生されている投稿もあり、店舗によっては品切れるほど好評をいただいています」(成田氏) 

 

 同製品は、中国国籍の社員による「本場の味を日本に届けたい」とのアイデアから2022年頃に開発がスタート。当時は、まだマーラータンのブームは到来していなかった。2年以上の歳月をかけて試行錯誤を繰り返し、発売時期がちょうどマーラータンブームと合致した。 

 

 

「日本人の味の好みに合わせたほうが良いのではないかと葛藤はありましたが、最終的に現地の味を再現することに。しびれるような辛さや香りを持つ『ホワジャオ』や独特の強い香りが特徴の『八角』など、日本のカップ麺ではまず使われない調味料を使用して、複雑な味わいやビリッとしびれる辛さを出しています」(成田氏) 

 

 これはあくまで筆者の感想だが、実際に食べてみると、パンチのある香りや辛味で日本ではあまり出会わない味わい。「万人受けしないのでは?」と思ったが、SNSやWeb上の口コミでは、「本格的な味」「しびれる辛さが好き」と高評価が目立つ。8月21日には、実業家・インフルエンサーとして活動する岸谷蘭丸氏も、「美味すぎるから辛い物好きな人はガチで食べたほうがいい。汁の旨みと辛さがカップ麺の限界を超えてる」と投稿していた。 

 

「当社のECサイトでは、12個入りのケースでの購入が増えています。リピート購入も目立ち、当社製品としてはめずらしい売れ方です。当社は健康食品や衛生雑貨がメインということで、通常の購入者層である30~40代の女性に多く支持いただいています」(成田氏) 

 

 

 このヒットを受け、医食同源ドットコム社では、「マーラータン」と同じ「中華房」シリーズから、本格中華汁なしまぜ麺「中華房 麺ピー」( 麻辣味/まろゴマ味、各289円)を9月1日からECサイトにて、9月5日から店頭にて発売する。成田氏いわく、麻辣味の汁なしまぜ麺も中国でよく食べられているという。 

 

 マーラータンブームの影響は、家庭用食品にも広がっている。大手メーカーがこぞって関連商品を発売し、ヒット商品も生まれている。 

 

 

 味の素では、2023年8月に発売した「Cook Do」<極 麻辣麻婆豆腐用>が、発売から6週間で累計100万食(容量2~3人前を2.5人前として換算)を突破。発売翌月までの累積出荷金額でも、過去5年間(2018年秋季以降)の「Cook Do」新品種の中でナンバー1を記録した。2025年3月時点で、累計980万食を突破している。 

 

 

 2025年2月には、同シリーズの新品種2点も発売。<極 麻辣回鍋肉用>は発売から約4週間で累計100万食、<極 香辣麻婆茄子用>は約5週間で累計100万食を超えた。<極 麻辣麻婆豆腐用>を上回るペースで好調に推移している。 

 

 キユーピーでは、キユーピー マヨネーズ発売100周年を記念したマヨネーズタイプ調味料「世界を味わうマヨ」の一商品として「しびれ麻辣味」(292円)を25年4月に発売。 

 

 

 日清食品でも、「カップヌードル 14種のスパイス麻辣湯」(254円)を2025年4月に発売した。麺は春雨ではなく通常のカップヌードルの麺を使用しているが、ホワジャオや唐辛子、八角など14種のスパイスを加えた“シビ辛”のコク深いスープで「本格的な味わい」を再現している。 

 

 マーラータン専門店はZ世代女性に圧倒的な人気を誇るが、家庭用商品は共働き層や主婦をターゲットにするものも多く、より幅広い層が購入していると予測される。30代以降の女性や、男性にも「マーラータン」ブームが浸透し始めているのかもしれない。 

 

 

 「しびれる辛さ」をウリにする商品が多く、この本格的な味わいがマーラータンブームを加速させている側面もあるようだ。都内の中華レストラン「リバヨンアタック」の料理長・人長良次氏は、「マーラーは、ここ20年で国内の認知度がグッと上がった。最初は辛さにびっくりするが、慣れてくると、また食べたくなるような中毒性がある」と、でリクルートが運営するWeb媒体「メシ通」内で語っている。 

 

 一方で、気になるのは新規出店が続く専門店のオペレーションや品質維持だ。2024年11月には、大天元が運営する「楊国福マーラータン 銀座店」に訪れた客が「商品に虫が混入していた」とTikTokに投稿し(現在は削除)、不信感が広がった。 

 

 同社が運営するXアカウント(@yangguofu520)では、「調査の結果、問題が発生したのは業務用スーパーで仕入れた非油揚げの乾麺である可能性が極めて高い」と報告。「同製品の輸入業者、兼販売業者である神戸物産の品質管理担当者および法務担当者と打ち合わせを行っており、問題解決に向けてマレーシアの製造元と連携し、原因調査を行う」とも伝えている。 

 

 

 筆者が訪れた「楊国福マーラータン 神保町店」は立地的に行列はなく、店内も清潔だったが、注文スタイルや食べ方には戸惑いが多かった。具材の種類や無料トッピングが豊富だが、そのぶん迷う。おすすめの食べ方や人気食材が提示されていればいいが、それもない。日本語が流ちょうではない店員もおり、トッピングについてたずねてもほしい返答は得られなかった(すべて8月中旬時点)。 

 

 七宝麻辣湯も少なからず課題があるようだ。Googleマップでは低評価の店も複数あり、「待ち時間が長い」「店員の対応が良くない」「味にバラつきがある」「価格の明記が不明瞭」「具材が選んだものと異なっていた」などのネガティブな口コミも。人気店では順番待ちシステムを導入するなど対策を始めているが、やや混乱があるのかもしれない。8月下旬現在、同社は新規でのフランチャイズの募集を停止している。 

 

 ブームがどこまで広がるかは未知数だが、本場の味わいは確実に一定層の支持を得ているはずだ。 

 

執筆:小林 香織 

 

 

 
 

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