( 321728 )  2025/09/04 07:24:23  
00

(※写真はイメージです/PIXTA) 

 

ふるさと納税は、応援したい自治体に寄付をすることで、魅力的な返礼品が受け取れる人気の制度。特に会社員にとっては、ふるさと納税後の確定申告が不要になる「ワンストップ特例制度」は非常に便利な仕組みといえるでしょう。しかし、その手軽さゆえに見落としがちなルールも存在し、予期せぬ税負担が発生する可能性があります。本記事では、Aさん夫婦の事例とともに、ふるさと納税の注意点について、木戸真智子税理士が解説します。※プライバシーのため、実際の事例内容を一部改変しています。 

 

Aさんは23区に住む会社員。共働きの妻と、ふるさと納税を楽しんでいました。妻は家計の助けとなる食材や日用品を、Aさんは普段はなかなか味わえない珍しいグルメを、夫婦それぞれが返礼品選びを満喫していたのです。 

 

妻は、Aさんの年収から寄付できる上限額を事前にしっかり調査。高級牛肉やカニが実質2,000円で手に入るとあり、限度額ギリギリまで寄付を行っています。手軽なワンストップ特例を申請し、賢く利用していました。 

 

本来、寄付金控除は確定申告をすることで受けられますが、ふるさと納税のワンストップ特例を使えば、確定申告しなくてもふるさと納税の制度が受けられます。会社員であるAさん夫妻は、会社で年末調整をしてもらえるため、確定申告が不要なこの制度には大きなメリットを感じていました。 

 

申請は、「寄付金税額控除に係る申告特例申請書」に必要事項を記入し、寄付した自治体に送るだけで完了します。ただし、この制度が利用できるのは寄付先が5自治体までという制限があるため、夫婦は寄付額を調整し、毎年5自治体の枠内におさめていました。 

 

その年も秋ごろになり、寄付額が上限に近づいた矢先のこと。Aさんは体調を崩し、入院することになってしまいました。これまで健康的な食生活と運動を心掛けていたAさん夫妻。健康には自信がありました。そのため、この入院は「俺ももう50だからか」とAさんは大きなショックを受け、それは妻も同じでした。幸い、入院生活は3週間程度ですみましたが、医療費が発生します。思わぬ高額な出費でした。 

 

その後Aさんの体調も回復し、会社に復帰したところ、Aさんは会社の同僚から有益な情報を得ます。 

 

 

同僚から得た情報は「確定申告で医療費控除を申請すれば、税金が還付される」というものでした。 

 

これまで「難しそう」と思い、遠ざけていた確定申告ですが、Aさんはこれを機に挑戦してみることに。同僚に勧められたe-Taxなら自宅で簡単に手続きができると知り、早速準備に取りかかります。 

 

e-Taxは思っていたよりも簡単に終わり、体調も回復したことだし、今年はどんなふるさと納税をしようかと妻と話していました。今回の入院は、ふるさと納税だけではなく、妻と一緒にジム通いもすることになり、さらに健康を気遣った生活を心がけていこうと改めて思うきっかけとなりました。 

 

そして翌年の5月。会社から住民税の決定通知書を受け取ったAさんは、記載された金額に違和感を覚えます。 

 

ふるさと納税は上限まで行い、さらに今回は医療費控除の確定申告も済ませています。そのため、Aさんの中では「例年よりも住民税は安くなるはずだ」というイメージでした。しかし、その予想は裏切られ、通知された住民税額は明らかに例年よりも高かったのです。昨年の通知書と見比べると、月額で5,000円は高くなっている計算でした。 

 

これはなにか間違っているのではないかと会社の同僚にも相談してみたところ、想像もしていなかったことが発覚。Aさんは医療費控除のため確定申告をした際に、ワンストップ特例申請が無効になることを知らず、寄付金控除の再申告を忘れてしまっていたのです。 

 

確かに、同僚にはふるさと納税の話をせず、ワンストップ特例をしていることも話していませんでした。医療費控除は確定申告でできるということだけを教えてもらったため、再申告のことは頭になかったのです。 

 

便利なはずの制度が招いた思わぬ税金負担に、「やらなきゃよかった」と深い後悔が残る結果に。せっかく今年もふるさと納税を楽しんでいこうと思っていたところに、Aさん夫妻はどんよりとした気持ちになってしまいました。 

 

Aさんが昨年おこなったふるさと納税は約50万円。これが全額控除されないとなると、大損害です。「約35万円の医療費のために申請した確定申告が、こんな事態を引き起こすとは……」と嘆かずにはいられませんでした。 

 

 

そんなAさんをみた同僚は笑いながら、「そんなに落ち込まなくてもいいよ! いまからでも遅くないよ」と励ましてくれました。というのも、確定申告は一度行ったら終わりではなく、修正があれば再度申告することができるのです。 

 

Aさんは救われたような気持ちでいっぱいになりました。確定申告には申告期限というものがあり、3月15日までに提出しないといけません。しかし、その後に修正があった場合には、遡って申告をすることができます。 

 

再度申告することで税額が増える場合には「修正申告」、反対に税額が減る場合には、「更正の請求書」というものを提出することになります。この更正の請求ができる期限は、原則として法定申告期限から5年以内です。いまからでも十分遅くないということがわかり、Aさんはほっとします。 

 

そして同僚に教えてもらった修正はe-Taxでも提出できることがわかり、早速やってみることにしました。更正の請求は理由も記載するところがあり、またその理由に関係する書類も提出することになっていたため、Aさんは保管していたふるさと納税の寄付金の領収書も合わせて提出しました。 

 

そしてしばらくしてからAさんのもとには無事に正しく計算された税金が還付され、住民税についても次いで変更の通知書が届きました。これで安心して今年もふるさと納税が楽しめるとホッとしたAさん。何事もしっかり調べて事前準備が大切なのだなと改めて思ったのでした。 

 

木戸 真智子 

 

税理士事務所エールパートナー 

 

税理士/行政書士/ファイナンシャルプランナー 

 

木戸 真智子 

 

 

 
 

IMAGE