( 321928 ) 2025/09/05 05:42:57 0 00 すき家が異例の「値下げ」を発表した
すき家が価格改定を実施し、9月4日から新価格での提供を始める。各社の牛丼・牛めし並盛価格は吉野家が498円、松屋が460円。すき家は480円だったが、改定後は450円のすき家が業界最安値となる。
インフレが加速し、米などの食料品価格が高騰している現状では異例の措置といえる。すき家はネズミ騒動以降、客数が前年比で減少しているため、客を呼び込む狙いがありそうだ。値下げは起死回生策となるのだろうか。値下げの詳細とその影響を考えていく。
9月4日以降の価格改定で、牛丼の「ミニ」は430円から390円、大盛は680円から650円、特盛は880円から850円になる。中盛と「メガ」は価格を据え置く。各社が提供する牛丼・牛めしの並盛価格は前述したとおりであり、すき家値下げ後は吉野家が最も高く、すき家が最安となる。1円当たりのカロリーは現時点で既にすき家(1.53)が最も高いが、値下げ後も同じ容量で提供すると仮定した場合、その差はさらに開くことになる。
業界最安値ということで既にメディアで注目されているが、過去の価格推移を振り返ると、並盛は3月以前の水準に戻ったに過ぎない。すき家はコロナ禍以降、頻繁に値上げしており、450円になったとして2019年の350円から100円も高い。
飲食店が値下げをするのは客を呼び込むためであり、すき家も同じ理由と考えられる。各社の既存店客数前年比は次の通りだ。
4月以降、すき家の前年比客数は他社と比較して著しく低く、その苦戦ぶりがうかがえる(※松屋は他業態との複合店を含む数字)。
すき家の客数減少の主要因と考えられるのが「ネズミ混入事件」だ。1月、鳥取南吉方店でみそ汁にネズミが混入し、当該商品を提供された消費者が同月中に写真をGoogleマップのレビューに投稿。3月にその写真がXで拡散するとメディアも取り上げ始め、広く知られることとなった。発覚直後の4月は特に減少幅が大きい。
すき家は4月5日から一部店舗を除く全店で24時間営業を廃止し、午前3時から午前4時を清掃の時間に充てることとした。だがその後の客数推移を見ると、一部消費者の間で抵抗感があると推測される。
4月以降、客数減が続くとはいえ、値上げにより客単価は前年比でおおむね7~10%を推移しており、既存店売上高も前年比で同水準を維持している。ゼンショーホールディングスの2025年3月期における主要3セグメントの業績は、すき家以外の事業も収益をしっかり生み出しており、9月以降の値下げですき家事業が悪化しても、他事業でカバーできそうだ。
グローバルすき家→売上高2958億円、営業利益245億円
グローバルはま寿司→売上高2485億円、営業利益214億円
グローバルファストフード→売上高3141億円、営業利益292億円
このうちグローバルファストフード事業は、海外のテークアウト寿司店を主体とする事業であり、北米を中心に約1万店舗を展開している(今期は「グローバル中食」セグメントに移行)。ゼンショーホールディングスは国内ではま寿司やファミレス業態を開拓し、海外ではM&Aによりテークアウト寿司店を取得した。すき家の信頼は落ちたままだが、多角化に救われたといえる。
牛丼の値下げ後は安さ目当ての客が集まるかもしれないが、抵抗感を持つ客の呼び戻しには至らないと筆者は考えている。並盛価格は松屋と10円しか変わらないため、効果は限定的だろう。抵抗感が薄れるまで時間が過ぎるのを待つしかない。
外食の不祥事で参考になるのが、2014年に発覚したマクドナルドの食品消費期限切れ問題だ。海外から輸入していた商品で消費期限切れ食肉を使用していたことが発覚し、世界中の店舗に影響した。
日本マクドナルドホールディングスでは、2014年12月期の業績は売上高2223億円、営業利益がマイナス67.1億円となり、翌2015年2月期も売上高1895億円、営業利益がマイナス234億円となった。業績回復に数年を要したことを考えると、すき家も客足が戻るのは1年以上先になるかもしれない。
経済・テクノロジー・不動産分野のライター。企業分析や都市開発の記事を執筆する。取得した資格は簿記、ファイナンシャルプランナー。趣味は経済関係の本や決算書を読むこと。
ITmedia ビジネスオンライン
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