( 321938 )  2025/09/05 05:55:41  
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米国のTOTOショールーム(8月8日、ニューヨークで) 

 

 TOTOが米国でウォシュレット(温水洗浄便座)の販売を急拡大させている。コロナ禍以降、右肩上がりとなっており、昨年時点で日本の販売台数の4分の1の規模に達した。それでも普及率は日本の8割超に対して米国はまだ3%程度とみられ、開拓余地が大きい。販売網やアフターサービスの拡充などで攻勢をかけている。 

 

 米国でのウォシュレットの販売台数(一部カナダを含む)は、コロナ禍の2020年に前年の1・8倍と急伸し、一気に販売が加速した。24年も前年比26%増で、25年1~3月も前年同期比48%増と高い伸びが続いている。 

 

読売新聞 

 

 TOTO米国本社の室井太郎社長は「絶好調だ。苦節30年。ようやく普及期の入り口に来た」と手応えを口にしており、25、26年もそれぞれ前年を2割程度上回る目標を掲げている。 

 

 TOTOが米国に進出したのは1989年で、当初からウォシュレットも展開していた。 

 

 ただ、ブランド力や認知度の低さから長く低調な販売が続いてきた。高級ブランドが入居するショッピングモールにショールームを出店した際には他のテナントから「トイレの店は施設のイメージにふさわしくない」などとクレームが入り、退店を余儀なくされた。ニューヨークのタイムズスクエアで大規模な広告を出そうとした際にも、「不適切だ」などと指摘を受けた。 

 

 また、長く赤字が続いていたこともあり、社内から「いつまで米国事業を続けるんだ」と言われることもあったという。 

 

 風向きが一変するきっかけとなったのが、コロナ禍だった。物流の混乱でトイレットペーパーが不足する中、紙なしでおしりを洗えるウォシュレットが注目を浴びた。その数年前までにインターネット通販「アマゾン」や大手量販店「コストコ」での取り扱いなど全米に販路を拡大していたことから、「商品を知った消費者が、すぐにネットや店舗で購入できる体制になっていたことが奏功した」(室井氏)。 

 

 SNSの効果も大きかった。2022年に有名ラッパーのドレイク氏がウォシュレットを友人に贈ったことがSNSで紹介され、米メディアでも広く報じられたことで認知度の向上につながった。DIYが得意な購入者が設置方法を解説する動画を多く配信するようになったこともプラスに働いた。 

 

 

 実際に利用者の評価も高まっている。自宅に3台設置しているというオハイオ州在住のマーク・フランクさん(42)は「6歳の娘を含め、家族全員が愛用している。もう自宅以外のトイレには行けなくなってしまった」と話す。テキサス州に住むアシュリーさん(40)も、「下半身を清潔にできる安心感は格別で、寒い日の朝に温かい便座に座れることは人生を変えるほどの体験だ。その優れた機能はまるでiPhone(アイフォーン)のようだ」と高い満足度を表現する。 

 

 中国の不動産市況の悪化で中国事業が縮小しているTOTOにとって、米国市場拡大への期待は大きい。1軒の住宅にトイレが1~2個の日本に対して米国は3~4個あることが多く、潜在需要が大きいとみているためだ。 

 

 米国でのウォシュレット普及率はまだ3%程度に過ぎないが、一般的に新しい商品やサービスの普及率が16%を超えると、その後の伸びは一気に跳ね上がると言われている。普及率が8割を超えている日本でも、1980年代後半に急激に普及率が上がって販売拡大につながった。 

 

 米国でその再現をねらいたいTOTOはすでに動き始めており、人口30万人以上の63都市に計約300か所のショールームを配置するとともに、故障の相談を受けてから3日以内に修理を完了させるアフターサービス網を整備する計画だ。2026年中に完了する予定で実行しているが、前倒しで達成できるメドもついており、全米展開する大手量販店や、他社の商品を専売している住宅設備専門店との商談も増やしている。 

 

 2030年度までにTOTO全体の連結売上高を1兆円(24年度は7244億円)とすることを目指す上で米国事業の拡大がカギを握っており、積極的な投資も進める。 

 

TOTOが28年ぶりに新増設した米国工場の完成式典で、登壇する田村社長(8月22日、ジョージア州アトランタ近郊で) 

 

 TOTOは8月22日、米ジョージア州アトランタ近郊の便器の製造工場を増強し、生産能力を1・5倍にすると発表した。田村信也社長は現地で読売新聞などの取材に応じ、現在アジアから輸出しているウォシュレットについても「2030年には米国やその周辺に工場があってもおかしくない」と述べ、現地生産を検討する考えを示した。 

 

 

 ただ、競争は激化している。TOTOの製品には便座の暖房や送風など様々な機能が搭載されており、新型モデルでは1000ドル(約15万円)以上するものが主流だ。一方で地元メーカーの中にはTOTOより大幅に低い価格で製品を提供する企業もある。 

 

 トランプ関税への対応も迫られている。TOTOは当面、タイとマレーシアから米国に輸出するウォシュレットを値上げして対処する予定だ。インフレ(物価上昇)への懸念から米国の消費者の間でも低価格志向が強まっており、高価格帯が主力のTOTOには逆風となる可能性もある。 

 

 米国本社の室井氏は「温水洗浄便座の市場をTOTOが開拓していきたい。競争は激しくなるが、日本で鍛えた品質の良さと充実したアフターサービスで差別化し、市場の成長を取り込む」と話している。 

 

 

 
 

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