( 322051 )  2025/09/06 03:54:07  
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埼玉県川口市で、2024年9月に飲酒後に逆走し男性を死亡させた中国籍の19歳の少年に対する論告求刑公判がさいたま地裁で行われた。

検察は懲役9年を求め、弁護側は危険運転致死の成立を否定し家庭裁判所への再送致を主張。

少年は自らの行為を後悔し、社会復帰への決意を示した。

被害者の妻は怒りを表し、同乗者にも責任があると語った。

事件は衝撃的で、近隣住民も当時の恐怖を振り返った。

判決は9月19日に言い渡される予定。

(要約)

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事件現場の交差点。被害者車両は、右から左へと横切ろうとしていた(2025年9月1日、筆者撮影) 

 

埼玉県川口市で2024年9月、飲酒後に車を運転して一方通行の道を逆走し、男性を死亡させたとして、危険運転致死などの罪に問われた中国籍の少年(19)の論告求刑公判が9月5日、さいたま地裁(江見健一裁判長)であった。 

 

検察側は「極めて身勝手で自己中心的であって酌むべき事情はない」などとして懲役9年を求刑。一方、弁護側は、危険運転致死の成立を否定したうえで、家庭裁判所に再度送致し、少年院送致の保護処分にすべきだと主張し、結審した。 

 

最終陳述で、少年は裁判官をまっすぐ見つめ、はっきりとした口調でこう述べた。 

 

「私は、今後の人生において、決して今回自分が起こしてしまったこと、自分が命を奪ってしまったという罪深さを忘れません」 

 

さらに社会復帰への決意を口にした。 

 

「当たり前のことを守り、社会の常識を守り、立派な大人になるよう、周囲の人に相談したり支援を受けたりして、成長していきます」 

 

(ライター・学生傍聴人) 

 

さいたま地方裁判所(2025年9月5日、筆者撮影) 

 

9月2日の初公判で、検察側が、被害者の妻の供述調書を朗読した。最愛の夫を奪われた妻は、少年への強い怒りをにじませた。 

 

「ネット上で、映像を見て、事故の状況を知りました。相手の親からは謝罪したいという連絡がありましたが、はっきり言って顔も見たくないです。まったく知らない場所で生活してほしいです」 

 

さらに、少年の車に同乗していた友人らについても「同乗していた人たちも、同じ罪だと思っています」と述べた。 

 

事件現場の交差点。少年の車は中央の道から飛び出てきた(2025年9月1日、筆者撮影) 

 

現場は、JR西川口駅から直線距離で約900メートルの住宅街。事件から約1年経った今も、近隣住民は衝撃を忘れていない。 

 

「朝6時前、ものすごい音がしました。今まであんな大きな音は聞いたことがありませんでした」 

 

日曜日の早朝、就寝中に飛び起きた住民が窓から見たのは、左側が大破し、トランクが開いたままアパートの垣根に突っ込んだ車の姿だった。平穏な住宅街は一瞬で惨劇の現場と化した。 

 

「怖くて怖くて、ドキドキしていました。ドキドキが止まらなかったです」と振り返る住民もいた。特に印象に残ったのは、車から飛び出したゴルフバッグだったという。 

 

「(現場近くの家の)玄関前まで飛んできていました。ゴルフバッグに入っていたドライバーなどは何本か折れていました」 

 

 

さいたま地方検察庁(2025年9月5日、筆者撮影) 

 

検察側は論告で、少年が時速98キロ〜125キロに加速しながら逆走していたことを指摘。一方通行の道路は幅員が狭く、完全に平坦な路面でないことなどの状況を考慮したうえで、わずかな操作のミスで事故が発生するおそれがあるとして、制御が困難な高速度であったと主張した。 

 

また、少年は逆走していることを認識しながらスピードをあげていたなどの事情から、対向車がきた場合には相手方の運転手に回避措置をとらせるのは明らかであり、他の車を妨害する目的で運転していたとして、危険運転致死罪が成立するとした。 

 

さらに、少年が19歳と人格も成熟しており、犯行動機や経緯が極めて自己中心的で酌むべき事情はないと非難。「一瞬にして生命を絶たれた被害者の無念さは計り知れず、遺族の被害感情も大きい」として懲役9年を求刑した。 

 

仮に過失運転致死罪にとどまる場合には、懲役6年が相当とした。 

 

少年が逆走をした一方通行の道路(2025年9月1日、筆者撮影) 

 

弁護側は、少年が逆走した一方通行の道路は直線道路であり、事件当時の天候も晴れていたことから、制御が困難だったとはいえないと反論した。 

 

さらに、他の車を妨害する目的だったという検察側の指摘に対しては、「危険運転致死罪」は法定刑が重く悪質性が必要であるとしたうえで、少年は積極的な意図をもってあえて他の車の通行を妨害する行為に及んだとはいえないとして、過失運転致死罪にとどまると主張した。 

 

また、少年に補導歴がないことや、焦りや未熟さが背景にあり、反社会性は高くないとして、刑務所に収容する刑事処分ではなく、少年院に送致する保護処分が相当であるとうったえた。 

 

起訴状などによると、少年は2024年9月29日午前5時43分ごろ、酒気帯び運転をして、法定速度「時速30キロ」の一方通行の道路を制御困難な高速度で逆走し、通行人や交差点を進行する車や通行人を妨害する目的で、時速125キロで交差点に進入。 

 

交差点を通行していた男性(当時51歳)が運転する車の左側に車の前部を衝突させ、男性を外傷性大動脈解離によって死亡させたとされている。 

 

初公判で少年は酒気帯び運転は認めたが、危険運転致死罪の成立は否認。弁護側も少年は注意義務を怠ったとして、法定刑の軽い過失運転致死罪にとどまると主張していた。 

 

 

今回の用いられた「リストバンド式傍聴券」(2025年9月2日、筆者撮影) 

 

今回の裁判では、すべての期日で抽選のリストバンド式の傍聴券が交付された。 

 

この方式は、2023年から翌24年にかけて京都地裁で審理された「京アニ事件」など、全国的に傍聴希望者の殺到が予想される裁判で導入されている。 

 

しかし、リストバンドを外すと当選が無効となり、確保された席が空席になってしまうため、「裁判公開」の観点から問題視されている。 

 

 

 

実際、ジャーナリストや学者、弁護士でつくる「司法情報公開研究会」は7月、安倍晋三元首相銃撃事件の公判を控える奈良地裁と最高裁に対して、リストバンド式を避けることなどを求める要望書を提出している。 

 

さいたま地裁は、リストバンド式傍聴券を採用した理由について「回答できない」とした。 

 

判決は9月19日に言い渡される予定だ。 

 

弁護士ドットコムニュース編集部 

 

 

 
 

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