( 322183 ) 2025/09/06 06:26:29 0 00 「クマ被害」急増でも、1頭駆除で「1万300円」の現実…狩猟者が減少する今、この金額は妥当? 報酬とリスクの“アンバランス”とは
近年では、全国でクマ被害のニュースを目にする機会が増えており、クマによる事故が深刻化しています。環境省の統計によると、2023年度はクマ類による人身被害は198件発生し、219人が被害に遭い、そのうち6人が死亡しました。
2024年度は人身被害は82件、被害人数85人、そのうち死亡者3人と減少しましたが、2025年度は7月末までの3ヶ月間で人身被害は48件、被害人数55人、そのうち死亡者3人と増加傾向です。
このような状況の中、住民の安全のためにクマの駆除を担うハンターに支払われる報奨金の金額は適正なのでしょうか。
クマによる被害増加の背景には、複数の要因が複雑に絡み合っています。環境省の調査によると、クマの分布域は、平成15年度と30年度の比較でヒグマは約1.3倍、ツキノワグマは約1.4倍に拡大しています。
山でブナの実などが不作になった年には、クマが冬眠前のエサを求めて人里に降りてくるケースが多発しています。
一方、狩猟者の数は年々減少しています。環境省の資料によると、狩猟免許取得者数は昭和50年度には約52万人でしたが、令和2年度には約22万人となっています。実に60%近い減少で、年代別に見ると60歳未満の狩猟者は約80%も減少しています。
クマ駆除に対する報奨金は、自治体によって大きく異なります。一般的には1頭あたり1万円から6万円程度が相場となっています。
北海道の浦河町を例に見ると、2024年時点でクマ駆除の報奨金は1万円、クマ箱わな設置は1万円、クマ出動時は5000円となっています。一方、紋別市では1頭につき6万円が支給されるなど、地域による差があります。
しかし、これらの金額に対して狩猟者側からは「安すぎる」という声が上がっています。2024年5月には、北海道奈井江町の猟友会が、町から提示された1頭1万300円の報奨金に対し、4万5000円を要求したものの受け入れられず、鳥獣被害対策実施隊への参加を辞退する事態が起きました。
クマ駆除は極めて危険な作業です。クマは時速60キロメートルで走ることができ、一撃で人間を死に至らしめる力を持っています。そのため、駆除には「一発で仕留める」ことが鉄則とされており、失敗すれば反撃される可能性があります。
実際にクマによる人身事故の半数以上がハンターです。仮に命が助かったとしても重大な後遺症が現れることが多く、本業にも支障が出るようなケースがほとんどだそうです。
狩猟者の減少には、高齢化、費用負担、社会的なイメージなど複数の要因があります。現在の狩猟者の60歳以上の割合は約60%に達しており、若い世代の参入が進んでいません。
狩猟を始めるには免許取得費、銃の購入費、維持費など相当な初期投資が必要で、新規参入の壁となっています。さらに深刻なのは、クマ駆除を行ったハンターに対する外部からの批判です。クマを駆除すると苦情が自治体に殺到し、ハンター個人への攻撃も行われています。
クマ駆除の報奨金が妥当かどうかを考える際、単に作業の対価だけでなく、そのリスクと社会的意義を総合的に評価する必要があります。命の危険を冒し、高度な技術と経験を要する作業でありながら、現在の報奨金は日給換算で1万円から6万円程度で地域による格差も存在します。
限られた自治体予算の中で報奨金を大幅に引き上げることは、現実的には困難です。しかし、住民の安全を確保するという公共性を考えると、適正な対価を支払うことは必要不可欠です。
現在、北海道猟友会は自治体からの駆除要請に原則応じない方針を検討しており、これは民間任せの駆除体制に対する問題提起でもあります。
クマ被害の増加と狩猟者の減少という深刻な問題に直面している今、駆除に携わるハンターへの適正な報奨金の支払いは急務といえます。現在の1頭1万円から6万円という報奨金は、作業の危険性と社会的価値を考慮すると決して十分とはいえません。
住民の安全を守るという公共の利益のために、国や自治体はハンターの処遇改善と新規参入促進に向けた総合的な対策を講じる必要があります。
単に報奨金を引き上げるだけでなく、狩猟免許の取得支援、若手ハンターの育成、社会的理解の促進などのアプローチが求められるのではないでしょうか。
出典 環境省 クマ類による人身被害について(速報値) 環境省 年代別狩猟免許取得者数 環境省 指定管理鳥獣対策事業交付金事業
執筆者 : 上野梓 FP2級、日商簿記3級、アロマテラピー検定2級、夫婦カウンセラー、上級心理カウンセラー、整理収納アドバイザー
ファイナンシャルフィールド編集部
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