( 322418 )  2025/09/07 05:47:54  
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自民党の麻生太郎最高顧問 Photo:picture alliance/gettyimages 

 

● 麻生氏が目指す キングメーカーへの復権 

 

 9月3日午後3時。場所はヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル。例年どおり横浜で開いた自民党麻生派の集会は、麻生太郎最高顧問(元首相)を先頭に、「石破降ろし」決起集会の様相を呈した。 

 

 麻生氏の「石破嫌い」は今に始まったことではないが、去る7月23日、自民党本部で岸田文雄前首相や菅義偉元首相とともに石破茂首相と会談した際、「今のままじゃあ次の選挙は戦えない」と退陣を迫ったにもかかわらず、会談後、石破首相が記者団に「出処進退の話は一切出ていない」と述べたことが怒りに火をつけたのは間違いない。 

 

 「オレは辞めろって言っただろって。その怒りと次期衆院選への危機感が、麻生先生を突き動かしているのだと思います」(麻生派衆議院議員) 

 

 ただ、筆者はそれだけではないと見ている。 

 

 麻生氏は御年84歳。政争に敗れれば「引退」の2文字もささやかれる中、キングメーカーとして復権を果たすための最後の大勝負に出たと見ていい。 

 

● キングメーカーの座を争ってきた 自民党内の3人の人物 

 

 振り返れば、これまで自民党内でキングメーカーの座を争ってきたのは、麻生氏と菅氏、それに政界を引退した二階俊博氏であった。 

 

 二階氏の場合、2016年6月から2021年8月まで、実に5年余りにわたって幹事長を務め、安倍晋三元首相の長期政権を主導し、安倍氏退陣の後は、菅氏を担いで首相に押し上げるキングメーカーぶりを見せている。 

 

 他方で、麻生氏と菅氏は安倍政権下において、麻生氏が副総理兼財務相、菅氏が官房長官とナンバー2争いを繰り広げてきた。 

 

 その後、菅政権下で麻生氏は安倍政権時代と同じポストに甘んじたものの、2021年9月、菅氏が次期総裁選に出馬しないと表明するや、岸田文雄氏を担いで巻き返し、安倍氏が支援した高市早苗氏や菅氏が後押しした河野太郎氏を破って、岸田政権樹立の立役者となった。 

 

 こうして見ると、麻生氏は、二階氏や菅氏と抜きつ抜かれつを繰り返しながら、政府や自民党の要職に在り続け、絶大な権力を保持してきた政治家ということになる。 

 

 しかし、2024年9月に行われた自民党総裁選では、高市氏を支援した麻生氏と小泉進次郎氏を担いだ菅氏はともに石破氏に敗れた。麻生氏は名誉職の最高顧問に祭り上げられ、菅氏も自民党副総裁という存在感が薄いポストに就任したことで、キングメーカーの座から滑り落ちた。 

 

 体調面で不安を抱える菅氏はまだしも、「まだまだやれる」(前出の麻生派衆議院議員)という自負がある麻生氏のことだ。冷や飯を食べることわずか1年で回ってきた機会を逃すはずがない。 

 

 まず、総裁選の前倒し決定で、事実上、石破氏を退陣に追い込み、前回同様、高市氏か、あるいは小林鷹之氏や茂木敏充氏らの中から勝てる候補を選んで、唯一残存する派閥を率いてキングメーカーの座を奪還しようと動くのは、当然の流れと言えるだろう。 

 

 

● 森山幹事長が目論む 「小泉進次郎首相」 

 

 復権を目指す麻生氏に立ちはだかるのが、御年80歳の森山裕幹事長だ。森山氏は両院議員総会で辞意を表明したものの、あくまで「進退伺」であり、その判断は石破首相(党総裁)に委ねるとしている。 

 

 「当然、石破首相は自分を慰留するはずだ」「そうでなくとも、現在の自民党役員の任期は今月末まであるため、そこまでは幹事長として辣腕を振るうことができるだろう」と計算してのことだ。 

 

 つまり、出処進退について、「しかるべき時にきちんと決断をする」と述べた石破首相と同様、しばらくは続投するということだ。 

 

 そこまで計算したうえで、総裁選前倒しを求める党所属議員には、「書面には記名・捺印」「本人が持参」「結果は公表する」という3重の踏み絵を踏ませ、しかも、「9月8日午前10時から午後3時の間に持ってくるように」と指示することで、他の議員の動向を見ながら態度を決めることが難しくなる手法をとった。 

 

 「総裁選前倒しの阻止を図る手法としてはお見事。ここまでは完全に森山さんペース」(旧安倍派衆議院議員) 

 

 その森山氏は、仮に総裁選が前倒しされることになった場合、小泉進次郎農水相を擁立する可能性が高い。小泉氏の後見役である菅氏と近く、麻生氏と対決するには小泉氏を担ぐ以外に選択肢はないと考えているからだ。 

 

● 肝心の小泉氏は 総裁選に出馬するか? 

 

 では、小泉氏は再び総裁選に出馬するのかどうか。筆者は、総裁選前倒しが決まり、石破首相が再出馬しなかった場合、森山氏や菅氏を後ろ盾に出馬すると断言したい。 

 

 その伏線はすでにある。 

 

 8月25日、小泉氏が訪問先の鹿児島県霧島市で、「今は総裁選より政策実現」と訴えたことは多くのメディアで報道されている。 

 

 注目すべきは、小泉氏の隣に、鹿児島県が地元の森山氏がいたという点だ。小泉氏と森山氏は、小泉氏が急遽、農水相に抜擢された頃から急速に距離を縮めてきたが、2人揃って記者団の質問に答えたシーンは、「小泉氏と森山氏ががっちり手を組んだ」(前出の旧安倍派衆議院議員)象徴的な出来事と言っていい。 

 

 その小泉氏は、9月1日、テレビ朝日の番組で、副大臣や政務官からも総裁選前倒しの声が相次いでいる点について、「議員の立場で、危機感を表明するのはあるべき姿勢の1つ」と理解を示した。 

 

 すなわち、総裁選前倒しの動きを閣僚の1人としてけん制しつつ、前倒し派の議員にも秋波を送ったわけだ。頭の中に総裁選の3文字があるからに相違ない。 

 

 森山氏の狙いは、石破政権が存続するなら、自分の代わりに小泉氏を幹事長に横滑りさせ、自分は幹事長代理あたりのポストに下がって影で支援する、そして石破首相の総裁任期が切れる2年後に「小泉首相誕生」にもっていきたい、といったところだろう。 

 

 とはいえ、総裁選前倒しが決定した場合は、小泉氏を押し立て、小泉氏や菅氏と近い関係にある日本維新の会との連立、あるいは財政規律派という点で考え方が近い立憲民主党の野田佳彦代表との連携も視野に、総裁選に挑むことになると筆者は見る。 

 

 一方の麻生氏は、小泉氏に勝てる候補を見定めて支援し、国民民主党との連立や連携を想定しながら総裁選を戦うことになるだろう。 

 

 つまり、総裁選の有無にかかわらず、麻生氏vs森山氏のキングメーカー争い、言い換えるなら最終決戦ののろしが上がったと考えていい。 

 

 

● 旧岸田派の議員も加われば 流れは一気に総裁選前倒しへ 

 

 筆者は連日、自民党の衆参両院議員と電話で票読みをしているが、麻生派、旧茂木派、旧安倍派合わせて140人の大半が賛成すれば、都道府県票を加えて過半数の172(自民党衆参両院議員295+都道府県47=342)に近いところまではいくと見ている。 

 

 もちろん、週末を挟むため、地元に帰る議員がどう判断するか予断を許さないが、議員で言えば、旧岸田派37人の動向、都道府県連で言えば、森山氏の地元、鹿児島県と、小泉氏や菅氏の地元、神奈川県の判断に注目しておく必要がある。 

 

 去年の総裁選の決選投票で高市氏ではなく石破首相を勝たせた旧岸田派は、ここへ来て、反石破に転じ、総裁選前倒しに舵を切ったように見える。 

 

 先に述べたように、総裁選前倒しをめぐっては政務三役の中からも公然と前倒しを求める声が上がっているが、先鞭をつけた神田潤一法務政務官や小林史明環境副大臣はいずれも旧岸田派の議員だ。 

 

 麻生派、旧茂木派、旧安倍派に加え、旧岸田派からも前倒しを求める議員が加われば、流れは一気に「石破降ろし」、臨時総裁選実施に向かうことになる。 

 

 ただ、現在の総裁選前倒しに向けた水面下の動き、そして、その先にあるかもしれない総裁選をめぐる権力闘争を思えば、9月2日、参院選敗北を受けてまとめた「解党的出直しに取り組む」や「真の国民政党に生まれ変わる」といった総括文書が、いかに空虚なものであるかがよくわかる。 

 

 居座りを続ける石破首相も、そして麻生氏や森山氏らも、すべて有権者は見ていることを忘れないでいただきたいものである。 

 

 (政治・教育ジャーナリスト/びわこ成蹊スポーツ大学教授 清水克彦) 

 

清水克彦 

 

 

 
 

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