( 322486 )  2025/09/07 07:07:20  
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最近、東京都内の繁華街で「ワモンゴキブリ」の被害が増えている。

ワモンゴキブリは沖縄・九州を中心に生息していたが、東日本に進出してきた。

繁殖力が強く、メスは単為生殖が可能なため、急速に数を増やす。

温水食器洗い機の普及により、高温多湿の環境が維持され、さらに繁殖を助長している。

駆除方法は難しく、残留噴霧処理などの新しい手法が試されている。

今後、地球温暖化が進むにつれて、東京都内の住宅地でもワモンゴキブリが見られる可能性があるため、注意が必要だ。

(要約)

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(FNNプライムオンライン) 

 

ゴキブリといえば、一般の家庭によく出没する黒くて大きな「クロゴキブリ」、あるいは飲食店でたまにみかける薄茶色で小さな「チャバネゴキブリ」をイメージする人が多いはずだが、近年、ゴキブリの第三勢力とでもいうべき「ワモンゴキブリ」の被害が、東京都内の繁華街で増えているという。 

 

ワモンゴキブリは沖縄・九州〜西日本を中心に生息し、東日本にはあまりいないとされてきたが、なぜ東日本の、それも繁華街で増殖しはじめたのだろう?害虫駆除の専門家で、ゴキブリの駆除経験が豊富な足立雅也さん(808シティ代表)が、その生態や駆除方法について解説する。 

 

ワモンゴキブリはチャバネゴキブリのように茶色くて、クロゴキブリのように巨大なゴキブリです。見た目やサイズ感は、みなさんが日頃、目にしているクロゴキブリとほとんど変わりません。背中(胸部)に白っぽいリング状の紋様があるかどうかが、ワモンゴキブリとクロゴキブリを見分ける際のポイントとなります。 

 

行動スタイルとしては、クロゴキブリと同様、ワモンゴキブリも単独行動をします。しかし、クロゴキブリよりも繁殖力が高いためか、その数の多さから大きな群れで行動しているかのように見えることがあります。クロゴキブリの大きさで大群で行動するのですから、強烈ですよね。 

 

繁殖力が強いのには理由があります。クロゴキブリやチャバネゴキブリはオスとメスが交尾することで子孫を増やしていきますが(有性生殖)、ワモンゴキブリは、交尾による繁殖だけでなく、メス単体での繁殖、「単為生殖」が可能なのです。 

 

北海道大学の研究チームの報告によると、成虫のメスは、まわりにオスがいなければ未交尾のままで卵を産みます。その卵からかえったゴキブリはオスのDNAをもっていないため、成長するとすべてメスになります。そうやって大量に生まれるメスが、また単独で卵を産むため、ものすごいスピードで増殖していくのです。 

 

 

ワモンゴキブリは高温多湿の環境を好むため、もともとは九州・沖縄から関西までの西日本エリアを中心に生息していました。しかし近年は東日本の都心部にも生息域を広げていて、なかでも飲食店が多く集まったビルや繁華街での被害が増えています。 

 

これには地球温暖化による気温上昇も少なからず影響していると思われますが、もっと大きな要因として考えられるのが、「温水食器洗い機」の普及です。 

 

ビルの地下には通常、流し台や洗濯機から出る生活排水や水洗トイレの汚水を一時的に溜めておくコンクリート製の貯水槽(雑排水槽・汚水槽)が設置されています。近年、温水食器洗い機を導入する飲食店舗が増えたことで、この水槽に四六時中、大量の温水が流れ込むことになり、ワモンゴキブリが好む高温多湿の環境が一年中維持されることとなったのです。 

 

では、地下の貯水槽で繁殖したワモンゴキブリは、どうやって飲食店の店内に入り込むのでしょう? 

 

古いビルの場合、貯水槽のコンクリートにひび割れが生じていることもあり、ゴキブリたちはそうした割れ目に入り込み、壁のなかを通って店舗の天井裏に移動します。そして天井のダウンライトのランプの根元の隙間をくぐり抜けて、店舗内に侵入してくるのです。 

 

こうなると飲食店にとっては食事中のお客さんの頭の上に突如ゴキブリが現れるのですから一大事です。 

 

そんな最悪の事態を避けるため、お店の人はワモンゴキブリが出入りしているダウンライトの隙間に殺虫剤スプレーを噴霧してしまうかもしれませんが、これは絶対にやらないでください。 

 

なぜなら殺虫剤を噴射すると、集団で潜んでいたワモンゴキブリたちが刺激をうけて一斉に動き出し、逃れようと次から次へと隙間から出てくるので、天井からたくさんのゴキブリが降ってくることになるからです。 

 

では、ワモンゴキブリはどうやって駆除すればいいのでしょう?ちなみにクロゴキブリの場合は、殺虫スプレーや市販されている燻煙殺虫剤を使えば簡単に駆除可能です。チャバネゴキブリの場合は殺虫剤に対する耐性を持っている個体も存在するので、プロの駆除業者は業務用のベイト剤や、ブロフラニリドという新しい殺虫成分の入った薬剤を使います。 

 

ベイト剤とは餌に遅効性の殺虫成分を混ぜた毒餌のことで、これを食べたゴキブリが巣に戻って死ぬと、その死骸や糞を食べたほかのゴキブリたちも連鎖的に死滅します。コロニーをつくって暮らしているチャバネゴキブリを駆除するには、巣を全滅させることが可能となるため、ベイト剤による駆除法が適しているのです。 

 

ワモンゴキブリもチャバネゴキブリ同様、コロニーをつくって暮らしているのだから、ベイト剤を使えば駆除可能と思われるかもしれませんが、そう簡単にはいきません。なぜなら体が大きく食欲旺盛なワモンゴキブリは、1匹でベイト剤をチャバネゴキブリ以上に大量に食べてしまうからです。巣ごと全滅させようと思ったら大量のベイト剤が必要となり、多額の薬剤費用がかかってしまいます。 

 

コストの面からベイト剤をあきらめて別の薬剤を検討しますが、つい新しい商品を頼りがちです。新成分であるブロフラニリドの殺虫剤を使ってみました。ところが、成果は全く得られませんでした。体が大きい分、効き目が遅いのかと思いましたが、待てども効果が実感できないので、あきらめました。後にゴキブリの研究者が学術発表の場で、ブロフラニリドでは目に見える効果が得られなかったと講演されていました。 

 

 

こうした理由から、ワモンゴキブリの駆除は駆除業者にとって悩みの種だったのですが、私どもは天井裏に「残留噴霧処理」という駆除法を行うようになりました。残留噴霧とは、ゴキブリの通り道となっている壁際、床などに長期間効果が持続する殺虫剤を予め噴霧する駆除法で、薬剤がゴキブリの体に付着し、やがて体内に取り込まれて死滅します。 

 

先日も都内の飲食店からワモンゴキブリの駆除を依頼され、天井裏に残留噴霧を行ったところ、想像以上の効果が確認できました。飲食店なので営業が終了してからの作業になり、深夜に薬剤を噴霧して明け方に店に戻ると、なんとそこには150匹以上ものワモンゴキブリが床一面にひっくり返って死んでいたのです。 

 

今のところ都内に限っては、ワモンゴキブリの駆除依頼はビルの飲食店からのものがほとんどです。しかし、深夜に路上でワモンゴキブリが走り回っている光景を見るようになってきたので、地球温暖化がさらに進むにつれ、都内の住宅地にもワモンゴキブリが普通に出没する日がくるかもしれません。そうなったときに慌てないためにも、今回お話ししたことを頭の隅にでもいいので記憶しておいていただけると幸いです。 

 

構成=中村宏覚 

 

足立雅也(あだち・まさや) 

害虫駆除や鳥獣対策を手掛ける「808シティ」代表取締役社長。 

 

足立雅也 

 

 

 
 

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