( 322613 )  2025/09/08 04:51:54  
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石破茂首相 

 

 大荒れとなった両院議員総会を乗り越えた石破茂首相(68)だが、9月8日には総裁選前倒しの是非を確認する手続きが実施される。政務三役からも公然と臨時総裁選を求める声が上がる中、首相は解散風を吹かせて党内の“反乱分子”を抑え込もうと躍起なのだという。 

 

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 東京・永田町の自民党本部で9月2日13時半から開かれた両院議員総会は、2時間半に及ぶ長丁場となった。8月29日に参院選総括委員会が取りまとめた「素案」では、参院選大敗の要因として「政治とカネ」の問題などを指摘。一方、石破首相個人の責任は明記されなかった。両院議員総会ではこの点について、多くの出席者から異論が相次ぎ、大荒れとなったのである。 

 

 政治部デスクが言う。 

 

「両院議員総会の出席者は200名を超えました。30名以上が発言し、そのうち約20名の出席者から石破首相に厳しい声が上がったそうです。首相は冒頭で“いかなるお叱りも受ける”と述べたものの、その場しのぎの態度に終始した。一方、去就に注目が集まっていた森山裕幹事長(80)は辞意を表明。その場で首相に進退が一任されましたが、政権には大きな痛手です」 

 

 山場を迎えた石破おろし。他の党四役も辞任の意向だ。9月8日には総裁選前倒し実施の是非が決まる。前倒しを求める議員は、当日午前10時から午後3時までに署名・押印した書面を党本部に提出。自民党所属議員295人と都道府県連代表47人の計342人のうち、過半数の172人が要求すれば、総裁任期満了を待たずに臨時総裁選の実施が決まる。 

 

「首相や森山幹事長ら執行部が狙った署名公表による“萎縮効果”は限定的です。すでに、国会議員は120名超が前倒しに賛同。都道府県連も過半数が前倒しを求めるとみられている。地方の動きが、態度を決めかねている議員の意思決定に影響を与えるのは確実です」(同) 

 

 石破政権を支えるべき政務三役にも、総裁選を求める声は広がり始めている。 

 

「47名の副大臣・政務官のうち約20名が賛同に回る意向を固めました」(前出のデスク) 

 

 旧岸田派の神田潤一法務大臣政務官(54)もその一人だ。神田氏が語る。 

 

「大臣政務官という立場ですから、政府の任命権者に反して署名するのかという批判は当然あります。(とはいえ、)今の自民党に対して、かなり厳しい民意が示されたというのは事実です。総理が辞任しないということに関して、納得できる説明が必要だと思いますが、そうしたものは党員全体に語られてはいません」 

 

 ある政権幹部からも「石破政権は持たない」との呻き声が漏れるのだが、石破首相本人は辞める気などさらさらないようだ。 

 

 政治ジャーナリストの青山和弘氏が明かす。 

 

「最近の石破首相の口ぶりからは高揚感すら感じられます。先月29日に行われたインドのモディ首相との首脳会談も、うまくいったと自信を深めています。各社の世論調査が上向いていることに気を良くしていて、この週末も“あとは日経(の調査が上向くか)だなあ”と期待感を表していました」 

 

 

 一方、総裁選前倒しの動きについては周囲に不快感を示しているという。 

 

「首相は地元の鳥取と隣の島根で“総裁選必要なし”という判断を得られていないことにショックだったようです」(前出のデスク) 

 

 実際、自民党島根県連の幹部に聞くと、 

 

「日本国民は選挙でノーを突き付けたわけです。総裁選の前倒しは仕方ないと思います。お隣の鳥取県連には選挙でお世話になっていますし、複雑な気持ちはありますが、私の周りは同じような考えを持っている議員が多い。石破首相が本当に日本国のことを考えているなら、もう一度、総裁選に出馬すればいいのでは」 

 

 と、にべもない。 

 

 先の青山氏が言う。 

 

「首相も総裁選前倒しの動きはとても気にしていて、“時間がある人間ほど、余計なことを考えるものだ”などと周囲に不満を漏らしています」 

 

 石破首相側も手をこまねいているばかりではない。首相は8月24日、側近の赤澤亮正経済再生担当相(64)同席の下、小泉純一郎元首相(83)、山崎拓元副総裁(88)、武部勤元幹事長(84)と都内のホテルで会食。会合後、山崎氏は“小泉元首相が郵政解散時の話を披露した”旨、明かしている。 

 

「小泉元首相は郵政民営化に反対した議員を非公認にし、刺客を送り込みました。石破首相は相談相手でもある山崎氏の口を借りて、いざとなれば、解散で党内の敵対勢力を一掃できるというメッセージを発したわけです。実はこの会合、首相側が赤澤氏を通じて山崎氏に頼み、開催にこぎ着けたものです。姑息にも“解散風”の舞台装置を自ら整えねばならぬほど、首相は追い詰められているといえます」(前出のデスク) 

 

 首相が赤澤氏を通じ、小泉元首相らとの会合を依頼した件を山崎氏に尋ねると、 

 

「赤澤さんがそれを言っていいと言うのなら……」 

 

 こう暗に認める。さらに会合で、「(中曽根内閣の)死んだふり解散の話をしました」と明かし、「解散権は総理にありますから」とも強調するのである。 

 

 

 先のデスクが解説する。 

 

「1986年、中曽根康弘首相は支持率が低迷する中、解散を決断。その年の5月に“衆議院解散は念頭にない”と表明しながら、国会閉会中の解散を模索しました。最終的に翌月、臨時国会を召集するも、野党の反発で本会議は開催できず、議長応接室で議長が解散詔書を読み上げる形で解散に至ったのです」 

 

 当時、山崎氏は中曽根元首相の側近として「死んだふり解散」を経験している。今回の発言は、憲法が解散時期について明文規定を設けていない以上、国会閉会中でも解散は可能だと言いたかったようだ。 

 

 もっとも、石破おろしの急先鋒である青山繁晴参議院議員(73)は、 

 

「(仮に解散するなら)“私利私欲解散”ですよ」 

 

 と、切り捨てる。前出の神田政務官も、 

 

「党を立て直し、党員の気持ちをもう一度一つにまとめることが求められている時です。それをやらずして国民に信を問えば、自民党がバラバラになってしまう。総裁選を回避するために解散総選挙をやるというのは、総裁として非常に無責任なことだと思います」 

 

 元自民党本部事務局長で選挙・政治アドバイザーの久米晃氏が言う。 

 

「解散風は総裁選前倒しに対するけん制に過ぎないでしょう。もし、解散すれば、自民党の議席は大幅に減ります。現状、衆議院は自公で220議席ですが、200議席を割るとみています。自民単独でも196議席から160〜170議席程度にまで落ち込む恐れもある。まさに大敗です」 

 

 さらに続けて、 

 

「今の自民党には国民に訴えるべき大義名分が何もありません。こんな状況で解散を強行するなら、まさに(無謀な海上特攻の最中、鹿児島県沖で撃沈された)戦艦大和の沖縄特攻と同じになります」 

 

 姑息な仕掛けに党内の反発は強まるばかり。石破首相が策など弄せず、森山幹事長の留任に全力を挙げていれば、このような局面は避けられたはずだ。人事の機微に疎く、足元から上がる批判にもどこ吹く風。地位にしがみつくばかりの石破首相が、いよいよもって窮地に立たされた。 

 

「週刊新潮」2025年9月11日号 掲載 

 

新潮社 

 

 

 
 

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