( 322728 ) 2025/09/08 07:05:33 0 00 「VSING」営業中の店内。入口からバーカウンター(奥)を進むと、「チアー」を受けながらカラオケが歌えるステージがある=東京都渋谷区(重松明子撮影)
日本でカラオケが生まれて半世紀あまり。世界各地へと広がったが、この8月、東南アジアで人気の新業態〝応援型カラオケバー〟が東京・渋谷に逆輸入上陸した。歌う人と観客がアプリで結ばれ「チアー」(応援ポイント=店内通貨としても使える)を贈られることでスモークや照明、映像などの演出が派手に展開され、飲食にも利用できる。カラオケボックスの内輪ノリやスナックのまったり感とは一線を画す、ほどよい緊張感も魅力のようだ。金曜の夜。センター街にあるその店「VSING(ブイシング)」の扉を開けてみた。
■プロとコラボも…進化系のど自慢
光線の中でミスターチルドレンを熱唱する男性。背後の大型LEDモニターに「イケボ(イケてるボイス)」の応援文字が飛び出す。「明日もまた、ここに来ます!」といって満足げにステージを降りた。午後8時半を回ったころ。続々と席が埋まりだし、満席になると聴衆は70人以上になる。
一人で来店した鍼灸(しんきゅう)師・トレーナーの男性(40)は、「来て5分で1曲歌いました。スナックにはない緊張感がありましたけど、応援してもらえる感じがすごく気持ちいい。ゲーム感覚もあり、知らない人との出会いも面白い」。
客層は20~40代中心で、6割が男性。日本人客が多い。若者ならミセスグリーンアップルの「ライラック」やAdoの「唱」、高橋洋子の「残酷な天使のテーゼ」など定番のアニソンも全世代によく歌われ、海外で人気に火がついた昭和日本のシティポップも親和性が高い。同店を運営するシン・コーポレーションの松本洋一総務部長(54)は「インバウンドの来店を見て、洋楽に切り替えて歌う日本人客もいる。盛り上げたい、チアーが欲しいとの選曲傾向が見える」。スターのような演出に酔い、意識もプロ顔負けに高まるのか!?
日本で旅行関係の仕事をしている台湾人女性客は、「実は昨夜も来たんです。チアーをいただいてこのビールは無料で飲んでいます。SNSにもアップしました」。同行の女性とステージに上がり、ディズニーの映画曲をハモっていた。
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飲食メニューはビール550円、フライドチキン800円など。歌唱・チアー・飲食を含めた平均客単価は2時間で平日約3千円、金土日祝約3500円。初回入店時に専用アプリでの登録が必須で、曲の予約もアプリから。ステージを応援したいときは、チアーのレベルや演出の種類を選び、最高チアーを贈った人は歌い手にあいさつできるなどの〝特典〟がある。
VSINGは2020年にマレーシアで創業し、本社移転した香港、台湾、タイに42店舗。5番目の国・地域となる日本では、アミューズメント企業のGENDA(ジェンダ、東京都港区)グループが独占使用権を取得し、傘下で全国に「カラオケBanBan」391店舗を展開するシン・コーポレーションが運営を手掛ける。川口範社長(55)は「応援型カラオケステージという双方向性がVSINGの一番の肝。カラオケ市場に新たな楽しみ方を提供したい。イベントなどさまざまな仕掛けを考えており、日本の主要都市への出店を進める方針」。
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帝国データバンクの調査では、新型コロナウイルス禍で令和3年度1740億円に落ち込んだカラオケ市場が、昨年度は3200億円とコロナ前に迫る回復基調。その勢いの中、不特定多数を前に歌唱する新トレンドが現れた。
「ビッグエコー」を展開する第一興商も8月、「ボルテトーキョー」をJR品川駅港南口前に開店した。ダーツやエアホッケー遊具があり、歌う場所は中央のバーカウンターだ。「大人が〝遊び〟を再発見できる場所」をコンセプトに20歳未満は入店不可。歌+遊び+飲みの全放題プランがあり、平均滞在約2時間、平均客単価は約4千円。
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マレーシアのVSINGでは、勝ち抜き戦で優勝した客がプロ歌手とコラボ曲を発売した事例もあるという、進化系のど自慢。度胸試しに一曲どうでしょう?(重松明子)
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