( 323003 )  2025/09/09 07:06:36  
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写真はイメージです Photo:PIXTA 

 

 「子どもの学費は親が出して当然」そう思って二人の息子を大学まで行かせた50代の夫婦。返済は自分たちでするつもりで次男に奨学金を借りさせて大学に行かせましたが、試算すると、退職金があっても老後資金が心配ということに……教育費と老後資金、あなたならどう線引きしますか?(家計再生コンサルタント 横山光昭) 

 

● 奨学金を利用して大学に通う学生が増えている 

 

 教育費は、人生で最も大きな支出となることも多いもの。近年、高校の授業料無償化や、多子世帯向けの大学授業料減免といった制度が整い、家計の負担を軽減する施策が進んでいます。たとえば、公立高校の授業料は完全無償化され、大学も多子世帯であれば、国公立大学で最大年間54万円、私立大学では最大70万円の授業料が軽減されます。 

 

 一方で、奨学金を利用して大学に通う学生は増え続けています。日本の大学生の約55%が貸与型奨学金を利用しており、学費の高騰を補うための頼れる制度となっています。本来、奨学金は学生本人が卒業後に返済するものですが、親が肩代わりするケースも少なくありません。 

 

 親が奨学金の返済を肩代わりすると、一時的に子どもの生活を支えられても、親自身の老後資金を圧迫するリスクが高まります。特に50代以降の家庭では、定年後の生活費や住宅ローン、介護費用といった出費が重なるため、長期にわたる返済負担は老後資金の不足を招きかねません。 

 

 今回ご紹介する50代のご夫婦も、奨学金の肩代わりが老後資金を圧迫する一因となっていました。 

 

● 次男の奨学金を、退職金で返済しようとしたら…… 

 

 専業主婦のWさん(52)は、「夫の退職金で返済するとかなりの額がなくなります。老後をどうしたらよいでしょうか」と相談に来ました。Wさん家族は会社員の夫(56)と、社会人の長男(25)、大学4年生の次男(22)の4人暮らしです。 Wさんご夫婦は、夫の収入で貯蓄を作り、マイホームや長男の大学進学の費用をまかなってきました。高校授業料無償化などの制度が十分ではなかった時代でも、何とか必要な支出を工面しながら生活してきたのです。 

 

 しかし、次男が大学に入学する頃には、住宅ローンと長男の学費の支払いに追われ、次男の学費を十分に用意できない状況に。やむなく次男には奨学金を利用してもらうことにしました。卒業までの4年間で240万円を借りる予定です。長男は貯蓄で、次男は奨学金で大学に通うという不公平な状況を避けたいと考えたWさんご夫婦は、奨学金の返済を親が肩代わりすると約束しました。 

 

 何とかやってきたつもりでしたが、実は長男が大学に入学する前から、月の支出が収入を上回る赤字家計が常態化していました。不足分は夫のボーナスや貯蓄で補塡(ほてん)していましたが、この生活を続けるうちに、次男の大学卒業を目前にして、貯蓄と呼べるものはほとんどなくなってしまったのです。 

 

 夫はあと4年で定年退職し、60歳で約1800万円の退職金を受け取り、その後は再雇用で働く予定です。しかし、現状では住宅ローンの残債が約800万円あり、1年後には次男の奨学金240万円の返済も始まります。再雇用でしっかり稼ぎ、家計を改善して黒字化しなければ、退職金が目減りしていくことは十分予想できます。 

 

● 退職金だけでは、老後資金も、親の介護にかかるお金も足りない? 

 

 さらに、もう一つの不安もあります。隣に住む夫の両親の介護です。体力や手間の面での協力だけでなく、将来的には生活費や介護費の金銭的な援助も必要になる可能性が高いのです。Wさんは、約1800万円の退職金は自分たちの老後資金として期待できないのではないかと、不安を募らせました。 

 

 お金の不安を軽減するには、まず家計の黒字化が必須です。そして、もっとも手っ取り早いのは支出を減らすこと。Wさんの夫は定年が目前に迫り、妻が働きに出るなど新たな収入源を確保しない限り、収入増が見込めない年代です。黒字化を目指すには、奨学金の返済を次男に任せることも選択肢の一つになるはずですが、Wさんはそれを受け入れません。子どもとの会話もすべきでしょう。 

 

 

 次男は自身が返済する可能性を考え、大学が斡旋する給付型奨学金の利用を申し出ていました。しかし、Wさんは、卒業後の就職先に制限がかかると将来の選択肢が狭まるという理由で申請を許可せず、JASSO(日本学生支援機構)の第二種奨学金のみを利用させました。このような経緯もあり、親が返済するという約束を覆すことはできないと考えているのです。 

 

 返済額は月に約1万4000円。これが15年ほど続きます。教育費の負担は減ったように見えますが、毎月の支出が1万4000円増えるのは、年金生活に入ると大きな負担ともいえるでしょう。 

 

● Wさん夫妻が今やるべきことは? 

 

 今は、親の介護問題をいったん置いておき、まずは家計を黒字化すること、そして働けるうちに少しでも老後資金を蓄えることが先決です。そのためには支出をしっかり見直し、できればWさん自身も働きに出ることを検討する必要があります。少額でも投資を始められれば、少しは将来の展望が開けるかもしれません。 しかし、支出について、Wさんは奨学金の返済は前述の通りですし、それ以外の支出も「減らすと〇〇が困るから」と、なかなか削減できる部分が見つかりません。さらに、自分が働きに出ると、夫や子どもが帰宅したときに困るからと、八方ふさがりな状況に陥っています。 

 教育費が落ち着いても家計の黒字化は困難で、不安は増す一方です。「子どものため」と思ってやってきたことかもしれませんが、支出の上限を冷静に判断できず、家計改善を先送りしてしまったのです。 

 

 親の気持ちもわかりますが、子のためにも、まずは親が生活基盤を強くすることが大事ではないでしょうか? 

 

 教育費と老後資金は、常に「綱引き」の関係にあると私は考えています。どちらか一方に力を入れすぎると、もう一方がおろそかになってしまいます。教育費は親が負担すべきものだと考えられがちですが、今は逆に「親が全額負担しなくてもよい」時代でもあります。必要な資金をてんびんにかけ、それぞれのバランスが保てるような着地点を見つけるために、お金の使い方を工夫する必要がある家庭は多いのではないでしょうか。 

 

横山光昭 

 

 

 
 

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