( 323228 )  2025/09/10 05:45:56  
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WBCで日本のキー局が抱えるジレンマとは(写真/AFP=時事) 

 

 9回表、大谷翔平が米国代表の主砲・トラウトから空振り三振を奪い、喜びを爆発──そんな感動的なシーンは地上波テレビで観られなくなる。2026年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は、米動画配信大手ネットフリックス(Netflix)が全47試合の放映権を獲得、独占放送すると発表された。視聴には月額890~2290円の有料会員登録が必要だ。 

 

 WBC日本ラウンドの運営・興行を担うのは読売新聞社だが、「WBCインク(WBCI=米MLBと同選手会からなる大会組織)が当社を通さず直接ネットフリックスに日本国内での放送・配信権を付与した」と声明を発表し、“蚊帳の外”であったことが明らかに。 

 

 前回大会を放送したTBSは「国民的関心の高いスポーツイベントを無料の地上波放送で中継することの意義や視聴者の期待は非常に大きいと考えている」(広報室)、テレビ朝日も「第1回大会から地上波放送に携わってきたが、今大会は地上波での独占放送権の獲得に至らなかった」(広報部)と悔しさを滲ませた。 

 

 明らかになったのは圧倒的な資金力の差だ。東大卒で元ロッテ投手の小林至・桜美林大教授(スポーツ経営学)が語る。 

 

「前回大会の放映権料は約30億円とされるなか、今回は150億~200億円と見られています。日本のテレビ局にそんな体力はありません。世界の配信大手と規模の差が拡大しており、民放全局とNHKの放送収入が合わせて約2.4兆円なのに対し、ネトフリは1社で6兆円です」 

 

 ただ、スポーツ中継の高騰は今に始まったことではない。 

 

「ボクシング世界戦はネット配信ばかりになり、日本でも女子プロゴルフなどはその潮流に乗って協会が自ら運営している。ネトフリは会員が100万人増えれば年100億円超の増収が見込める。5000万人以上が観る可能性のあるコンテンツを30億で売れないのは当然。日本のテレビ局がこれまで新規参入を阻む放送法の下、国際競争に晒されてこなかったことで、世界で当たり前になったコンテンツを“高く買って高く売る”ことから目を背けた結果です」(同前) 

 

 ネトフリですらスポーツ中継は“後発”で、昨年参入してNFL2試合の放映権を220億円で獲得し、プロレス団体WWEの独占放映権を10年7500億円で購入した。今回の動きの背景には、欧州での野球人気の高まりを指摘する声もある。 

 

「2023年大会はイギリス代表が初出場で勝利を挙げ、イタリア代表はベスト8進出。野球ファンが増え、MLBも欧州市場の開拓に力を入れている」(テレビ局関係者) 

 

 一方の日本のキー局が世界レベルの戦略を描けていないのは明らかだ。2026年のWBC大会期間中、「報道の範囲内」であればハイライト映像が使用できるというが、その範囲に基準はあるのか。読売新聞はこう回答した。 

 

「前回大会では試合終了後36時間以内において『スポーツ報道』を目的とするレギュラーのニュース番組、スポーツニュース番組および生放送の情報番組で『1試合について2分以内、1番組合計5分以内』の使用が可能などの規定がありました。2026年大会については、まだ決まっていません」(グループ本社広報部) 

 

 仮に報じられたとして、テレビ局にはジレンマた。 

 

「大会が盛り上がるほど“ライバル”に顧客が流れていく。来年は転換期になるでしょう」(小林氏) 

 

※週刊ポスト2025年9月19・26日号 

 

 

 
 

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