( 323508 ) 2025/09/11 06:20:25 0 00 漫画を読むだけではなく多様な用途で使われている(写真:藤村憲司/アフロ)
漫画喫茶は1970年代に、喫茶店の新たな一業態として始まったと言われる。その後、90年代にはインターネットカフェが登場し、漫画喫茶と融合した「複合カフェ」が登場した。複合カフェは2008年に3000店舗を超え、市場規模は2,450億円となったが、スマホの普及と共に市場規模は縮小し、コロナ禍前の段階で1,500億円を下回った。こうした状況で台頭したのが「快活CLUB」だ。快活CLUBは2003年に1号店を構え、12年に200店舗を、22年3月期に500店舗を突破した。23年3月期には競合の「自遊空間」を傘下に収めている。ネットカフェ衰退期になぜ成長できたのか、快活CLUBの強みを探っていく。
快活CLUBは漫画やパソコンを置いた複合カフェだ。料金や部屋の形態は店舗によるが、レストラン形式のオープンシートや、ブースごとに仕分けされたシート、個室などがある。複数人用の部屋やカラオケ・ダーツ・ビリヤードなどの設備を構える店舗もある。料金は時間制だ。たとえば、新宿東口店の平日利用の場合、「鍵付完全個室」は3時間パックで1,680円、24時間パックで7,020円である(入会金は別途)。
ソフトドリンクが飲み放題であるほか、一部店舗では有料でシャワーやコインランドリーを利用できる。約500店舗中、首都圏の1都3県にあるのは3割にあたる160店舗。北海道から沖縄まで展開し、地方ではロードサイドに店舗を構える。
スパコロ社が実施したアンケートによると、快活CLUBの利用目的は「漫画・雑誌を読みたいとき」が42%と最も多く、26%の仮眠用途、25%のインターネット利用が続く。昨今ではインバウンドの増加で東京・大阪のホテル価格が高騰しており、平日でも1万円以下では泊まれない状況だ。そのため、快活CLUBをホテル代わりに使う客もいる。
業界が衰退した理由は冒頭の通り、スマホの普及が関係していると筆者は考えている。2008年にiPhoneが日本で発売されて以降、スマホの普及率は急激に伸びた。10年代からはHuluやNetflixなどの動画配信サービスが日本に進出。家にパソコンがない人でも動画や漫画をスマホで視聴できるようになり、複合カフェに行く必要がなくなった。
加えて、複合カフェの中にはサービスの質を維持しきれない事業者も多かった点も関係しているだろう。たとえば、大規模チェーンであれば、店内の設備や取り扱う漫画などの更新・改善にお金をかけることができる一方、この設備・漫画在庫の更新費用は小規模事業者には大きな負担となる。設備更新などを含め、サービスの質の維持に苦戦する企業も多い業態と言えるのだ。
漫画・ネット・ソフトドリンクなどの設備は、複合カフェでも導入しており特別な設備ではない。業界が苦戦する中でなぜ、快活CLUBが成長できたのか。それは、ひとえに「店を清潔に保つ」「漫画の最新作をそろえる」といった”当たり前”のことを徹底的に実践しているためだ。
快活CLUBは全店直営で、安売りには走らず他社より高めの価格設定とした。「清潔感と安心感を大切にする」を掲げ、ロビーや共用部はほかの複合カフェよりも明るく、店員はビジネスホテルのフロントのような服装を着用している。清掃も行き届いており、清潔感を評価する意見も多い。セキュリティを心配する利用者を取り込むため、鍵付き完全個室の導入も進めた。
また、各店舗に置いている漫画をサイトで確認することもでき、新刊の入荷状況も公開している。パソコンは長く使う事業者で8年ごとの入れ替えだが、快活CLUBでは5~6年としており、コロナ禍では約8000台のPCを一気に入れ替えた。市場が停滞する中で、清潔感や設備に優れる快活CLUBに利用者が流れたと考えられる。
多店舗を直営で管理し、質を維持するのは簡単なことではない。快活CLUBがこうしたことを実践できるのは運営元が大手だからだ。快活CLUBを運営する快活フロンティアは、紳士服大手AOKIホールディングス(HD)の完全子会社である。
バブル以降、1世帯当たりのスーツ購入額が低下し続ける中、AOKIは98年からカラオケ事業や結婚式場事業を始め、多角化を進めてきた。2003年に始めた快活CLUBは急成長し、同事業を含むエンターテイメント事業の売上高は祖業のファッション事業に匹敵する規模となった。
エンターテイメント事業では2019年に24時間営業のセルフフィットネスジム「FiT24」を開店した。FiT24は現在、全国で約110店舗を展開し、快活CLUBとの併設店も見られる。22年には複合カフェ「自遊空間」を運営するランシステムを子会社化した。自遊空間は快活CLUBに次ぐ2位の規模で80店舗を展開しており、子会社化によって業界での寡占化が進んだ。
なお、快活CLUBは近年、都心や駅前など好立地への出店を強化しつつも不採算店の閉店を進めている。サービス面ではコスト削減のためトーストとポテトが食べ放題のモーニングを廃止し、シャワーも有料化した。
だが、強力なライバルがいないため、サービスの縮小は客離れにつながる可能性は低い。現にエンターテイメント事業の収益は改善している。ファッション事業の売上高は1,000億円で停滞しており、将来的にAOKIの主力事業は紳士服からエンターテイメントに変わるかもしれない。
執筆:山口 伸
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