( 323583 )  2025/09/11 07:39:59  
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秋季広島県大会地区予選の初戦、ベンチから試合を見つめる部員ら。スタンドでは保護者らが見守った=8月30日午後、広島市安佐南区の広陵高(斉藤友也撮影) 

 

野球部内の暴力が発端となり、広陵高(広島市)が全国高校野球選手権大会を史上初めて途中辞退して10日で1カ月がたった。指導体制が変わり、1、2年生の新チームで再出発したが、渦中の中井哲之前監督(63)は理事兼副校長として学内にとどまる。辞退以降も一連の問題はSNS上で蒸し返され、非難や誹謗(ひぼう)中傷が収束する気配は見えない。同校関係者は「対応にも限界がある」と漏らす。 

 

■志願者動向に懸念 

 

新チームが秋季広島県大会地区予選の初戦に臨み、勝利を収めた8月30日。2学期の始業式が行われ、堀正和校長が在校生らに一連の問題について説明した。同校関係者によれば「一般生から特段の反応はなかった」という。 

 

もっとも、同校を取り巻く現状は厳しい。同校は中傷が続く中で来校者らの安全を担保できないと判断し、9月上旬に実施予定だったオープンスクールをとりやめた。 

 

懸念されるのは入学志願者の動向だという。5月1日現在の全校生徒数は1457人。「野球部員でない生徒が9割を占める」(浅田哲雄事務局長)が、甲子園の常連校として知られる同校だけに、野球部の不祥事は「広陵」全体のイメージダウンにつながり得る。 

 

志願者が減少すれば、学校経営にも支障をきたす。「影響がどれだけあるか、図りかねる点がある」。法人理事も務める浅田氏には、今回の問題はSNSで先行して拡散した情報に同校も翻弄されたとの思いが強い。 

 

■SNSで非難激化 

 

出場辞退の発端は今年1月22日のできごと。同校の説明によると、部員が暮らす寮で1年生(当時)の被害生徒がルールを破ってカップ麺を食べ、2年生(同)4人がそれぞれ被害生徒の部屋を訪問した上で胸をたたく、頰をたたく、胸ぐらをつかむなどの行為に及んだ。 

 

事案を把握した同校は広島県高野連へ報告。3月上旬、日本高野連から「厳重注意」を受けた。だが、学生野球憲章に基づく基準に従い発表されなかった。被害生徒は3月末、転校したという。 

 

7月下旬以降、同校が県大会を勝ち進む中で、SNSで被害生徒の保護者を名乗る人物からの告発が広がった。《10人以上に囲まれ、合計100発をも超える集団暴行》などと同校の報告とは異なる被害を訴え、広島県警に被害届が受理されたとも明かした。 

 

 

告発は中井氏が事実の隠蔽を図ったとし、厳重注意にとどまった措置にも不満がにじむ。被害生徒が泣き寝入りを強いられたと受け止められ、同情を集めた。 

 

全国大会の組み合わせ抽選会、開会式…。日を追うごとに同校への非難がSNSで激化した。 

 

初戦を突破した8月7日には、令和5年に中井氏や一部部員らから暴力を振るわれたと訴える別の元部員による投稿も拡散。同校は同日、事実は確認できなかったと釈明に追われたが、SNSの騒ぎは収まらなかった。 

 

ついに同10日、堀氏は出場辞退を表明。SNSでの無関係の生徒らへの攻撃を辞退理由の一つに挙げたが、「責任転嫁だ」などと暴力事案に向き合う姿勢も問われる事態を招いた。 

 

■退任発表後も中傷 

 

2つの事案への関与などについては判然としないものの、結局、同校は同21日、中井氏の退任を発表した。野球部への中傷がやまず、「このままでは持たない」との判断も働いた。 

 

内部昇格で後任に就いたのは松本健吾氏(34)だが、コーチ出身でかつて中井氏の薫陶を受けた。目前に迫っていた秋季地区予選への出場を考慮すれば、外部招聘(しょうへい)の余地はなかった。SNSでは、「中井氏の子飼い」など厳しい意見が目立った。 

 

同校によると、退任した中井氏の長男で、前部長の惇一氏(30)は指導にこそ携わっていないが、熱中症に対するケアなど部員の見守りには付き添っているという。 

 

1月の暴力事案では、第三者委員会の設置が決まり、5年の事案でも別の第三者委による調査が進む。5年の事案で被害を訴える元部員は在校生で、同校は遅くとも年内には結論を得たい考えだ。 

 

第三者委による調査結果を公表した段階で再びSNS上での非難や中傷が激化する恐れもある。進捗(しんちょく)次第では、推薦入試の時期とも重なる。学校関係者は「志願者が定員を下回る事態も想定しないといけない」と悲壮感を漂わせる。 

 

今回、SNSでは、客観的な事実が明らかになる前に加害者として部員の実名や顔写真がさらされた。半永久的に残るデジタルタトゥーだが、同校は「個人間の問題」とし、学校としての対応は難しい面があるとの認識という。(矢田幸己) 

 

 

 
 

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