( 323748 ) 2025/09/12 05:37:56 0 00 (※写真はイメージです/PIXTA)
物価高騰と、伸び悩む賃金。そんな時代にあって、「節約」は多くの人にとって生活を守るための必須スキルとなっています。しかし、そのあまりの切実さから、いつしか節約が“目的”となり、度を越した行動に走ってしまう人がいるようで……。本記事では社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が、Aさんの事例とともに行き過ぎた節約術に潜む、思わぬ落とし穴について解説します。※個人の特定を避けるため、事例の一部を改変しています。
総務省が公表した「2024年(令和6年)平均消費者物価指数の動向」によると、2020年を100とした2024年の平均総合指数は108.5。前年比2.7%の上昇となりました。日本の消費者物価指数はこの3年間で急激に上昇しており、長期のデフレから、インフレに転換したことがわかるでしょう。
一方、厚生労働省の「毎月勤労統計調査 令和6年分結果速報」では、実質賃金が2024年は-0.2%、2023年は-2.5%、2022年は-1.0%と、減少が続いています。物価の上昇に賃金の伸びが追いついていないのが現状です。
こうした状況下で、物価高への対策として多くの人が「節約」を実践しており、インターネットではさまざまな節約術が紹介されています。都心で暮らす43歳の会社員女性、Aさんも、節約に力を入れている一人です。
Aさんは大学入学を機に、地方の田舎から都心での暮らしを始めました。
学生時代はバブル景気の真っ只中でしたが、学費を親に頼っていたため、生活費は奨学金とアルバイトで賄う日々。サークル活動や飲み会で楽しむ同級生たちを横目に、取り残されたような思いを抱え、憧れの都会生活と現実とのギャップに悩むこともありました。
「就職したら、自分の給料で都会生活を楽しもう」
そう目標を切り替えて就職活動に励もうとした矢先、今度はバブルが崩壊。想定外の就職氷河期に突入します。「こんなはずではなかった……」と思いつつ、50社以上を訪問し、なんとか中小メーカーの一般事務職から一社の内定を得ることができました。
しかし、Aさんの年収は約280万円。景気の低迷で賃金は上がらず、奨学金の返済にも追われ、貯蓄もままなりません。Aさんは消費を減らすため、さらに節約に力を入れます。家賃5万円の古いアパートに住み、水道光熱費は極力使わない。食費は夕方の割引シールが貼られる時間を狙い、野菜は100円以内のものだけ。特に、季節に左右されないもやしは定番で、豆苗は3回ほど育てながら食べているといいます。
先日、Aさんは親しくしている同僚のBさんに誘われ、たまにはプチ贅沢をしようと外食に出かけました。食事のあと、「せっかくだからもう1杯」という話になります。内心「2軒目はちょっとな……」と思ったAさんは、外食先が自宅近くだったこともあり、自宅での飲み直しを提案します。
Aさんの自宅を初めて訪れるBさん。節約を徹底していると話す友人が、一体どんな暮らしをしているのか、少し楽しみでもありました。古いアパートでしたが、部屋の中は整頓され、物が少ない印象です。窓際には手作りプランターでプチトマトなどが育てられており、「さすが節約の王道だね」と話していたBさん。壁際に水の入ったペットボトルが数本並んでいるのが、少し気になりました。
「トイレ、使わせてほしい」とBさんが告げると、Aさんから驚きの言葉が返ってきます。
「あ、トイレは、そのペットボトルの水で流してね」
「災害でもないのに、故障? 大変だね」とBさんが尋ねると、Aさんは悪びれもなく答えました。水道代がもったいないから、普段は近くの公衆トイレを使い、夜など行かれないときのために、公園などで汲んできた水をペットボトルに貯めている、と。トイレの水だけでなく、プランターの水やりにも使っているそうです。
さすがに、やりすぎではないか……。Bさんは、開いた口が塞がらないほどの節約術に、ただただ驚くしかありませんでした。
後日、BさんはAさんに「その方法は節約術というより、窃盗罪になる可能性があるから控えたほうがいい」と助言しました。「窃盗罪」と聞いて驚いたAさんは、新たな節約術を考えることにしたといいます。
さまざまな節約術がありますが、「節約」とは、あくまでムダを省いて消費を切り詰めることです。しかし、公共施設の水道から水を無断で持ち去る行為は、節約とは呼べません。公園や公衆トイレの水道は、自治体などが公共の利用のために管理しているものです。目的外の利用は、犯罪になる可能性も十分にあります。
節約に励むことは大切ですが、法律に抵触するようなことがないよう、正しい知識を持って実践しましょう。
〈参考〉
総務省:2024年(令和6年)平均消費者物価指数の動向 https://www.stat.go.jp/data/cpi/sokuhou/tsuki/pdf/zenkoku.pdf
厚生労働省:毎月勤労統計調査 令和6年分結果速報 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/monthly/r06/24cp/dl/pdf24cp.pdf
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
代表
|
![]() |