( 323858 )  2025/09/12 07:24:39  
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被害を訴える男性のまぶたは腫れ上がった=2025年5月 

 

 先月、トクリュウグループへの家宅捜索の中で、捜査4課の警察官2人が捜査対象者に暴行を加えたとして逮捕・起訴され、大きな注目を浴びることとなった大阪府警の捜査。 

 

 ABCテレビの取材で、大阪府警捜査4課などが行ったとされる別事件の家宅捜索で、またもや「暴行疑惑」が浮上したことがわかりました。 

 

 しかも被害を訴える男性は「自分は捜査対象者でもなく、事件と無関係だった」と言います。”疑惑”は刑事告訴される事態に発展。被害男性の独自証言です。 

 

取材に対して当日の出来事を振り返る男性 

 

 腫れあがった右目のまぶた。左の耳にも耳たぶの一部が裂けるなどのけが。 

 

 これは今年5月1日、大阪府内の病院で撮影された、男性会社員Aさん(36)の写真です。この日朝、Aさんは自宅の社員寮で思いもよらぬ「暴行被害」を受けたと話します。何と相手は「何人もの警察官」。Aさんが当日の出来事を振り返ります。 

 

 「僕の家は勤務先の会社の寮になるんですが、5月1日は休みで、自分は風呂に入っていました。そうしたら1階の玄関の方からガンガンという激し目のノックの音が聞こえたんです。モニターの所に行くと複数の警察官が立っていました。対応しに出て行ったら急に警察の方が押し込みみたいな感じで入ってきて、言葉を発する間もなく胸ぐらをつかまれて…」 

 

 Aさんは後に、「警察官が家宅捜索に来た」ということを認識しますが、この時点では家宅捜索令状は示されなかったということです。「何でこんなことをされないといけないか分からなかった」 

 

 なだれ込んできたという警察官らはさらにー。 

 

Aさんはひざ蹴りをされたという 

 

 「制圧された後、特定の人物の名前をあげて『〇〇を知らんか』『〇〇どこおんねん』みたいな。本当に知らないので、『知りません』と言っても『連絡取ってるんちゃうんか!』と」 

 

 「この時点で僕は首根っこをつかまれていたので、振り払おうと暴れたら『おとなしくせえや!』と一人の警察官から言われて、抵抗できないほどの力で階段付近の壁に押しつけられ、僕はそのまま押し倒される形で尻もちをついたんです」 

 

 その時に問題の暴行があったとAさん側は主張します。 

 

 「僕の右斜め前あたりにいた警察官が、右の眉あたりを目がけて3回くらいひざ蹴りを入れてきたんです。その少し後くらいのタイミングでは別の警察官が顔を1、2回殴ってきて、唇が切れて出血もしました」 

 

 Aさんの体感では、ここまでで20分ほどが経っていたということです。 

 

 「ようやく指揮官みたいな人が『こういう理由で家宅捜索するから』と、そこで初めて紙を見せられました。令状を説明した時にやっと押さえられていたのが解放されました」 

 

 Aさんの説明では、警察が家に入ってきてから令状を提示されるまで約20分かかっていたことになります。 

 

 

警察官による暴行の経緯 

 

 その後は落ち着いた状況の中で家宅捜索が行われたということです。そこにAさんの会社の代表が遅れてやってきました。代表は「Aさんが殴られた」と知って警察官に「(Aさんは)従業員で関係がないのに何で殴ったんや?」と詰問すると、一部の警察官から「被疑者だと思った」「出てくるのが遅かったから」などという答えが上がったということです。 

 

 男性側は、暴行を加えたのは捜査4課に所属する警察官らだったと主張しています。 

 捜査4課は、暴力団や半グレなどの組織犯罪の捜査を専門とする警察内の組織です。 

 

男性の診断書には「左耳介一部欠損」「右眼窩縁打撲傷」とある 

 

 Aさんの代理人・高世羅弁護士によると、大阪府警は監禁事件の捜査の中で今回の家宅捜索を行ったということです。しかしこの事件の容疑者と、Aさんには直接的なつながりがなく、「事件とは全くの無関係だった」(高弁護士)。事実、Aさんは事件の取り調べもましてや逮捕もされていません。 

 

 高弁護士は9月10日、氏名不詳の複数の警察官による問題の行為は「特別公務員暴行陵虐罪」や「傷害罪」にあたるとして、大阪府警に刑事告訴。府警が受理したため、今後捜査が進められることとなります。 

 

 ABCテレビの取材に大阪府警は応じていません。 

 

Aさんは耳も負傷 

 

 高弁護士は「捜査機関には、悪いことをした人間には多少の暴力を振るってもかまわないという考えがあるのではないか」と指摘。「市民の安全を守る立場である警察官が、市民の安全を脅かすことになれば、市民は何を信じたらいいか分からない。刑事訴訟法が規定する通り、どんな人間に対しても適正な手続きをもって処罰をしなければならない」と話します。 

 

 Aさんは今も当時のことを思い出すと、怒りが収まらないと打ち明けます。「自分は全く関係ないのに、何でこんな仕打ちをされないといけないのか。理不尽だし、怒りしかありません」。耳の傷は、警察官らに壁に押さえつけられた際に、ピアスごと耳たぶが引っ張られて裂けてできたと考えられます。「周りからもなぜそんな裂け方をしているのかと聞かれるたびに、嫌な思いがよみがえります」。 

 

 「俺は絶対許さないですよ、許せるわけがない」 

 

 

刑事訴訟法に詳しい近畿大学法学部・辻本典央教授 

 

 捜索差押許可状は警察官らが建物内に入る前に、事前に呈示するというのが大原則になります。例外的に、時間をかけていると証拠隠滅がなされる場合があるなどといった場合は、呈示せずにまず立ち入って現場を制圧するというところまでは過去の判例などからして許されるでしょう。この際、相手方からの抵抗がある場合は必要最小限度の範囲において、警察官が相手の行動を抑止・制圧する行為も許される場合はあります。 

 

 しかし今回、仮に男性(Aさん)の主張の通り、「令状呈示まで20分」ということが事実であれば、これは許容範囲を超えている印象を持ちます。さらにこの20分の間に、素手の男性に対して断続的に複数の警察官が殴ったり蹴ったりという行為があったのであれば、これは制圧行為の限度を超えた違法なものと考えます。 

 

 こうした場合、警察がもともと捜査していた事件そのものの刑事裁判においても、「違法行為がなければ、本件証拠が得られなかったはずだ」ということで証拠能力を否定する主張が被告側からなされるなどして、公判への影響が出る可能性もあります。 

 

 

 
 

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