( 324293 )  2025/09/14 06:04:29  
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Photo:PIXTA 

 

 JALもANAも公的支援がなければ「国内線は実質、赤字」というショッキングな経営状況が浮き彫りになった。なぜ、このような事態に陥ったのか? JALでは国内線にも燃料サーチャージの導入を、ANAではビジネス系運賃の値上げなどが検討に挙がっているというが、ただでさえ物価高で苦しむ日本人の状況を考えると、値上げはそう簡単にはできないだろう。有効な対策はあるのだろうか?(ライター 前林広樹) 

 

● ショック!JALもANAも 「公的支援がなければ国内線は赤字」 

 

 「国内航空のあり方に関する有識者会議」(国土交通省、5月実施)にてJAL・ANAが提出した資料が物議を醸している。「2024年の国内線の売り上げは、着陸料などの空港使用料や航空燃料税の減免、燃料油激変緩和措置といった国・自治体からの支援がなければ、JAL・ANAとも実質赤字になる」といった内容が報告がされたのだ。 

 

 しかもANAの国内線に至っては「58%が赤字路線」という衝撃的な数値まで掲載されている。羽田〜札幌・大阪・福岡・那覇といった世界有数の乗客数を誇る路線でさえ、その利益はコロナ禍前に比べて低下傾向にあることも報告された。 

 

 これまで航空業界の常識では、「ドル箱路線」ともいわれる国内主要路線で、儲けの出にくい地方路線を支えてきた。また、国内線の安定した収益が、浮き沈みの激しい国際線をカバーしてきた。そうした常識が通用しなくなったことを浮き彫りにするJAL・ANAの報告は、衝撃的だ。なぜ、このような事態に陥ったのか。 

 

● 円安で外貨建てコストが増大 出張・ビジネス用途客が減少 

 

 まず、20年代から続く円安により、燃料や航空機、航空機部品など外貨建ての調達コストがJAL・ANAとも増大している。JALが提出した資料によると、18年期に対する燃料費は134%、機材費は138%、海外企業に委託する整備費は170%と大幅に上昇していることが分かる。 

 

 コロナ禍後に航空需要が急回復したこと、米ボーイング社の不祥事も相まって新たな航空機の調達コストは増大している。JALは仏エアバスA350、ANAはボーイングB777XやエンブラエルE190などの新機材への更新が、業績に負担となっている。 

 

 何より、コロナ禍以降の社会情勢の変化は、コスト面だけでなく売り上げ面でも大きなマイナス影響を及ぼしている。それは、出張・ビジネス用途の利用が減ったことだ。 

 

 週末や長期休暇シーズンに集中する観光用途に比べて、ビジネス用途は平日利用が中心で、しかも速達性を重視するため高単価でも搭乗する、航空会社にとってはありがたい上客だった。しかし、リモートワークやオンライン会議の普及で出張需要は減少しているのが実態だ。この影響をもろに受け、1便ごとの収益性が悪化する原因となっている。 

 

 

● 永遠のライバル新幹線に 正直、負け気味なJALとANA 

 

 続いて大きいのは、新幹線との競合だ。新幹線と航空機のライバル関係は、高度成長期から何十年も続いているので今更珍しいことでもない。しかし、2010年代以降に進んだ新幹線の延伸は、確実に航空機のドル箱路線に影響を及ぼしている。 

 

 例えば、北陸新幹線開業前の羽田〜小松線は約320kmという短距離にもかかわらず、時間帯によってはボーイング747や777といった大型機を投入するほどの高需要路線だった。しかし、15年に北陸新幹線が金沢まで延伸すると状況は一転。小松空港が金沢市街地から離れていることもあり、東京〜金沢間の輸送シェアにおける航空の割合は、開業前の64%(14年)から25%(18年)へ落ちてしまった。 

 

 北陸新幹線が敦賀まで延伸した24年には、航空路が何とか優位性を維持してきた石川県西部、福井県〜東京の輸送需要も新幹線優位となる。羽田〜小松線の収益は一気に低下。ANAはかつて1日6便あった同路線を、16年に1日4便に、そして今年10月26日から1日2便へ減便せざるを得なくなった。 

 

 他にも、東海道・山陽新幹線「のぞみ」の本数増加や、九州新幹線の鹿児島ルート全通なども、東京〜広島、大阪〜熊本といった都市間の航空シェア低下に大きな影響を与えている。 

 

 今後も北海道新幹線の札幌延伸や、リニア中央新幹線開業などを控えている。航空側に更なる苦境が待ち構えているのだ。 

 

● インバウンドが飛行機よりも 新幹線を選びたがる意外な理由 

 

 ここで、航空側は急増する訪日観光客(インバウンド)の取り込みでリードしているはずだと思う人もいるかもしれない。しかし実際は、真逆である。日本観光のメインルートは東京〜京都〜大阪であり、この黄金ルートでシェアを取るのは新幹線なのだ。 

 

 しかも、外国人からすると新幹線という存在が物珍しく、非常に人気がある。新幹線に乗ること自体が日本でしかできない体験であり、飛行機で移動するのは何だか味気ないと思う外国人観光客もいるようだ。 

 

 瀬戸内や富士山、飛騨高山、北陸など黄金ルート以外の人気観光地に行くのも、主力は鉄道やバスなどの陸上交通で、航空は劣勢だ。 

 

 一方、九州や沖縄、北海道もインバウンドに人気で、東京や大阪から出向くには航空が適している。しかし、この3地域に向かうのはアジア圏の訪日客が多く、国際線の直行便がある。その直行便はほとんどが海外エアライン(LCCが多い)で、JAL・ANAはこの層を取り込めていない。例として、韓国路線の日本側のシェアは7%という少なさだ。 台湾路線に至っては日台のエアラインでは供給が足りず、東南アジアや米国、香港のエアラインが経由便で参入している。 

 

 JAL・ANAとも飛行機の仕様が国際線と国内線では異なるため、国内線の機材をそのまま国際線に転用するのが難しい。また、長距離国際線のネットワークも東京〜北米線以外は、韓国勢や中国勢と比べると乏しい印象だ。それゆえ地方発の国際線を開設しにくく、地方発着のインバウンド需要を逃していて、さらに国内線への乗り継ぎ需要も取りこぼしている。 

 

 

● 国内線にも燃料サーチャージ導入!? 値上げ以外の対策はないのか? 

 

 さて、ひととおり原因を分析したが、有効な対策はあるのだろうか? 国内線が実質赤字という由々しき事態に対して、JALでは国内線にも燃料サーチャージの導入などが、ANAではビジネス系運賃の引き上げなどが検討に挙がっているという。要するに、値上げである。 

 

 しかし、ただでさえ物価高で旅行離れが進む日本人の状況を考えると、値上げはそう簡単にはできないだろう。何より、値上げすれば新幹線に客をいっそう取られてしまう可能性が高い。 

 

 一方、筆者が思うに、最近増えているウェブ限定の国内線タイムセールは見直す余地があるのではなかろうか。あまりに“大安売り”してしまうと、JALもANAも傘下にLCCがあり、その収益を圧迫することにつながる。また、タイムセールでウェブサイトに購入希望客が集中することでシステムトラブルも発生するなど、ブランド毀損にもつながる事態が起きているからだ。 

 

 コスト削減策としては、空港内での手荷物詰め込みなどのグランドハンドリング業務をJAL・ANA両者で共同化するなどが進んでいる。 

 

 運休した路線を他社に委託する動きも見られる。近年、JALはフジドリームエアラインズ(FDA)と、ANAはIBEXエアラインズなどとコードシェアを行うことで路線を維持している。例えば、今冬ダイヤで運休するJALの福岡〜花巻・仙台線、ANAの中部〜松山線は、この施策が行われる予定だ。 

 

 あるいは、JAL・ANAが運航を継続する路線でも、機材の小型化に取り組んでいる。ANAが次世代の国内線機材に、従来よりもはるかに小さいエンブラエルE190-E2を発注したのも、その一環と言えるだろう。 

 

 訪日客の国内線取り込み策としては、JALでは国際線利用の訪日客を対象に、国内線を無料で利用できるサービスを始めている。無償なので売り上げにはつながらないが、搭乗率は上がり収益改善となるため、路線維持にはつながる施策といえる。 

 

 地方発着の国際線網の充実は、例えば26年2月にJTA日本トランスオーシャン航空の那覇〜台北線が開設予定だ。 

 

 島国かつ南北に長い日本では、航空網の維持はビジネス・観光・物流に不可欠なものだ。自然災害も多発しているので、陸上交通がまひした場合は航空に頼ることも多い。だからこそJAL・ANAには訪日客の取り込みなど需要が伸びる分野への投資を欠かさずに、競争力を高めてほしいと願う。 

 

 創意工夫して競争力を高めれば、運賃の値上げや国内線燃料サーチャージなど、利用客への負担増を避けられるはずだ。 

 

前林広樹 

 

 

 
 

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