( 324298 ) 2025/09/14 06:10:56 0 00 (※写真はイメージです/PIXTA)
現役時代は高収入で羽振りも良く、定年後も充分な資産と年金があれば老後の生活に困ることはないと考える人もいます。しかし、お金の使い方によっては資産がみるみる減ってしまう可能性も否定できません。今回はトータルマネーコンサルタント・CFPの新井智美氏が、定年退職後も現役時代の感覚のまま生活することの危険性と、そのような状態に陥らないための対策について解説します
小松隆二さん(仮名・75歳)は大企業で部長職までのぼり詰め、10年前に定年退職。3歳年下の妻と2人で暮らしています。退職金は4,000万円。自分で貯めた資産2,000万円と合わせると6,000万円と、65歳の時には豊富な資金を持っていました。
さらに、企業年金を含めた夫婦の年金収入は月35万円と生活費をまかなうには十分で、老後の暮らしに一切不安はありませんでした。40代のときに購入したマンションの住宅ローンをすでに完済していたことも、安心材料のひとつです。
そんな隆二さんはお酒が大好き。現役時代から部下と一緒によく飲みに出掛けていました。気心の知れた仲間と飲みながら話すことが、隆二さんのストレス解消法だったのでしょう。
退職をしてからも、月に1度は特に仲のいい元部下たちと飲みに行く機会を作り、定年後の会社の様子を聞いたり、昔話に花を咲かせていました。支払いの多くは、年上である隆二さんが買って出ていました。
それ以外にも、部下が定年退職する際には仲間を集めてお祝いしていました。部下に対する感謝やお祝いの気持ちから、そのお金も隆二さんが支払っていたといいます。
また、健康のために好きだったゴルフも続けていました。ゴルフ仲間は隆二さん同様、定年退職したリタイア組。現役時代から付き合いのある人ばかりで、心置きなくコースを回れることが楽しかったようです。
「退職した後は退屈する」というシニアも多い中、隆二さんは現役時代からの顔の広さ、人好きな性格で、仲間たちとの付き合いが途絶えない楽しい老後を送っていました。しかし、その裏で、危機はじわじわ迫っていたのです。
定年から10年たち、75歳になった隆二さん。まだ身体は動くものの、持病のための通院を続けており、その間隔が年齢とともに短くなりました。「そろそろ介護が必要になったときのことを真剣に考えなければならない」と考え、それまでまったく興味を示さなかった通帳の残高を確認したといいます。
そこで、隆二さんは目を疑いました。 定年退職時に6,000万円あったはずの貯金が半分の3,000万円にまで減っていたからです。
「いくらなんでも、こんなに使ってないだろ! どこにいったんだ」
あわてて妻に確認すると、理由は「使っていた」というシンプルなものでした。
理由の1つは隆二さんの交際費。隆二さんは、部下との飲み会や友達とのゴルフなどで毎月10万円以上を使っていました。「せっかくだから」とお高めの料亭で食事をしたり、1軒だけで終わらずにはしごをすることも少なくなかったといいます。
また、「孫費用」もかさんでいました。孫が6人いる隆二さんは、孫の誕生日のお祝いはもちろん、お盆や正月に遊びに来たときにはご馳走を用意したり外食したり。お小遣いやプレゼントも用意していました。
1人にかかるお金は少なくても、6人だとその金額は馬鹿になりません。時には3世代全員で旅行に行くこともあり、その費用も隆二さんがすべて負担していました。妻も「きちんとは計算できていない」と言いますが、10年間で大きな金額になっていたのです。
そのほか、子どもたちのマイホーム資金の援助、隆二さん夫婦が住む家のリフォーム……さまざまな支出が重なり、3,000万円を使い果たしていました。その裏にあったのは、定年退職時にあった十分な資金、そして月35万円という年金に対する過信。そして、現役時代から変えられなかった金銭感覚です。
妻は「まだ3,000万円あるじゃない」といいますが、介護リスクなどを考えた隆二さんは、このままでいいのかと一気に不安になったといいます。
隆二さんは、すぐにファイナンシャルプランナーに相談しました。そして、生活に必要な費用と余剰資金を把握し、余剰資金についてはこの先発生するかもしれない介護費用や医療費を除いた金額だけを計画的に使うことにしたのです。
年金月35万円以外に、今後の生活に必要な資金は約1,000万円。残りの2,000万円は緊急な支出のための資金として取っておくことに。結果、隆二さんが交際費として使えるお金は月2万円程度になりました。隆二さんは受け取る年金額が多いため、医療費の自己負担が2割であり、今後通院などが続くことを考えると医療費の確保も必要だからです。
隆二さんは飲み会に参加する回数を減らし、奢ることをやめました。体力も少しずつ衰え、免許返納を考えていたタイミングだったため、ゴルフもやめることにしたといいます。
元来寂しがり屋な隆二さんは、人と話すのが大好きです。飲み会やゴルフの削減で生きがいを失ってしまうのでは……妻はそう心配しました。ですが、地域のボランティアに参加したり、町内会の活動に参加することで友達を作ることができ、新たな人間関係を楽しんでいるといいます。
隆二さんほど恵まれた退職金や年金をもらう人は少ないかもしれませんが、資産が豊富にある人はいます。問題は、どのように使うかです。隆二さんも、定年時に6,000万円の資産と35万円の年金があったものの、今後の生活や支出を妻ときちんと話し合うべきでした。
老後資金の余裕を知るには、毎月の生活費や平均寿命までの資金を確認し、余剰分だけを無理なく使うことが大切です。見直しは一度きりでなく、ライフイベントに応じて再計算するとよいでしょう。
老後は孤独感に悩まされる人が多く、隆二さんも社会との繋がりがなくなることを恐れて、飲み会やゴルフなどを続けていた側面がありました。しかし、お金がなくても趣味や交流を工夫すれば、充実した生活は可能です。
今後は少子高齢化に拍車がかかり、物価の上昇も続くことが考えられます。それらを意識しながら、老後のお金の使い方を早くから考えておくことが大切だといえるでしょう。
新井智美 トータルマネーコンサルタント CFP®
新井 智美
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