( 324303 )  2025/09/14 06:18:15  
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「天下一品」のFC店舗でゴキブリの混入事案があったと発表されたが、なぜか擁護する声が少なくない(写真:Ryuji/PIXTA) 

 

 ラーメンチェーン「天下一品」のフランチャイズ(FC)店舗で、ゴキブリの混入事案があったと発表された。これまでネットメディア編集者として、SNS周りの炎上を見てきた経験からすると、食品への異物混入、とくに虫に対しては忌避感を覚えるネットユーザーが多い。 

 

 しかしながら、今回の事案に関しては、なぜか擁護する声が少なくない。その理由を考察してみると、「天一」の特異な立ち位置に加え、SNS時代の「炎上プロセス」が見えてきた。 

 

■経緯説明と謝罪 

 

 公式発表や報道によると、2025年8月24日に「天下一品」新京極三条店(京都市中京区)で提供された商品に、異物が混入していた。 

 

 客が食事中に気付いて、従業員に申告。確認したところ、体長1センチほどのゴキブリの死骸と判明したという。なお、店側が返金を申し出たが、客は断ったという。 

 

 その後、新京極三条店は9月2日まで営業を続け、害虫駆除を経て、9月3日に保健所へ報告。翌日に店舗への立ち入り調査が行われた。 

 

 この事案について、FC本部である天一食品商事は9月8日、公式サイトで「異物(害虫)」をめぐる経緯を説明し、謝罪した。新京極三条店とともに、同じFC企業が運営する河原町三条店も営業停止。保健所による指導のもと原因調査と衛生管理体制を見直したほか、全店舗に衛生管理徹底の指示と、再発防止策の強化を行ったとした。 

 

 人気ラーメンチェーンでの害虫混入とあって、SNSでは注目を集めた。一方で「飲食店において、害虫は完全には防げない」「仕方ない面もある」といった、擁護寄りの反応は少なくない。また、自ら公表したとして、その姿勢が誠実であると称賛する声も出ている。 

 

 しかしながら、経緯だけをなぞって見ると、個人的には若干の違和感を覚える。企業不祥事のパターンからすると、「対応が遅すぎる」からだ。報道によると、保健所への報告は発生10日後で、その前日まで営業を続けていたという。 

 

■なぜ擁護の声が多いのか 

 

 ゴキブリといえば、「1匹いたら100匹いる」と言われるほどの生命力や繁殖力がある。にもかかわらず、1週間以上にわたって、公表も営業停止もされなかった。そう考えると、一般的には対応の遅さが批判されるのだが、先述のように、なぜか温かい声が目立っている。 

 

 

 飲食チェーンでの害虫・害獣の混入は、起こるたびにSNS上で拡散され、運営企業がバッシングを浴びる。2025年3月には、牛丼チェーン「すき家」の店舗で、商品にネズミの死骸が混入していたと話題に。1月の事案発生から約2カ月空いていたことも、消費者の疑念を招く結果となった。 

 

 では、どうして「天一」には、温かな声が寄せられているのか。その要因は大きく、(1)他社で替えが利くか、(2)FC店舗での不祥事ゆえに本部責任が少ない、(3)拡散の“発信地”が当事者でなかったこと、の3つあると考えている。 

 

 まずは「他社で替えが利くか」である。すき家を例に挙げると、同様の牛丼チェーン店は、複数ある。店舗展開においても、いずれも全国規模のため、極端な話を言えば「すき家でなくても代替できる」と考える人は少なくないだろう。 

 

 しかしながら、天下一品は唯一無二の存在だ。 

 

 前もって言っておくと、筆者も天下一品の「こってりラーメン」が大好きだ。京都にある総本店も訪れたことがあるほど「それなりのファン」であり、原稿を書いている今すぐにでも、残ったスープにごはんを入れて、雑炊のようにして食べたい。それくらい、他社の商品では替えが利かない存在だ。 

 

 ラーメンは中毒性があると言われているが、それでもここまでの支持層を抱えるのは、天下一品か二郎(系)か……と思えるほど。よく「天一と二郎はラーメンではない」といった評価もあるが、まさにその通りで、まったく別ジャンルの料理として扱われている。 

 

 一方で、すき家のような牛丼チェーン店は、競合各社と味の違いはもちろんあるが、「ここでしか味わえないグルメ体験」とまでは思われていない点が大きい。結果的に「もし“すき家”がなくても、吉野家や松屋が残っていればいい」と感じさせてしまっていることは否めないだろう。 

 

■FC店舗のため本部の責任は少ない、とされた 

 

 続いての擁護要因は、FC店舗での不祥事ゆえに、本部の責任が少ないことだ。「すき家」では「食の安全や品質を徹底して管理するため、そのすべてを直営で運営」(公式サイトより)しており、ネズミ混入も直営店舗でのことだった。一般的にFC店舗よりも、直営店の方が、グリップが効きやすいとされる。だからこそ、しっかり衛生管理できていなかった責任が、より大きくなっていた。 

 

 

 一方、今回のゴキブリ混入が起きたのは、FC店舗だった。結果的に保健所報告や、営業停止が遅くなっても「あくまでFC側の初動が遅れたことに問題があり、本部は巻き込まれただけだ」といった見方ができる。 

 

 当然ながら、本部にも連帯責任はある。FC店舗であろうと、直営店であろうと、客からすれば関係ない。同じ看板を掲げている以上は、「そのブランド」とみなされる。天下一品では先日、まさにこの構図のもとで臆測が広がっていた。 

 

 2025年初夏、関東を中心とした一部FC店舗が一斉に閉店し、FC側が独自で立ち上げた新ブランド店舗に転換された。 

 

 そして「一斉閉店」というキャッチーなフレーズが、ひとり歩きした結果、「背景には経営不振があったのではないか」といったウワサが出回った。 

 

■拡散の“発信地”が当事者でなかった 

 

 こうした流言飛語が、イメージ戦略上、看過できなくなったのか、天下一品は9月4日に、同時閉店をめぐる経営不振の事実はなく、「該当店舗はいずれもフランチャイズ加盟店様との契約期間満了に伴う、予定通りの閉店でございます」との声明を発表している。 

 

 そして、延焼を抑えられた3つ目の要素は、「拡散の“発信地”が当事者でなかったこと」だ。SNSの普及につれて、客と店とのトラブルを“暴露”する投稿は増加した。 

 

 その理由は「店の対応に納得がいかなかったため」「多くの人が知るべきだと感じたから」「共感が欲しかった」など多々考えられるが、いずれにせよ、告発ツールとしての存在感は増している。 

 

 すき家の事例では、Googleマップのクチコミ投稿が、表沙汰になるきっかけとなった。写真付きのレビューで、ネズミの死骸が混入していたと報告。あわせて保健所と本社に連絡したと書き添えられていた。投稿直後は話題にならなかったが、2カ月後に拡散され、燃え広がることになる。 

 

 SNSの功罪としては、「ビジュアルが伝わりやすい」こともある。みそ汁の中にねずみが入っている写真は、それ単体でも強いインパクトを持つ。だからこそ、GoogleマップからXなどに転載され、注目を集めた。 

 

■炎上を避けた最大の功労者 

 

 しかしながら、天下一品のケースは、客によるSNS投稿で広がったわけでなく、報道ベースで伝えられた。そこには写真も添えられず、客による状況描写も書かれていない。つまり、極めて抽象化された“事実”のみが届く。 

 

 

 そうなれば、光景を想像することはできるが、やはり「実物の衝撃」よりは、いくぶん軽減された印象になる。同じ混入事案でも、受け止め方が異なる背景には、こうした要素もあるだろう。 

 

 また、すき家の場合は「SNS投稿と保健所・本社の連絡」が、ほぼ同時だったが、両者にタイムラグがある場合もある。はなから「どうせ誠実な対応は取ってくれないだろう」と考える、もしくは「コールセンターに連絡したが状況が打開しなかった」といった理由から、本社や保健所が把握するよりも前に、SNS投稿されることもある。その場合は、拡散・炎上して初めて、企業側が事態を把握することになる。当然ながら、そのぶん初動が遅くなり、沈静化もしにくくなってしまう。 

 

 つまり、天下一品が炎上を避けた最大の功労者は、SNSで暴露せず、返金も拒んだとされる客と言える。「その場限りの出来事」として処理したことで、イメージダウンを最小限に抑えられた。そう考えると、客を称賛することはあっても、企業側を擁護するのは、どこか筋違いに思えてしまうのだ。 

 

城戸 譲 :ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー 

 

 

 
 

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